第443回「『聆涛閣集古帖』と近世好古家の世界」

歴博講演会

開催要項

日程

2023年3月11日(土)

講師

三上 喜孝(本館研究部教授)
一戸 渉(慶応義塾大学附属研究所斯道文庫教授)
藤原 重雄(東京大学史料編纂所准教授)

講演趣旨

三上 喜孝(本館研究部 教授)
企画展示「いにしえが、好きっ! ―近世好古図録の文化誌―」でとりあげる『聆涛閣集古帖』(本館蔵)は、江戸時代後期に神戸・住吉の豪商吉田家が三代にわたり編纂した古器物の一大図録集で、考古資料、古文書、美術工芸品など、じつにさまざまなジャンルの歴史資料が約2400件ほど模写されています。そのなかにはいまに伝わる文化財も数多く含まれ、それらが大切に伝えられてきたことがわかります。この講演では、『聆涛閣集古帖』の魅力や、この企画展示の意図、さらには展示のみどころなどを解説しながら、近代的な博物館が生まれる以前の、「好古家」(いにしえ好き)たちの歴史資料への情熱と豊かなまなざしについて考えたいと思います。

一戸 渉(慶応義塾大学 斯道文庫 教授)
いにしえの文物を愛し、その実物や情報をあつめようとする好古家たちは、18世紀末以降の日本に陸続と登場しました。企画展示「いにしえが、好きっ!―近世好古図録の文化誌―」の主人公である吉田道可(1734~1802)もまた、そうした好古家のひとりです。道可以来吉田家三代にわたる編纂書『聆涛閣集古帖』は近世期の好古図譜として最大規模のものですが、その成り立ちはどのようなものだったのでしょうか。また歴代の吉田家では同時代の文人墨客や貴顕らとさまざまな関りを持っています。そうした人的交流と好古趣味との間の関係をどのように捉えるべきでしょうか。現在判明している資料を読み解きながら、近世日本における好古のいとなみをいま一度捉え返してみます。

藤原 重雄(東京大学史料編纂所 准教授)
吉田家による古物蒐集の対象は幅広く、現在の資料分類でいう考古遺物・美術工芸品に加え、主に文献史学が扱う古代・中世の古文書も多数含まれました。公家・大名家・寺社を除いた、江戸時代の民間における蒐集文書として屈指の史料群であり、その一端をご紹介します。また、見どころの多い『聆涛閣集古帖』ですが、近代以降の学問分野からは狭間に落ちてしまったジャンルを掘り起こす契機ともなります。とくに「乗輿」帖について、貼られている絵図の正体を探りながら、同時代的な復古意識に及んで、本展全体の理解を深めていただければと思います。その背後には、持てる財力を活かして社会へ働きかけるような吉田家の人々の姿も浮かび上がります。