共同利用型共同研究

館蔵資料利用型

「棟梁鈴木家文書」図面類による建築物の復元的研究

研究期間:2020年度

研究代表者 小粥 祐子(東京都公文書館)
館内担当教員 大久保 純一(本館研究部 情報資料研究系)

研究目的

本研究は、当館蔵「棟梁鈴木家資料」に収められた図面群(約72点)のうち、主に江戸時代の図面を対象としている。

「棟梁鈴木家資料」は江戸時代末期から明治時代初期に、幕府と明治政府の公共建築の工事を現場で仕切った幕府支配御屋根方棟梁・鈴木家が所持していたものである。「棟梁鈴木家資料」に収められた図面種類は平面図・石方絵図・屋根伏図が主である。これまでの研究では、江戸時代の、特に上層階級の建物に関する図面群の場合、平面図とともに、立面と断面を併記した建地割図、矩計図も含まれることが多い。こうしたことから、図面に関する研究も平面図・建地割図・矩計図に特化してきた。

一方、同図面群には、石方絵図という、これまでの図面研究ではあまり見られない特殊な図面がある。石方絵図は、江戸時代末期の江戸城二丸御殿のものであるが、土木の専門用語とともにあまり馴染みのない記号が図上に散見される。また「石」に関しては宝塔を一段毎に切り離してパースをつけて引いた図面などもあり、これまでの研究ではあまり指摘されていない貴重な図面である。

また、「棟梁鈴木家資料」には図面の他に、文書群があり、歴史学の工藤航平氏により解読・研究が進められている[2019年度共同利用型共同研究:「棟梁鈴木家文書」にみる幕府小普請方支配御屋根方の職務]。そこで、工藤氏の研究成果をもとに図面を見直すことにより、これまでの建築史研究では指摘されていなかった新たな点が見いだせるのではないかとも考えている。

以上のことから、「棟梁鈴木家資料」図面群のうち、主に江戸時代の図面について、実寸を縮少、あるいは実際の図面寸法に忠実に引き直すことにより建造物を実際に建てるという視点で捉えなおし、かつ、文書群の研究成果と照合することにより当該図面群の用途について明らかにしたい。

研究成果の要約

本研究の目的は、「棟梁鈴木家資料」に収められた図面群から、江戸時代の図面を用いて建物を立体的に明らかにすることである。

まず、当館蔵「棟梁鈴木家資料」に収められた図面群を用いて江戸城内に建てられた本丸・西丸・二丸御殿大奥向の長局を三次元に復元することが可能な図面を選別した。その結果、本丸御殿大奥長局平面図8点を本研究の対象史料とすることとした。次に、これら図面の年代を比定した。次に、長局の平面構成を確認した。一般的に長局は2階建てであることが知られているが、「棟梁鈴木家資料」所収の長局図目には2階の平面が記されていない。そこで、東京都立中央図書館蔵の江戸城関連図面を参照しながら2階建ての構造について復元を試みた。

さらに、江戸城に関連する作事関連文書を調査した結果、長局の採光について図面上で検討する必要があるとわかった。長局は棟割長屋のようになっていて、一つ一つの住戸が南北に長い鰻の寝床のような間取りになっている。開口部は南側と北側にしかなく一見すると採光が取りにくく感じる。図面を見直した結果、長局と長局の間に広い中庭を設けたり、各局の屋根を一棟で掛けるのではなく、各戸の境に屋根が掛からない「雨落ち」を設けることで採光に配慮した平面計画がなされていることを再確認した。これによって屋根の掛け方も復元することができた。

「棟梁鈴木家資料」は文書群もあり、工藤航平氏と岩淵令治氏によって解読と分析が進められている。コロナ禍による緊急事態宣言が発出されたため、対面では実施出来なかったが、ZOOMを用いた研究会を2回実施し情報交換を行った。