基幹研究

近代日本社会の形成・展開についての学際的・国際的研究

近代日本における産業・労働の展開とジェンダー

研究期間:2019年度~2021年度

  氏名(所属/専門分野/分担課題)
研究代表者 吉井 文美
(本館研究部/明治維新史/国際関係からみるジェンダー)
研究組織 谷本 雅之
(東京大学大学院/日本経済史/在来産業における女性労働)
長 志珠絵
(神戸大学大学院/日本近現代史/近代社会のジェンダー意識)
松沢 裕作
(慶應義塾大学/日本近現代史/近代社会のジェンダーと労働)
廣川 和花
(専修大学/日本近現代史/近代社会のジェンダーと医療)
野依 智子
(福岡女子大学/日本近代史/石炭産業におけるジェンダー)
倉敷 伸子
(四国学院大学/ジェンダー史/オーラル・ヒストリーとジェンダー)
満薗 勇
(北海道大学大学院/日本経済史/消費社会とジェンダー)
柴崎 茂光
(東京大学大学院/農業経済/林業経済と観光)
横山 百合子
(本館名誉教授/明治維新史/明治維新期のジェンダー変容)
青木 隆浩
(本館研究部/民俗学/職人から近代工業労働者へ)
樋浦 郷子
(本館研究部/近代教育史/労働者の教育とジェンダー)

研究目的

近代日本は、明治維新以降、新たに成立した国家体制と国際環境のもとで急速に近代化を遂げてきた。同時に、明治維新に続く産業革命、20世紀の重工業化にいたる過程は、産業および労働分野でのジェンダーの構築を不可避的に伴うものであった。本研究は、このような産業と労働という経済的側面から近代日本におけるジェンダーの構築と変容の過程を明らかにすることを目的とする。研究にあたっては、近世からの移行、および現代社会への連接を意識し、対象とする時期を19世紀中葉から高度成長期までと比較的長く設定し、産業化にともなう男女の労働の変容をジェンダーの視点から捉え直し、新たな歴史像の構築を目指したい。

研究にあたっては、以下の3つの具体的課題を設定し分析を進める。

(1)近代日本の産業化の進展は、小経営としての独立を目指す近世以来の職人的な労働を工場労働者としての労働に変え、親方・弟子関係のような労働と生活が即自的に一体化していた近世的職人の世界を解体していくところから始まった。本研究では、このような近世から近代への移行を重視し、その過程を具体的に明らかにすると同時に、そこでの変化がいかなるジェンダーを作りだし、またジェンダーが労働のあり方に作用していくのかを、男性労働の実態に着目して解明する。

(2)工業分野の変化とならんで、農業、林業、漁業などの第一次産業、商業、観光業などの第三次産業における労働の変化と、そこでのジェンダー構築の解明も重要な課題である。本研究においては、各共同研究員によるこれまでの研究成果を前提とし、在来産業と組み合わされた農業労働の実像や、産業革命以降、急速に発達する鉱山労働などにおける男女の労働実態とその変容について、さらなる動態的把握を目指す。また、林業や観光業といった、これまでジェンダー視点を含む研究蓄積の乏しい産業領域について、民俗学的成果も援用しつつ試行的分析を進め、第一次、第三次産業の近代化の過程とそこでのジェンダーの変容を明らかにしたい。
なお、近年、産業、労働の展開において、消費も大きな影響を及ぼすことが明らかにされてきており、本研究における諸産業・労働の実態とジェンダーの分析にあたっても、大衆消費社会の形成を意識しつつ取り組む。

(3)産業革命以降の紡績業をはじめとする繊維産業の進展のなかで、1920年代までは、男性労働者数を上回る女性工場労働者が労働市場に参入していたが、これらの女性労働力は、家族内の性別役割分業や家事労働のあり方と密接不可分の関係を有していた。同時に、それらの女性労働力の創出とその展開過程においては、国家の産業・労働政策が大きな意味を持ち、家事労働や性別役割分業意識にも影響を与えたと考えられる。また、そのような政策策定の場においては、おもに厚生・労働部門の官僚が調査・立案・遂行にあたったが、それらの官僚には女性も含まれている。これは、歴史的に政治空間から排除されてきた女性の新たな社会進出の一例であり、広い意味での女性労働とみることができよう。しかし、その具体的な活動実態はいまだ十分に検討されてはいない。本研究では、三つ目の課題として、女性労働をめぐる政策動向とそれを担った女性官僚に着目し、女性労働者や企業、さらに社会運動家などの動きも視野に入れつつ、実態と政策の双方向的な視点にたって労働市場における女性労働の特質を把握することを目指す。その際、文献調査、フィールドワークのほか、オーラル・ヒストリーの手法による現代からの遡及的分析も併用して分析を深めたい。

以上、三つの課題の解明をとおして、近代日本における産業・労働の展開をジェンダー視点から再検討し、近代の経済社会をめぐる新たな歴史像を描き出すことをめざす。