共同研究:高齢多死社会における生前から死後の移行に関する統合的研究

歴博共同研究

基幹研究

生と死をめぐる歴史と文化

高齢多死社会における生前から死後の移行に関する統合的研究

  氏名
(所属/専門分野/分担課題)
研究代表者 山田 慎也(本館研究部/民俗学・文化人類学)
研究組織 井口 真紀子(祐ホームクリニック大崎/医学・医療社会学/死にゆく過程と医療)
浮ヶ谷 幸代 (相模女子大学/文化人類学/福祉・介護)
朽木 量 (千葉商科大学政策情報学部/考古学/葬制・墓制)
小谷 みどり(一般社団法人シニア生活文化研究所/死生学/福祉・介護)
田代 志門(東北大学大学院文学研究科/社会学/死にゆく過程と 医療
問芝 志保(東北大学大学院文学研究科/宗教社会学/葬制・墓制)
土居 浩(ものつくり大学/民俗学/葬制・墓制)
徳野 崇行(駒沢大学仏教学部/宗教学/供養と死の認識)
松繁 卓哉  (国立保健医療科学院医療・福祉サービス研究部/社会学/福祉・介護)
上野 祥史(本館研究部/考古学/供養と死の認識)
内田 順子(本館研究部/民俗学/供養と死の認識)
関沢 まゆみ(本館研究部/民俗学/葬制・墓制)
吉村 郊子(本館研究部/民俗学・文化人類学/研究統括・葬制・墓制)

研究目的

本研究は、高齢多死社会に突入した現代において、老いを含めた生前から死後までの人々の営為を、統合的に捉えるために学際的観点から検討し、現代日本社会の生と死の観念と諸相を明らかにすることを目的とする。

日本では世界の中で最も高齢化が進行し、今後死亡人口は増大していくことが予測され、2040年には年間168万人が死亡する多死社会を迎えることとなる。同時に人口減少も進んでいき、高齢者の割合は今後もさらに増加していくことも予測されている。また生涯未婚率の上昇や家族観の変化によって、単身世帯が増加し、引き取り手のない死者の増大など、従来の高齢者と死を巡る文化は大きな変容を余儀なくされている。

かつて、死因は感染症が多くあらゆる世代において急変し死亡する状況であった。だが医療の発達等により余命が延び、死因はガンや心疾患、脳血管疾患などの生活習慣病にかわるとともに、老衰など高齢で病気の状態を経ての死亡が多くの割合を占めるようになった。そして死にゆく過程の期間が延び、病院での死亡も当たり前の状況となり、終末期医療の選択など死の自己決定がなされるようになってきた。

こうした生前から死後の過程において、老年期となると介護者や福祉行政などの対応がなされ、さらに病気や障害となると医療者による治療が行われ、多数の人々は病院で死亡している。死亡後から葬儀まではおもに葬儀業者が対応し、納骨などは墓石霊園業者に依頼することとなる。このようにあらゆる過程において専門家への依存度が高くなっているのが、現代社会の特徴である。

そこで第1に、生前から死後の過程において専門家への依存度が高まった道程を明らかにし、その要因と包含する課題について歴史的に遡りつつ分析を行う。そこでは、専門性の深化と、家族や地域といった従来のコミュニティーとの関係の変化に留意しつつ、その変容の実態を明らかにする。特に死にゆく過程については、従来ガン患者や小児患者などの研究に限定されており、高齢者の病院・施設死という最もメジャーな死を対象とすることで、その全体像を把握することが可能となる。

第2に、それぞれの過程における専門家の介在によって、より高度なケアなどの実践がなされるようになる一方、前後の段階の専門家との連携は必ずしも十分ではなく、時には分断が生じている。特に生前の段階では高齢者は地域包括ケアシステムにより介護や福祉、医療の連携は基本的になされるようになってきたがそれでも十分とは言いがたい。まして死後の段階では、基本的に近親者を通して葬儀業者の対応となり、例外的に身寄りのない場合に行政が関与する。しかし単身世帯に増加により、生前の介護の段階から死後の諸事も見据えた対応が必要となってきたが、現実には大きく分断されており、生前と死後を架橋する必要が実際には生じている。このような状況は研究分野においても同様で、生前は社会福祉学や医学、人類学、社会学等が、また死後は民俗学や宗教学、文化人類学などの葬送研究であり、相互の連関は十分ではない。よって統合的な検討が社会の実践においても、研究においても必要である。

第3には、このような架橋を行う新たな概念の構築である。今後の社会状況に合わせ、生前から死後への移行についての連続的、統合的視点が必要である。本研究では健康年齢がおわり、介護が必要となった時期から死に至り葬儀、埋葬、納骨の期間だけでなく、その後の供養や追悼までの、生前から死後の移行プロセスの包括的な概念の構築によって連携した対応が可能となり、安らかに老いと死を迎え、残された関係者も安心してその人を見送り、追悼していくことができる。これにより現代社会に生者と死者の新たな共同性を構築していくものである。

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