共同研究:幕府小普請方支配御屋根方棟梁の職掌と存立状況の研究

歴博共同研究

共同利用型共同研究

館蔵資料利用型

幕府小普請方支配御屋根方棟梁の職掌と存立状況の研究

研究代表者 工藤 航平(東京都公文書館)
館内担当教員 大久保 純一(本館研究部 情報資料研究系)

研究目的

「棟梁鈴木家資料」とは、幕府の公共建築の普請を取り仕切った幕府小普請方支配御屋根方棟梁の鈴木市兵衛家に伝来した資料群で、絵図面、文書、設計用木組みで構成される。奥向きを管轄した小普請方に関する資料は少なく、また、先行研究も主に大棟梁や大工棟梁という上位の役職に分析が限られているといえる。本資料群は、徳川幕府の職人集団の支配構造や職務内容等を解き明かすことに大きく貢献できる貴重な資料群と考える。

平成31年度館蔵資料利用型共同研究では、御屋根方という特殊な役職の実態と存立状況の解明を可能とする本資料群の研究基盤構築を目的に、ⅰ全点デジタル撮影、ⅱ御用留帳の全文翻刻、ⅲ御用留帳の収録記事細目の作成を行った。特に御用留帳の分析からは、これまで知られていなかった江戸城奥向や屋根方に限らない多様な職務や役回りが明らかになった一方で、支配構造のなかでの位置づけなど不明確な部分の解明は課題として残された。

そこで本研究では、平成31年度共同研究の発展的継承を目的に、引き続き本資料群のうち文書史料を研究対象として、(1)基礎情報の充実化(一部御用留帳の翻刻と収録記事細目の再検討、情報の蓄積)を行うとともに、(2)基礎情報の精緻な分析による鈴木家の職務実態の復元的把握、(3)幕府関係史料も利用することで、幕府普請に携わる大工職人集団の特質と構造の解明を行う。また、大工職人に関する調査が進められている大名家の関係史料と比較検討することで、大工職人の総合的な理解を深める。

特に、同資料群のうち絵図を利用した平成31 年度館蔵資料利用型共同研究(研究代表:小粥祐子)などとの合同研究会を開催し、成果の共有とともに、成果を利用した歴史学・建築学としての研究の深化を図る。

さらに、成果の公開方法として、絵図・文書資料を資料集として刊行することを目指し、資料の選定と刊行に向けた打ち合わせを行い、令和3年度に刊行できるよう作業を進める。

研究成果の要約

本研究では、棟梁鈴木家資料の研究基盤構築と幕府の職人集団の実態解明を目的に、ⅰ基礎情報(御用留帳の翻刻と記事細目の作成、関連情報の蓄積)を行うとともに、ⅱ基礎情報の詳細な分析による屋根方棟梁鈴木市兵衛の職務実態の復元的把握の分析を行った。なお、当初計画したⅲ幕府の大工職人集団の実態解明、ⅳ大名家との比較研究は、新型コロナウイルス感染症に伴う歴史資料保存利用機関の臨時休館・利用制限措置のため、史料調査を実施することができなかったことから、来年度以降の課題とした。

御用日記の史料翻刻を完了し、記事細目の精査もほぼ完了することができた。史料分析は主に安政6年10月に発生した火災被害の修復普請を記録した「御本丸大奥向御普請御用留」(H-1586-1-4-7)の分析を行い、普請過程の復元的理解と、大工棟梁や他の専門職人方(諸向惣代)との関係について分析を行った。

また、同史料を用いて、資料群の構造と特質の解明を行った。(1)御用日記は、平時に職務全般を記録するとともに、大規模普請の際にはそれに特化した御用日記を作成するという記録管理を採っていたこと、(2)「屋根方・石方・餝方・瓦師・壁方・砂利御本途帳」(H-1586-1-4-2)が安政6年10月の復旧普請に際して作成された可能性が高いこと、(3)同じく「大奥向惣絵図」(「御本丸奥向絵図」とも)が江戸城定小屋から拝借して写しを作成し、棟梁鈴木家伝来資料に蓄積されたこと(現在はおそらく個人所蔵の資料群に所在)を明らかにすることができた。

同資料群を利用した共同研究を実施する岩淵令治氏、小粥祐子氏と本年度に2回、リモートでの研究会を実施して情報共有を図り、同資料群の構造と特質を理解するための有益な成果を得た。また、2022年度に資料集(絵図画像、史料翻刻、研究論文)の刊行することを目標に、次年度以降も継続して自主的な研究会を開催することとした。

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