共同研究:島津氏一族発給文書の比較と島津氏関係史料の収集による中世前期武士団の研究
共同利用型共同研究
島津氏一族発給文書の比較と島津氏関係史料の収集による中世前期武士団の研究
研究代表者 | 清水 亮(埼玉大学/日本中世史) |
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館内担当教員 | 田中 大喜(本館研究部/日本中世史学) |
研究目的
1、「越前島津家文書」は、島津氏の一流(播磨国下揖保荘地頭の島津氏)に伝来した文書群である。しかし、当該文書群を活用して、12世紀末~14世紀後半(中世前期)における島津氏一族・被官の活動を、各地の所領・鎌倉・京都という日本列島規模で把握する研究は管見の限りなされていない。そこで本研究では、「越前島津家文書」の調査・活用を通じてこの問題に取り組む。
2、「越前島津家文書」の調査では、越前島津氏が作成した文書(検非違使に提出した文書紛失状、守護等に提出した軍忠状、各文書の案文、系図、一揆契状)を中心に、料紙の大きさ・紙質等を計測・観察する。そして、九州に定着した島津本宗家の発給文書を含む「有馬家文書」・「志々目家文書」・「二階堂文書」、東国に定着した島津氏の発給文書を含む「下野島津文書」についても同様の観点で原本調査を実施し、九州・畿内近国・東国の武家文書の共通点・相違点を明らかにすることで、「越前島津家文書」の特徴について考える手がかりを提示する。
3、12世紀末~14世紀後半における島津氏の関係史料は、「島津家文書」・「薩藩旧記雑録」・『吾妻鏡』・「下野島津文書」「東寺百合文書」・『竹崎季長絵詞』・『山槐記』等、多岐にわたる。しかし、島津氏一族の活動を総体的に把握する研究基盤は確立されていない。そこで、これらを編年集成し、本宗家・庶子家の別、活動場所、活字化・画像公開の有無、原本調査の知見等の情報を付加したデータベースを作成する。このデータベース作成によって、今後の島津氏研究を進める研究資源を学界に提供し、かつ「越前島津家文書」の活用方法を広げることを目指す。
研究成果の要約
本研究では、館蔵資料「越前島津家文書」を活用して、中世前期における武家領主(≒武士団)の活動・人的交流の具体相を明らかにするとともに、12世紀末から14世紀後半における島津氏の活動履歴を復元しうるデータベースを構築し、学界の共有財産とする。そして、上記の試みと関わって、島津氏一族内部で作成された文書・系図等について、料紙繊維質も含めた原本調査を実施し、中世前期の武家領主が使用した紙に関する情報を提供することを課題の一つとする。原本調査にあたっては「越前島津家文書」自体の理解に関わる文書調査も実施する。
2021年度は新型コロナウィルス感染拡大によって計画の見直しを迫られたが、「越前島津家文書」、「下野島津文書」、「末川家文書」、「二階堂文書」・「比志島文書」の調査を実施した。これらのうち、デジタルマイクロスコープによって料紙の繊維質を実見した事例から、島津氏庶子家クラスの武家領主は、おそらく米粉を填料とし、若干の不純物が交じった楮紙を多く使用した、という見通しを得た。また、中世前期における島津氏の活動履歴約900件のデータベースを構築し、建武政権期から1340年代にかけて、九州島津氏と忠綱流島津氏(越前島津家を生み出した流れ)が京都で共同活動していた形跡を見出すことができた。