連載「歴史の証人-写真による収蔵品紹介-」

紀年銘陶磁器コレクション

美濃・鉄釉大花瓶
正保3年(1646)

肥前・毬取獅子置物
慶安元年(1648)

瀬戸・色絵双鶴図小皿
文政9年(1826)

有田・色絵花扇文稜花鉢
文政年間(1818~30)

近世陶磁器は肥前(佐賀)の唐津・有田、瀬戸・美濃(愛知・岐阜)、京の三大生産地を核として展開する。肥前ではいち早く朝鮮半島、中国の技術を取り入れ、磁器を生産した。そこで佐賀藩(鍋島家)は高度に企業化した生産体制を整え、国内向けの生活雑器を大量に生産する一方、海外向けや贈答用の高級製品も作り出した。瀬戸・美濃では中世以来の陶器生産の伝統にのっとり、白釉の志野や緑釉の織部など施釉陶器が焼かれた。肥前の技術が伝わり磁器が生産されるようになるのは、江戸時代も後半の19世紀初頭になってからである。京では高い文化水準に支えられ、華やかな色絵が発達した。作りの丁寧さが特徴で、高級食器に逸品が多い。これら以外の地域でも中世以来の窯が営まれたが、とくに江戸時代後半には新たに多くの窯が全国的に造られるようになり、近世陶磁器に多様な彩りを添えた。

ところで、これら陶磁器に、箆(へら)や墨、染付などで文字を記すことがある。とくに年号を記したものを紀年銘陶磁器と呼ぶが、生産年代をはじめ、さまざまなデータを提供してくれる。紀年銘陶磁器は寺社への寄進物や、注文主の誂物(あつらえもの)(特注品)、御庭焼(藩営御用窯)、特定の高級陶磁器生産窯のブランド品や個人用文房具など、特殊器具が多い。そのため大量出土する碗皿類を編年するにあたっての基準資料としては必ずしも適当ではないが、寄進者と寄進先の関係、産地、陶工などなど、固有名詞のレベルで歴史を語ることができ、多くの可能性を秘めた好資料である。

歴博では、平成5年度から、全国の紀年銘陶磁器データを悉皆的(しっかいてき)に収集してきた。その成果は最近『国立歴史民俗博物館研究報告』第89集上・下巻として刊行された。ここではそれらの資料のうち、歴博の所蔵するものから数点選び、紹介したい。

有田・染付祥瑞文猪口
宝永年間(1704~11)

有田・染付山水文十二角皿
天明年間(1781~89)

三田(播磨)・青磁蟠龍文茶入
文化年間(1804~18)

瀬戸・灰釉緑釉分け鉄絵松千鳥文手鉢
寛政4年(1792)

清寧軒(紀伊)・灰釉緑釉流し鹿子文硯箱
天保4年(1833)

亀山(肥前)・染付港市帰帆船図詩文入水指
天保4年(1833)

本館考古研究部 村木二郎