基盤研究

課題設定型共同研究

高度経済成長と食生活の変化

研究期間:2018年度~2020年度

  氏名
(所属/専門分野/分担課題)
研究代表者

宮内 貴久
(お茶の水女子大学基幹研究院/民俗学/家電製品の普及と食生活の変化・研究総括)

研究組織

赤松 利恵
(お茶の水女子大学基幹研究院/栄養教育学/学校給食と食育を中心とした子供の食の実態)
小椋 純一
(京都精華大学/植生景観/民俗資料緊急調査の追跡調査・植生景観の変化と山菜・茸の食の変化)
新谷 尚紀
(本館名誉教授/民俗学/民俗資料緊急調査の追跡調査・食生活の変化の動態的把握)
武井 基晃
(筑波大学/民俗学/沖縄の日常食と行事食の変化)
戸邉 優美
(埼玉県立歴史と民俗の博物館/民俗学/民俗資料緊急調査の追跡調査・女性と食の変化)
東四柳 祥子
(梅花女子大学/家政学/近代の料理書と食文化)
村瀬 敬子
(佛教大学/歴史社会学/メディア情報と食文化)
関沢 まゆみ
(本館研究部/民俗学/民俗資料緊急調査の集成作成及び追跡調査・米獣肉野菜の利用の変化)

研究目的

食をめぐる民俗学の研究の停滞

衣食住をめぐる研究は、民俗学のなかでもしばらく研究の停滞が指摘されてきている(宮内貴久「衣食住-生活感なき衣食住研究-」『日本民俗学』第262号、日本民俗学会、2010年ほか)。また、民俗学の食の研究では、ハレとケの食、アワやヒエを常食としていた頃の食生活史、神饌や正月の餅などの儀礼食とその信仰的意味・象徴性などが中心で、現代社会における変化をとらえる視点が十分でないと指摘されてきた(田中宣一・松崎憲三編『食の昭和文化史』おうふう、1995年)。このような研究の現状を認識し、本研究では高度経済成長期(1955-73年)とその前後から現在に至る食の分野の研究資料情報の収集調査と分析によって研究の活性化をはかることを目的とする。

高度経済成長期は、家電製品が都市部の団地世帯から早く、やがて農村部へと普及し(1960年版『厚生白書』によれば「都市部ではテレビ44.7%、電気洗濯機40.7%、電気釜31.0%であるのに対して、農村部では、いずれもまだ約10%程度にすぎず、都市部の方が圧倒的に早かった」とある)、生活様式の合理化、洋風化が進んでいった時期である。かつて民俗調査の主たる研究対象であった民具ではなく、家電製品が生活の中心となっていき、冷蔵庫や電気炊飯器、ガスコンロ、トースター、ホットプレート、ミキサー等々の普及は、食品の冷蔵保存や調理の簡便化と新しい料理の普及にもつながった。またテレビによる新しい料理の紹介なども行われるようになり、食生活の洋風化や「冷たいおいしさ」の浸透など大きく変化した。生活の変化に関して、生活改善普及事業に着目する研究があるが、家電製品の普及や生活様式の洋風化は生活改善運動の結果というよりも、NHK「きょうの料理」に代表される料理番組や各種婦人雑誌などメディア、それに加えてアメリカのホームドラマなどの影響のほうが大きかったのではないかとも推測される。1960年版の『厚生白書』も指摘しているように、都市部と農村部との生活変化の差が大きかったのも特徴の一つである。民俗学の瀬川清子も1957年当時、種々な麺類や団子が都市の人には臨時のカワリモノ、珍しいものであったが、同じ頃の農村で日常食の一部に団子や麺類を用いる地方があった(『食制の歴史』東京書房社、1985年)と指摘し、家政学の江原絢子『家庭料理の近代』(吉川弘文館、2012年)は、おかずという考え方は近代以降、都市の裕福な家庭から普及したと述べており、食生活の変化をとらえるうえであらためて都市と農村とを対比させる視点が重要であるといえる。また、1954年の学校給食法の公布で「パン・肉食・牛乳」への適応が図られたが、その後給食に関する政策・制度の変遷と都市と農村の子供の食の実態をみていくことも必要である。以上、本研究では、この時代に特徴的な食生活の変化について、(1)冷蔵庫やガスコンロ、電気炊飯器などの台所用品の普及とそれによる食の変化、(2)インスタント食品の利用や外食、中食の購入など食の外部化、日常食から儀礼食まで手作りから購入へという変化、(3)学校給食と子供の食の実態(おやつの変化を含む)、を中心に研究を推進していく。そして資料蓄積の観点から、(4)1963~65年以降に現文化庁文化財部によって各都道府県を対象に実施された「民俗資料緊急調査」カードの所在の確認と食に関する資料情報のDB作成を基礎作業とし、検討のうえ調査情報の追跡調査を行う。

