共同研究:平田篤胤関係資料の漢籍受容に関する総合的研究

歴博共同研究

基盤研究

館蔵資料型

平田篤胤関係資料の漢籍受容に関する総合的研究

  氏名(所属/専門分野/分担課題)
研究代表者 髙田 宗平(中央大学文学部/日本漢籍受容史・漢学史/日本漢籍受容史からの篤胤の漢籍受容の検討)
研究組織 伊藤 裕水(山口大学人文学部/中国思想史/術数学からの篤胤の易学の検討)
武田 時昌(関西医療大学保健医療学部/中国科学思想史/術数学・医学史からの篤胤の暦学・易学・医道の検討)
大形 徹(立命館大学衣笠総合研究機構/中国哲学/神仙思想・道教、道教医学からの篤胤の玄学の検討)
頼 思妤(台湾中央研究院民族学研究所/東アジア思想史、中国思想史/神仙思想・道教、道教医学からの篤胤の玄学の検討)
浦山 きか(東北大学学術資源研究公開センター/中国医史学、日本医史学/道教医学からの篤胤の医道の検討)
成 高雅(京都大学国際高等教育院/中国医史学、日本医史学/医史学からの篤胤の医道の検討)
水上 雅晴 (中央大学文学部/中国哲学、日本漢学/篤胤の漢籍本文の校勘、清朝考証学受容の検討)
長田 直子(山梨大学医学部/日本近世史・医療史/日本近世史・医療史における篤胤の医道の位置付けの検討)
陳 捷(東京大学大学院人文社会系研究科/日中書物交流史/近世古典学をめぐる人物交流の検討)
石橋 賢太(中央大学文学部/日本思想史/日本近世思想史における篤胤の位置付けの検討)
奈良場 勝(國學院大學栃木短期大学/日本近世易学思想史/日本近世易学からの篤胤の易学の検討
石井 行雄(学識経験者/国語学/篤胤の訓法の検討)
天野 真志(本館研究部/日本近世・近代史/篤胤人物研究)
工藤 航平(本館研究部/日本近世史/篤胤の蔵書の検討)

研究目的

本共同研究では、“平田篤胤の漢籍受容”という新たな視点から平田篤胤関係資料(以下、本資料群)へアプローチして調査・研究を進めることで、篤胤がどのような漢籍を利用し、その思想を形成したかを解明し、更にそれに伴う人物交流を明かにすることを目的とする。

貴館において本資料群の整理・調査研究が行われ、企画展示や研究報告の他、『平田篤胤関係資料目録』が公刊されたことで、平田篤胤研究の基盤が整備された。従来の篤胤に関する研究は、日本近世史・近代史、日本思想史、神道学の分野から、古道学(国学)にアプローチするのが主流である。このようなことから、篤胤の古道学については重厚な研究蓄積がある一方で、暦学・易学については殆ど未解明であり、僅かに玄学における道教理解が注目されているに過ぎない。例えば、篤胤の学問・思想の枠組みを現す資料として、本資料群の『道統礼式』(1-175)を挙げることができる。篤胤は本資料で、自身が伝授し得る学問分野として「古道学」「暦学」「易学」「軍学」「玄学」を示している。つまり古道学以外は漢籍由来であり、篤胤の学問・思想解明には漢籍利用の痕跡の分析・検討は不可欠であることがわかる。しかし、前述のように篤胤の学問について漢籍を基にしたものが含まれていることに注目する研究は殆どなく、前述の研究動向の中、適宜、研究課題に合わせて資料を抽出しているのが現状である。また、篤胤の漢籍受容に関する先行研究は『新修平田篤胤全集』本(以下、新修全集本)を基に検討されており、本資料群は用いられていない。以上のような研究動向に鑑みて、本資料群を総体的に把握することで、篤胤の思想・学問がどのような基盤から創出されたかを新たな視点で解明することができると考える。

本研究の目的は、研究資源として価値を有する本資料群を検討することにより、篤胤の思想形成過程のパラダイムを捉え直し、その思想の形成過程における漢籍受容の様相及び人物交流の解明することである。そして幕末期の知識人の思想形成について、漢籍受容に注目して調査・研究を行うとともに、先行研究を踏まえて総合的・復元的に検討することである。

研究代表者はこれまで日本古代中世の漢籍受容史や、漢籍関連資料の一部について研究を行い、また貴館の共同研究「廣橋家旧蔵文書を中心とする年号勘文資料の整理と研究」(2015~2017年度)等に共同研究員として参加した経験があり、更には近時『日本漢籍受容史―日本文化の基層―』(八木書店)を編集した。これらにおいて培った漢籍への総合的アプローチ方法を本資料群にも活用できると考える。

具体的には、以下の三つの研究課題を設定し、幕末期の篤胤をはじめ知識人の思想形成の実像を明らかにしたい。

①漢籍と漢籍に基づいた篤胤の著作の分析:篤胤は幼少期に朱子学者・医師の中山菁莪に儒学を、叔父に医術を学び、その後鍼医を生業としていた時期があり、その学統や生業に留意する必要がある。篤胤は医道に暦学・易学・玄学を援用している点も見られるため、医書の精緻な分析は、篤胤の思想形成を解明する上で重要である。本資料群の医道・暦学・易学・玄学に関する資料を調査・分析し、重要な資料に解題を記し基礎的検討を行った上で、分担課題と専門分野に基づく研究を進める。

➁篤胤の学問環境の解明:これまでの国学を中心とした人物交流ではなく、漢籍受容という視点を踏まえることで見えてくる、漢籍をめぐる篤胤の人物交流の実態について、多分野との協業のより多角的に解明する。

③篤胤関係資料のアーカイブズ学的研究と研究資源化:これまで殆ど研究で活用されてこなかった漢籍について、調査・研究での資料的価値の創出とともに、本資料群全体の中での位置付けを明らかにする。また主要資料のカラーデジタル撮影を行い、研究資源化を図ることで、本共同研究を終えた後も、様々に活用される途を模索したい。

以上の研究課題を通じて、平田篤胤における漢籍受容を学際的・総合的に検討し、幕末期の知識人の漢籍知の解明に資することが本研究の目的である。

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