基盤研究

館蔵資料型共同研究

奈良暦師吉川家文書を中心とする暦・陰陽道研究の史料基盤形成

研究期間:2018年度~2020年度

  氏名(所属/専門分野/分担課題)
研究代表者 梅田 千尋(京都女子大学/日本近世史・陰陽道史/総括・近世の暦)
研究組織 林 淳(愛知学院大学/宗教学/暦と宗教)
細井 浩志(活水女子大学/古代史/古代の暦)
赤澤 春彦(摂南大学/日本中世史/中世の暦)
遠藤 珠紀(東京大学史料編さん所/日本中世史/朝廷と暦)
吉田 栄治郎((公財)郡山城史跡 柳沢文庫保存会/部落史/奈良町と暦師)
小田 真裕(船橋市郷土資料館/日本近世史/近世近代の暦)
松山 由布子(日本学術振興会/説話文学/陰陽道祭文の比較分析)
下村 育世(東洋大学/宗教学/近代の暦の分析)
横山 百合子(本館研究部/日本近世史/暦師と身分編制)
田中 大喜(本館研究部/日本中世史/武士団と暦)
後藤 真(本館研究部/人文情報学・情報歴史学/暦・陰陽道資料の高度利用)
小池 淳一(本館研究部/民俗学・信仰史/暦と民俗)

研究目的

本研究では、奈良暦師吉川家文書を中心に、近世の頒暦と陰陽道に関わる史料について研究を進め、資料活用の基盤を整備すると同時に、これまでほとんど活用されてこなかったこれらの資料群を通して、古代以降の暦制の展開をふまえた頒暦の通史的理解を深化させることを目的とする。なお、その際、頒暦が陰陽道の実践とも深く関わっていたことを重視し、陰陽道史料との関連もふまえて民俗文化・生活文化における暦の位置づけを探る。

陰陽道は好事家的関心や安部晴明ブームなどといった学問的な裏付けが希薄なかたちでの注目が20年以上続いている。本研究は確実に前近代における陰陽道の一部を成していた暦を切り口に、これまでの陰陽道研究の状況を克服し、新しい段階へと押し上げるための試みである。近年は研究者の任意団体である「陰陽道史研究の会」が組織され、学術的に陰陽道を正面から取りあげようとする機運も高まっている。そのなかで吉川家文書の分析および位置づけに対する期待は大きなものがあるといえる。

各時代の暦と陰陽道に関する歴史学的な理解に民俗学・生活文化からの視点を加えて吉川家文書をはじめとする陰陽道史料群を解析することで陰陽道の社会史的な様相を実証的に明らかにすることが可能となる。さらに陰陽師組織や暦の製作・流布の過程にも目配りすることで、日本列島における時間感覚やその表象システムについての検討も可能となる。

奈良暦師吉川家文書は、近世奈良町の暦師・陰陽師であった吉川家に旧蔵された文書・典籍の一括資料である。内容は奈良暦およびその原本になった写本暦、さらに暦師・陰陽師としての活動を示すもの、陰陽道関係の諸典籍類、祭文、祝詞、次第書などが大半を占める、総点数900点をこえる史料群である。最大の特色は、地方暦の刊行と陰陽師としての活動に関わる史料がともに残存し、双方の密接な関連を解明しうる点にある。とくに、陰陽道祭祀に関わる祭文のなかには、中世祭祀文書の形式を残す物も見られ、中近世移行期の陰陽道を解明する手がかりとなろう。