研究会等

概要

日程:2021年1月24日(日)
場所:国立歴史民俗博物館(Zoom)

内容

13:00~16:30

『研究報告』(特集号)の編集打ち合わせ

宮内貴久「福岡県緊急民俗調査からみた魚食」
戸邉優美「商品としての日常食-熊本県湯前町の下村婦人会における漬物の商品化を めぐって-」

共同研究員による論文構想の発表及び補足資料の説明などを行ない、それに対する意見交換を行なった。

概要

日程:2020年11月21日(土)
場所:国立歴史民俗博物館(Zoom)

内容

10:00~11:00 赤松利恵・渡邉紗矢「高度経済成長期の学校給食」
11:00~12:00 小椋純一「高度経済成長期とマツタケ」
13:30~14:30 村瀬敬子「郷土料理/郷土食とツーリズム-『主婦の友』を中心にして-」
14:30~15:30 戸邉優美「民俗資料緊急調査票と食の分布-埼玉県における麦食とその変化について-」
15:45~17:00 東四柳祥子「家族の食事空間の変遷と時代的意義-ちゃぶ台からダイニングキッチンへ-」
17:00~17:30 事務連絡

概要

日程:2020年9月19日(土)
場所:国立歴史民俗博物館(Zoom)

内容

10:00~11:00 宮内貴久「冷蔵庫の普及と食生活の変化-福岡市の事例から-」
11:00~12:00 武井基晃「沖縄の食生活の変化と注目点」
13:00~14:00 関沢まゆみ「弁当の歴史と民俗-生活様式の変化の中で-」
14:00~15:00 新谷尚紀「広島県芸北地方の食生活の変化」
15:00~16:00 事務連絡『研究報告』の構成について

概要

日程:2019年3月17日(日)
場所:お茶の水女子大学

内容

13:30~13:35 宮内貴久・赤松利恵 挨拶と紹介
13:35~15:00 Betty T.Izumi(オレゴン健康科学大学ポートランド州立大学・社会健康医学研究科・准教授) “From peanut butter sandwiches to French fries:How the political,,economic,and social climate of the years before and during 1955 and 1973 shaped the U.S.National School Lunch Program”
15:10~16:00 赤松利恵「高度経済成長期の学校給食とそれから」
16:00~17:00 宮内貴久「1972年度の福岡市小学校給食の実態-福岡市弥栄小学校の事例から-」

「日本の学校給食-戦後から今-」というテーマのもと、3名の発表とそれぞれに対する質疑が行われ、米国全国学校給食事業(N.S.L.P.)と日本の学校給食はいずれも貧困層の子供の食事支援事業として始まり、戦後法律として制定されたが、アメリカの特徴は1955~73年にベビーブーマーが学校給食を一大ビジネスに変貌させたことであった。赤松による学校給食法と給食の特徴、宮内による給食の献立事例などと比較し、給食を休憩時間とみなすアメリカと、教育と位置づける日本との相違などが指摘された。

概要

日程:2018年9月16日(日)
場所:お茶の水女子大学

内容

13:00~14:30 武井基晃 『沖縄の民俗資料』にみる復帰前の一日の食事と、肉・魚
14:30~15:30 戸邉優美 埼玉県の資料調査票について
15:45~16:45 宮内貴久 高度経済成長期における食生活の変化-福岡市のスーパーと家計調査の出汁から-
16:45~17:00 各位の進捗報告、事務連絡

民俗資料緊急調査事業で沖縄県(昭和40年代)と埼玉県(昭和50年代)の例が紹介され、その記述内容は高度経済成長期以前の情報でありかつ大正期までの情報を基本にしたものであることがわかった。沖縄の調査情報からは、肉も魚も日常的には食していなかった実態が注目され、現在の沖縄の豚肉食などのイメージとの差、変化の要因等が議論された。また調理における出汁の地域差はよく指摘されているが、『家計調査』(総務省)から昆布、鰹節、削り節などの購入の数値と福岡市内の消費者への聞き取りの中間報告がなされた。統計的な数値分析と実態調査で得られる情報とをどのように併せ分析していくのが効果的かという問題について議論された。

概要

日程:2018年4月22日(日) 13:00~17:00
場所:お茶の水女子大学

内容
共同研究員各位の自己紹介と研究代表の宮内氏による主旨説明が行われた。そのなかで、本共同研究で基礎資料として予定している、昭和30年代の民俗資料緊急調査の内容と活用の可能性、及び『家計調査年報』の数値分析例(1963年、1973年、2015年における魚肉、パン、野菜など)から、食生活の平準化と地域差について解説がなされ、統計の利用にあたって都市部と郡部(農村)とのそれぞれの実態をどのように捉えていくか、また政策との関連などをめぐって意見交換が行われた。