共同利用型共同研究

館蔵資料利用型

山科家旧蔵史料の収集作業による鎌倉期訴訟手続の研究

研究期間:2020年度

研究代表者 工藤 祐⼀(学習院大学大学院)
館内担当教員 田中 大喜(本館研究部 歴史研究系)

研究目的

 本研究の目的は、(1)鎌倉期の山科家旧蔵史料を収集し、文書目録を作成した上で、(2)同家領をめぐる紛争関連史料を抽出・分析することにより、紛争の実態や政治・社会動向から公武政権の訴訟手続構造を再検討することにある。

かつて山科家が所蔵していた膨大な史料群は、現在、国立歴史民俗博物館を含め、各研究機関等に分散して所蔵されている。しかし、同家旧蔵史料のうち、翻刻・刊行が進む旧蔵記録とは異なり、旧蔵文書については全体像を見通せる目録が作成されていない。

これまでに、未翻刻史料を用いて同家領の紛争を論じた貴重な研究成果もあげられてきたが、(1)旧蔵史料は部分的に紹介されるにとどまり、史料群の全体像や、そのなかでの紛争関連史料の位置づけは依然として未解明である。また、(2)紛争関連史料の分析でも、個別的・具体的な検討にとどまり、鎌倉期の訴訟手続構造の解明・一般化にあたって再検討を要する。そこで、本共同研究では、これらの成果と課題を踏まえ、次の2点を研究の軸に据えたい。

(1)鎌倉期の山科家旧蔵史料を、歴博所蔵分や館外所蔵分も含めて網羅的に収集し、文書目録を作成する。その上で、(2)目録化した紛争関連史料を史料群全体のなかに位置づけ、その上で、紛争の実態や政治・社会動向から、鎌倉期の朝廷訴訟における鎌倉幕府・六波羅探題の立場を構造的に解明する。

研究成果の要約

本研究の目的は、(1)鎌倉期の山科家旧蔵文書を網羅的に収集し、文書目録を作成すること、その上で、(2)同家領をめぐる紛争関連史料を抽出・分析することにより、紛争の実態や政治・社会動向から公武政権の訴訟手続構造を再検討することである。

この目的を達成するため、国立歴史民俗博物館をはじめ、各研究機関に所蔵される山科家旧蔵文書のうち、鎌倉時代の家領紛争にかかわるものを中心に調査をおこない、目録を作成した。その結果、(1)歴博以外に所蔵される山科家旧蔵文書について、これまで解明されてこなかった書誌学的な知見を獲得することができた。たとえば歴博所蔵分においては、旧所蔵者である田中教忠による外題が付され、表紙(見返し裏部分)には南北朝期に書かれたとおぼしい所収文書のリストが記載されている。一方、国立公文書館所蔵分では、歴博所蔵のものとおなじ部分に同筆と考えられる文書リストが記載されているものの、田中による外題や考証の痕跡は確認できない。このことは、旧蔵文書の伝来プロセスを考察する上で有益な情報と考えられる。

また、家領紛争にかかわる目録を踏まえつつ、内容の検討をおこなった。そして、(2)鎌倉時代中後期、とりわけ14世紀第2四半世紀以降における家領紛争の分析によって、鎌倉期の朝廷による裁判の歴史的特質について見通しを得ることができた。すなわち、先行研究では、持明院統と大覚寺統との両統による皇位継承を背景として山科家一門も分裂し、それぞれの皇統に奉仕するようになったこと、そして家領紛争の裁許が、そのときどきの治天の君によって転変したことが指摘されてきた。しかし、本研究によって、そもそも係争物件が異なること、山科家一門の分立を前提として、本家職を有する持明院統・大覚寺統それぞれから所領を安堵されたこと、そして所領全体を管理・処分できる「惣領」の地位をめぐる争いが当該紛争の本質だったことが明らかとなった。また、朝廷裁判における鎌倉幕府の位置づけについても再検討の余地があることを指摘した。