共同研究:「地域アーカイブ」の形成過程と郷土史家の役割に関する総合的研究

歴博共同研究

基盤研究

課題設定型

「地域アーカイブ」の形成過程と郷土史家の役割に関する総合的研究

  氏名(所属/専門分野/分担課題)
研究代表者 小幡 圭祐(山形大学人文社会科学部/日本近代史/研究総括・地域アーカイブ構築)
研究組織 石黒 志保(山形大学人文社会科学部/日本中世史/林泉文庫・曳尾堂文庫の研究)
佐藤 琴(山形大学学士課程基盤教育院/日本美術史/地域アーカイブ構築)
新宮 学(山形大学/中国近世社会史/伊佐早謙「林泉文庫」の研究)
小林 文雄(山形県立米沢女子短期大学/日本近世史/豪農の文化的機能の研究)
宮腰 直人 (同志社女子大学/日本古典学/米沢・置賜地域の文芸資料の研究)
沢山 美果子(岡山大学/日本女性史/近世地域史料の再評価)
堀井 美里(合同会社AMANE/日本近世史/近世地域史料の保存と活用)
三上 喜孝(本館研究部/日本古代史/郷土史家のネットワークの研究)
天野 真志(本館研究部/日本近世・近代史/郷土史家による蒐集・保管の思想的背景)

研究目的

本研究は、地域のなかで重要性が認知された地域資料群=「地域アーカイブ」の収集・整理・保存・提供に関する「地域アーカイブズ学」の構築の第一歩として、「地域アーカイブ」の収集・保存の歴史的経緯を考察するとともに、その中における郷土史家の役割を検討するものである。

現在、急激な少子高齢化にともなう人口減少、あるいは大規模災害などによって地域の存続は危機に瀕している。しかし、地域に危機がもたらされているのは、何も現代だけにとどまらない。近世以前においては、支配者間の戦争が後を絶えず、近世においては、転封・改易などによって、支配者がおびただしく交代した。さらに、近代においては、中央集権国家が成立するとともに、職業選択の自由化により人口が流動化した。そのような社会の激変の中にあっても、各地域にはさまざまな経緯によって「地域アーカイブ」が残されてきている。本研究では、古代・中世において幾度の大規模戦争にさらされ、近世には頻繁に領主が交代するとともに非領国支配が行われ、近現代においては大規模火災や高度経済成長にともなう変化の著しかった山形県を事例として、地域に実際に残った、もしくは残らなかった「地域アーカイブ」の歴史的変遷を考察することで、「地域アーカイブ」の残存における通時的・時代的特質を明らかにしようとするものである。

また、本研究においては、「地域アーカイブ」の収集・保存における郷土史家に着目する。「地域アーカイブ」の収集は、史料保存機関や研究者、もしくは自治体のみが担い手であったわけではない。前近代において「地域アーカイブ」の保存・活用を担っていた藩校や藩の文庫が、近代になり解体されていく中で、史料の流出を防ぎ、また地域を基盤として活動を行った郷土史家の役割も見逃すことができない。彼らの活動の結実として県市町村史などが編纂され、それが現在の地域史の基盤になっているからである。

山形県においては、郷土史家の伊佐早謙(1858~1930)が収集した「林泉文庫」、経済学者で実業家の三浦新七(1877~1947)が収集した「三浦文庫文書」、豪農で知られた半沢久次郎為親(1770〜1856)が蔵書1万冊を誇る私設図書館として明治期に開設した「曳尾堂文庫」などが、激変する時代の中で「地域アーカイブ」の収集・保存に尽力してきたことが知られているものの、彼らがどのような思想で収集・保存活動を行ったのかは必ずしも明らかになっていない。また、彼らが収集・保存した「地域アーカイブ」も、時代の変遷の中で散逸・分散したケースが多く、現状が当時の状況を示しているとは必ずしも言えない状況にある。そこで、本研究においては、山形県で活躍した郷土史家の活動の具体相とその活動を支えた思想を検討することで、「地域アーカイブ」の収集・保存に果たした郷土史家の役割を解明する。さらに、彼らが収集・保存し、現在散逸した「地域アーカイブ」の構造の復元を行うことで、彼らの目指した「地域アーカイブ」像の実態を精緻に解明する。本研究は山形県の「地域アーカイブ」の構築過程や郷土史家の活動を研究対象とするが、他の地域においても汎用性が高いテーマだと思われる。これらをモデルケースとし、他の地域にも敷衍できるような「地域アーカイブ」像の構築をめざす。

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