共同研究:近代東アジアにおけるエゴ・ドキュメントの学際的・国際的研究

歴博共同研究

基盤研究

課題設定型共同研究

近代東アジアにおけるエゴ・ドキュメントの学際的・国際的研究

  氏名(所属/専門分野/分担課題)
研究代表者 田中祐介
(明治学院大学/日本近代文学・思想史/全体統括・戦時下の日記)
研究組織 柿本 真代
(京都華頂大学/児童文化史/近代の学校教育における日記)
河内 聡子
(東北工業大学/日本近代文学/幕末期の海外渡航期、日記)
高 媛
(駒沢大学/歴史社会学/旧満州国の旅行記、日記)
金 貞雲
(韓国国立慶北大学校/朝鮮時代社会学/朝鮮時代の日記資料と研究動向)
宋 恵媛
(大阪市立大学/近代在日朝鮮人文学/在日朝鮮人作家の日記)
徳山 倫子
(京都大学/農村女性史/大正昭和の少女の書記文化)
橋本 繁
(韓国国立慶北大学校/朝鮮古代史/朝鮮半島における書記文化史)
吉岡 拓
(明治学院大学/日本近世近代史/近世近代移行期のエゴ・ドキュメント論)
横山 百合子
(国立歴史民俗博物館名誉教授/日本近代史・ジェンダー史/近世の日記にみるエゴ・ドキュメント論)
樋浦 郷子
(本館研究部/帝国日本の教育・宗教・文化/台湾・韓国における日記史料)
三上 喜孝
(本館研究部/日本古代史・東アジア文字文化史/東アジアの書記文化史・戦時下の日記)

研究目的

本研究では近世末期から近代にかけての日本およびアジア隣国で綴られた日記、手紙、作文、自伝などの個人文書(エゴ・ドキュメント)を題材に、有名無名の人々の書き綴る営みから歴史を描く可能性を探り、その方法論を練磨するとともに、発展的な研究を見据えた学際的・国際的な体制の基盤を構築することを目的とする。

近年、個人文書の総称であるエゴ・ドキュメントの名称を冠した研究が登場し、構築主義的な「自己」の語りの分析を通じて歴史を理解する機運が高まっている。本研究では先行研究の知見を踏まえながら、①個人文書の「自己語り」の内容(史料としての側面)、②「自己語り」の生成過程や習慣化・制度化(行為としての側面)、③綴る媒体の生産・流通・消費および商品化による多様性(モノとしての側面)の三点の視座から個人文書にアプローチする。

例えば日記は私的な告白の場とみなされるが、書かれた内容を鵜呑みにすることはできない。書き手は想定読者の眼差しを意識的・無意識的に念頭に置いて綴る内容を取捨選択する。どのように秘匿された日記でも、紙面を見直す自分自身は紛れもない読者=他者である以上、読者を想定しない日記はないと言える。学校教育や軍隊教育など明らかな読者(点検者)がいる場合には、書き手は読者が体現する社会的・国家的規範を強烈に意識し、書き手に期待される年齢、ジェンダー、社会的属性の規範に沿う形で、自己の「虚偽のない内面」を綴ることになる。日記を読み解く際には、かかる歴史的に形成された「自己語り」の制度を十分に考慮しなければならない。また市販の日記帳などの紙面構成にも作り手の意図がある以上、綴る媒体の枠組が書き手の「自己語り」にどう作用するかという点にも、活字化後には知り難い一次情報として目配りが必要である。日記とは読者との距離や関係が異なる手紙、作文、自伝においても同様あるいはそれ以上の注意が必要であることは言うまでもない。

近代日本の「自己語り」の制度を浮き彫りにするためには、その成立過程や伝播の様態を考察する作業が不可欠である。本研究では、近世から近代への移行期に綴られた個人文書の分析を通じて、近代との連続および断絶を検証する。加えて視野を東アジアに広げ、朝鮮、台湾や旧満洲国の事例と比較するとともに、植民地時代に支配者の言語を用い、時に複数言語で綴る「自己語り」の意味を問う。

上述の主題を追求するために、本研究では歴史学および文学研究の方法論を中核に、教育史学、思想史学、メディア史学、社会学、文化人類学の知見も援用した学際的な研究体制を整備する。加えて個人文書研究を推進する韓国・台湾の研究機関と連携し、将来的な協働を推進するための国際的な研究体制の基盤を構築する。連携を図る中で、国内外のエゴ・ドキュメント研究および個人文書のアーカイヴ化の進展に関する情報を共有し、継続的に更新できるようなネットワーキングをおこなう。総括的に言えば、歴史の中の個人を見つめると同時に、個人が紡ぐ歴史の姿に迫ることを通じて、書記文化史の観点から日本を基軸として東アジアの近代経験を問い直すことが本研究の最大の狙いである。

研究会等

概要 日程:2022年12月10日(土)
場所:明治学院大学(オンラインとの併用)
内容 1.金貞雲「1799年の伝染病の大流行と個人の記憶 柳懿睦(1785~1833)の「河窩日錄」を中心に」
  (通訳:魯洙彬)
2.王羽萌(RA)「中国におけるエゴ・ドキュメントの研究動向について」
概要 日程:2022年9月15日(木)
場所:国立歴史民俗博物館
内容 1.柿本 真代「明治期の子どもの日記帳 ―商品化と流通」
2.樋浦 郷子「植民地期朝鮮の初等後教育―中等教育機関が設置されない地域に着目して―」
3.高森 順子(研究協力者)「「誤配」を呼び込むメディアとしての手記集ー「阪神大震災を記録しつづける会」25年の実践を紐解くー」
概要 日程:2022年6月5日(日)
場所:オンライン開催
内容 1.田中 祐介「「日記文化」研究をエゴ・ドキュメント研究に接続する」
2.三上 喜孝「サイパンで戦死した日本兵の手帳」

共同研究実績一覧はこちら