共同研究:顔身体土器の通文化比較にみる身体・モノ認識

歴博共同研究

基盤研究

課題設定型

顔身体土器の通文化比較にみる身体・モノ認識

  氏名(所属/専門分野/分担課題)
研究代表者 中村 耕作(本館研究部/考古学/総括・縄文時代顔身体土器の検討)
研究組織 松本 直子(岡山大学文明動態学研究所/認知考古学/認知考古学的検討)
光本 順(岡山大学社会文化科学研究科/体表現の考古学/身体 的検討)
設楽 博己(東京大学/日本考古学/弥生時代顔身体土器の検討)
小林 青樹 (奈良大学文学部/象徴考古学/顔身体土器の象徴性の検討)
松本 雄一 (国立民族学博物館/南米考古学/アンデス形成期顔身体土器の検討)
渡部 森哉(南山大学人文学部/南米考古学/アンデスワリ顔身体土器の検討)
今泉 和也(明治大学/中米考古学/マヤ顔身体土器の検討)
今村 佳子(成城大学民俗学研究所/中国考古学/中国仰韶顔身体土器の検討)
高橋 龍三郎(学識経験者/民族考古学/現代パプワニューギニア顔身体土器の検討)
上野 祥史(本館研究部/日本・中国考古学/顔身体土器「不在」の検討)
松木 武彦(本館研究部/認知考古学/認知考古学的検討)

研究目的

近年、文化人類学を中心に、広義のモノ研究やその拡張としての身体論研究への関心が高まっており、多様な視点による認知考古学的研究も増えてきている。本研究は、「ヒトとモノとの身体象徴認識を介した関係性」を大きな目的として目指しつつ、具体的な基盤研究として、顔・身体装飾を持った各地の土器(以下、顔身体土器)を取り上げ、出現プロセスや形状・用途などを統一した視点で比較することによって、身体・モノへの認識の普遍性と各文化の固有性を明らかにし、より広い比較のための研究視座を得ることを目的とする。

具体的には、象徴的意味において「顔・身体」が他の意匠と比べてどのような位置にあるのか?、顔・身体が付される「モノ」にはどのような特徴があるのか?という両面を問うことになる。

これまでにも偶像(土偶・埴輪など)の検討が行われているが、それらが顔身体表現を第一義とし、具体的な用途が不明であるのと異なり、土器は煮沸・貯蔵・盛り付け・液体分配・棺などの機能的形状をもち、その用途達成が第一義である。顔身体表現が異なった器種に付されるとすれば、顔身体への特徴的な意識が、その土器が担った特定の行為に向けられたことを示す。つまり、顔身体・モノ(道具)双方から当時の象徴的認知を探ることが可能である。

研究代表者は、これまで縄文土器の各種顔身体土器の出現・展開プロセスを整理してきた。例えば縄文中期中部では、全身像造形から徐々に顔のみの造形に変化していく(=胴と土器器体の融合)状況、後期東北では「器種の多様化→異形化→顔身体化」という複雑化の中で顔が表現されるというプロセス、さらには男性象徴である石棒と対峙させるために土器の突出部を打ち欠いて女性器形状とする事例などを明らかにしてきた。

本研究では、これを叩き台として弥生・中米・南米・中国・パプアニューギニアなどの各文化の専門家が、それぞれの社会背景や土器群全体の中での文化的コンテキストの中に顔身体土器を位置付けた上で、共通項目によるモデル間の相互比較を行うのが特徴である。例えば、縄文では鍋・皿・土瓶・壺・香炉形土器など多様な器種に顔が付されるが、他の文化では酒器や骨壺など特定の器種に偏る場合もある。上記のように、身体の各部位と土器器体との関係性や、完成形だけでなく破壊行為その他の取り扱いも、文化によって異なる可能性が高い。さらに、日本列島では古墳時代以降に顔身体を付した容器は消滅するが、その意義についても検討を行う点に独自性があり、顔身体造形のもつメディアとしての意味の歴史性を問うことが可能である。

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