基盤研究

展示型共同研究

中世の技術と職人に関する総合的研究

研究期間:平成22年度~平成24年度

研究代表者 村木 二郎 (本館・研究部)
研究組織 大澤 研一 (大阪歴史博物館)
川口 洋平 (学識経験者)
栗木 崇 (熱海市教育委員会)
佐伯 弘次 (九州大学大学院)
佐々木 健策 (小田原市文化課)
鈴木 康之 (広島県立歴史博物館)
関 周一 (つくば国際大学)
坪根 伸也 (大分市教育委員会)
中島 圭一 (慶應義塾大学)
福島 金治 (愛知学院大学)
四柳 嘉章 (石川県輪島漆芸美術館)
小野 正敏 (人間文化研究機構本部)
高橋 一樹 (武蔵大学、平成23年まで本館・研究部)
齋藤 努 (本館・研究部)
仁藤 敦史 (本館・研究部)
日高 薫 (本館・研究部)
松田 睦彦 (本館・研究部)

研究目的

職人技とも呼ばれる日本の伝統技術は、中世に大きく花開いた。海外へ輸出される貿易品目にも工芸品が名を連ね、銅鏡のように中国や朝鮮半島で日本製品のコピーが作られるまでに至る。そういった技術を支えた職人たちの具体的な姿が、次第に明らかになりつつある。新潟県新発田市北沢遺跡では、陶器窯と製鉄炉、炭焼窯、杣場遺構が一緒に見つかっている。茨城県東海村の村松白根遺跡は大規模な製塩遺跡であるが、遺物から骨細工や鋳物師の存在も知られ、複合的な生産状況が窺える。また、博多や京都、鎌倉などの都市部のほか、港や宿でも生産関連の遺跡や遺物が多数発見され、その蓄積は膨大なものである。さらに、大分市豊後府内遺跡や長崎の遺跡群からは、「キリシタン関連遺物」を中心に海外の技術が多数見受けられる。外来技術が果たしたインパクトとその受容の経過は、技術の転換をリアルに示してくれる。しかし、こういった事例は個別に検討されてきたものの、なかなか全体像を把握するまでには至っていない。そこで、いくつかのテーマにそって整理をし、研究を進めたい。

まず、「時代を作った技術」として、巨大石塔造立、鎌倉大仏鋳造、安土城築城など時代のモニュメントが示す技術の集約を考える。鉄砲のように最先端技術がすぐに反映される道具や、技術の粋を集めた美術工芸品、外来技術もその対象となる。これらは時代のエネルギーの結晶であり、それぞれから技術の到達点を明らかにしたい。

次に、「日常生活を変えた技術」として、焼物、漆器、木製品、石製品やそれらを加工する道具についての基礎的な研究をおこなう。古代以降の技術転換によって道具が普遍化し、中世の生活変化をもたらした。また日常生活道具ゆえに、それらの生産も消費者の動向を直接反映してさらに変化してゆく。陶器が一般消費者に浸透すると、いかに安くて大量に生産するか工夫を重ね、窯の構造が大きく革新した。同様のことは石臼にも言えそうで、河原の転石を利用して簡便に仕上げるものが登場する。その分、製品が粗悪化するため、道具の差別化も進んだと考えられる。時代性とも合わせ追究していきたい。

また、「技術を担った人々」として、町、村、海山の生産状況を具体的に検証し、技術者集団と権力の関係にまで踏み込んで考える。技術者の背後にある権力のあり方もまた、中世の特徴である。寺院から武家権力への権力交替、自立した職人の存在など、新たな遺跡の発見を踏まえて従来の文献史学との協業を具体的に大いに更新することも可能であろう。

以上のようにして、文献・考古・民俗・美術・分析科学などの多視点からの検討を重ね、新しい中世の技術史像を描きたい。そして、それらの成果を展示で公開したい。