共同研究:先史から近代における日朝交流史像の再構築 -航海・港市・交流に生きた人びとの視点から-
基幹研究
環境や交流からみた日本歴史の動的研究
先史から近代における日朝交流史像の再構築 -航海・港市・交流に生きた人びとの視点から-
氏名 (所属/専門分野/分担課題) |
|
研究代表者 | 松田 睦彦 (本館研究部/民俗学/近代の日朝交流) |
研究組織 |
イ・チャンヒ(釜山大学校/考古学/青銅器時代の交流) 藤尾 慎一郎(国立歴史民俗博物館名誉教授/考古学/弥生時代初期の日朝交流) |
研究目的
近年、歴史認識を端緒とした日本と韓国との政治的対立が激化している。そこでの議論は、近代以降の日本による朝鮮半島の植民地支配を、日本列島と朝鮮半島との史的関係性を象徴的に示すものとみなし、国家あるいは民族を単位とした両者の葛藤が継続的に存在してきたかのような印象を与えるものである。しかし、これまで歴史学が明らかにしてきた列島と半島との関係は、そうした単純なものではない。
たとえば、弥生時代に入ると朝鮮半島各地から渡ってきた人びとによって九州北部に水田稲作や金属器が伝えられ、交流が本格化する。古墳時代に倭や古代朝鮮の諸社会(高句麗、新羅、百済、馬韓等)が成立すると海上交通に長けた集団が交流を担い、5世紀には朝鮮半島西・南海岸で「倭系古墳」が営まれる。また、7世紀末からの日羅間の外交を契機に、9世紀には日本海沿岸に来着した新羅商人の自律的な動きが活発化する。古代末から中世初頭には高麗王朝下の朝鮮半島と九州北部・壱岐・対馬の地方官衙との交流に加えて私的な交易も行われており、これが「前期倭寇」へと接続する。14世紀に朝鮮王朝が成立すると倭寇問題は収束に向かうが、日本列島から朝鮮半島を目指す人が増加する。近世には、外国との私的な往来が禁止されるが、密貿易や密漁は行われていたと考えられ、近代に入ると外交交渉と軌を一にしながら、あるいはそれに先駆けて漁民等が朝鮮半島を目指すことになる。
すなわち、国家の成立以前から多くの人びとが対馬海峡(朝鮮海峡)を渡っており、国家の成立以降も、国家の枠にとらわれない人びと、あるいは、国家の動きと連動しながら独自の交流を試みた人びとが多く存在したことが明らかとなっているのである。もちろん、国家による公式な交流や侵略等の葛藤が日本列島と朝鮮半島、それぞれに与えた文化的・社会的影響は大きい。ただ、その陰でこれまで等閑視されてきた名もなき人びとによる交流の影響には計り知れないものがある。本研究が注目するのはこうした人びとによって紡がれた日朝交流の歴史であり、その通史的な把握である。
以上の観点から、本研究では弥生時代から近代に至るまでの日本列島と朝鮮半島との交流の歴史を、これまで考古学・文献史学・民俗学等の個別分野において積みあげられてきた研究成果の接合を図ることによって、通史的に明らかにすることを目的とする。とくに、本研究では国家や民族を単位とした交流ではなく、みずから海を渡った人びと、あるいは、そうした人びとと直接交流を持った人びとを対象とし、通史的観点からその交流の実態を描き出す。具体的には、日本列島と朝鮮半島との間を往来した人びとの交流の目的、造船や航海の技術、航路や寄港地、やり取りされた文化や技術について、時代ごとの変動や持続の様相を強く意識しながら通史的に明らかにする。
従来、日朝交流史に関する研究の成果は、時代や方法論で区切られた個別分野で発表され、その中で共有されてきたため、日本列島と朝鮮半島それぞれに生きた人びとの交流が通史的に描き出され、検討されることはなかった。本研究は、先史から近現代までを対象とする研究者を多く擁する歴博の特徴を活かすと同時に、これまで歴博が築いてきた韓国の研究機関や研究者とのネットワークを最大限活用することで、これまで細分化されていた日朝関係史を接合して総合的に把握することで、新たな日朝関係史研究のあり方を学界および社会に提示することを目指している。また、従来の日韓の歴史学における時代区分にとらわれることなく、日朝交流史独自の時代区分の設定も試みる。
研究会等
概要 | 日程:2022年11月25日(金)~ 11月28日(月) 場所:韓国慶尚南道釜山市・金海市・巨済市 |
---|---|
内容 | 第2回研究会 古代から朝鮮半島における日朝交流の拠点のひとつであった慶尚南道南部において、金海市の盆山城、巨済市の長木古墳、永登浦倭城といった古代から中世にかけての日本との交流の跡を示す遺跡や、近代に入って日本人漁民の移り住んだ漁村、長承浦の巡見を実施し、日韓の研究者による議論をおこなった。 |
概要 | 日程:2022年6月25日(土) 場所:オンライン開催 |
---|---|
内容 | 第1回研究会 初年度と第1回研究会ということで、まずは研究代表者より本共同研究の趣旨説明をおこない、課題を共有した。そのうえで、出席の各共同研究員より自己紹介および本共同研究における研究構想の報告がおこなわれた。 |