共同研究:日記資料から読み解く高等女学校生の戦争および敗戦経験の検証
共同利用型共同研究
日記資料から読み解く高等女学校生の戦争および敗戦経験の検証
研究代表者 | 田中 祐介(明治学院大学教養教育センター/日本近代文学・思想史) |
---|---|
館内担当教員 | 三上 喜孝(本館研究部/日本古代史) |
研究目的
本研究では、令和2年度共同利用型共同研究「戦時期の女子学生日記の分析に基づく庶民の戦争体験の再検証」(代表者・田中祐介)の成果を踏まえ、国立歴史民俗博物館が所蔵する戦時期・占領期の女子学生日記(H-965-802)の分析をさらに多角的におこなうことを目的とする。日記の書き手は、戦時下に国民学校を卒業し、倉敷高等女学校生として過ごした。1941年9月15日から1949年4月27日までの計12冊の日記が残されており、太平洋戦争の開戦から敗戦、戦後の混乱期までを含む。この日記は、銃後の学校生活を知るための貴重な手がかりであると同時に、思春期に戦争と敗戦を経験した一人の庶民の感情、思考、および時局認識を知るための貴重な史料である。
本研究が対象とする日記の量が膨大なため、前年度に引き続き、代表者の田中祐介、館内担当教員の三上喜孝に加え、大学教員、大学院生、豊富な読み解きの経験を有する市民からなる読解班を組織し、読解と分析を深化させる。今年度は戦局が一層悪化する昭和18年度以降から敗戦直後までの日記を中心に考察する。その際、申請者等の問題意識に基づき、日記の史料的意義はもとより、日記帳の枠組や使用法(「モノとしての日記」)、読者=点検者(教員)を前提とした自己表象のありかた(「行為としての日記」)をも考察の範疇に含め、重視する。
加えて、申請者が管理運営する「データベース 近代日本の日記」(https://diaryculture.com/)を活用しながら、同時期に綴られた他の学生生徒日記の所感や経験と比較検証する「ならべ読み」(併読)の可能性を探る。これにより、日記の書き手の経験の個別性と一般性を吟味しながら、戦争経験者が不在となる遠くない未来を見据え、戦争・敗戦経験を複眼的に記録、継承するための方法的視座を探る。
研究成果の要約
令和2年度共同利用型共同研究「戦時期の女子学生日記の分析に基づく庶民の戦争体験の再検証」の成果を踏まえ、戦時期・占領期の女子学生日記(H-965-802)を読み解くオンライン研究会を月1回の頻度で開催した。研究会を構成するのは田中祐介(研究代表者、明治学院大学専任講師、三上喜孝(館内担当教員、国立歴史民俗博物館教授)、岡田林太郎(みずき書林代表)、河内聡子(東北工業大学総合教育センター講師)、後藤杏(埼玉大学大学院人文社会科学研究科博士前期課程)、島利栄子(「女性の日記から学ぶ会」代表)、徳山倫子(日本学術振興会特別研究員PD)である。
1年間の研究会活動により、日記の書き手である高等女学校生の敗戦直前まで(1943年4月から1945年6月末まで)の日記の翻刻が完了し、検索可能な形でデータ化(Excel)することができた。翻刻データには、読解に不可欠な語句調査の成果も盛り込んだ。日記の読解を通じ、戦時下の学校生活や勤労動員の実態が明らかになるとともに、戦況が次第に悪化する中で思春期を迎える書き手の自意識と戦時意識の検証を深めることができた。また、「夢の図書館」(東京都青梅市)に出張し、関連する史料調査を実施することができた。
本研究の成果の一部は、田中祐介「制度化された近代日記の読み解き方 近代日本の『日記文化』を探究する」(『REKIHAKU 日記がひらく歴史のトビラ』国立歴史民俗博物館、2021年6月)、および田中祐介「『日記文化』を掘り下げ、歴史を照射する」(田中祐介編『無数のひとりが紡ぐ歴史 日記文化から近現代日本を照射する』)で公開した。研究活動により蓄積されたデータは、関連する参考情報とともに、今後のさらなる研究活動のために活用ができるよう整備が済んでいる。