基盤研究

多元的フィールド解析研究

保護地域制度が周辺地域の生業変化や資源化に及ぼす影響-持続可能な地域発展における規制のあり方-

研究期間:平成25年度~平成27年度

研究代表者 柴崎 茂光 (本館研究部)
研究組織

伊藤 幸男 (岩手大学)
奥 敬一 (富山大学)
奥山 洋一郎 (鹿児島大学)
金澤 悠介 (岩手県立大学)
上机 美穂 (札幌大学)
齋藤 暖生 (東京大学大学院)
茅野 恒秀 (信州大学)
原田 一宏 (名古屋大学大学院)
深町 加津枝 (京都大学大学院)
町田 哲 (鳴門教育大学大学院)
八巻 一成 (森林総合研究所北海道支所)
渡部 鮎美 (日本学術振興会)
西谷 大 (本館研究部)
内田 順子 (本館研究部)
青木 隆浩 (本館研究部)
松田 睦彦 (本館研究部)
川村 清志 (本館研究部)
葉山 茂 (本館研究部)

研究目的

保護地域とは、『自然・文化的資源を保護するために法的にもしくは他の効果的手法により管理される地域』と定義される。とりわけ近年は、世界文化遺産・自然遺産制度など、保護地域の指定に対する世論の関心が高まっている。このほかにも、国有林、自然公園、自然環境保全法や文化財保護法に基づく地域指定、鳥獣保護区・保護水面など、ある一つの地域に対しても多様な保護地域の指定が重層的になされている。

しかし、保護地域の指定とは新たな規制が課せられることにほかならず、これまで地域社会が継承してきた多様な価値が切り捨てられ、その周辺部との関係性を分断するといったコンフリクトを生じさせる可能性がある。具体的には、保護地域の指定によって、狩猟活動や山菜・キノコ類の採取、保護地域内の資源を活用した伝統儀礼が、法的もしくは実質的に制限を受ける可能性がある。また、保護地域に指定されている大半の場所では、かつて鉱山・林業開発され、現在は廃坑、廃村化した場所が存在するが、保護地域であるがゆえにそうした記憶がさらに速いペースで失われる運命にあることにも留意する必要がある。

その一方で、保護地域の指定をきっかけに、地域内の文化的資源の新たな価値づけや、さらに進んだ場合には観光資源化や、保護地域に関連するブランド商品の開発という動きが起きる可能性がある。実際にイギリスやイタリアなどの国立公園では、当該地域の「ブランディング」を積極的に進めることが国立公園政策の主流になっている。日本においても、エコツーリズムやグリーンツーリズム、ジオツーリズムといわれる「もう一つの観光」をベースにしたブランディングの動きが一部の保護地域で興りはじめたが、一方で「真正性」の観点からそのあり方に疑問を投げかける声が出ている。

しかしながら、上述した事象に関しては、フィールドワークに基づく実証研究や、政策研究はまだ十分なされておらず、さらなる研究蓄積が不可欠な状況といえる。

そこで、本研究では、日本国内の農山漁村を主な対象として、民俗学・考古学・歴史学・経済学・社会学などの視点を学際的に用いながら、保護地域制度が周辺地域の生業変化や資源化に及ぼす影響について多面的に捉えることを目的とする。具体的には、保護地域の価値の歴史的な経緯を踏まえつつ、①規制によるコンフリクト発生の構造とその変遷を把握し、②ブランド化の展開とそれが内包する課題を明らかにする。さらに、③地域住民の視点からみた、保護地域制度のあり方について改善策などを提案してもらう。