共同利用型共同研究

『頼資卿改元定記』の利用とその伝来に関する研究

研究期間:2023年度

研究代表者 中島 皓輝(明治大学大学院/日本古代中世史)
館内担当教員 田中 大喜(本館研究部 歴史研究系)

研究目的

本研究は、広橋家旧蔵記録文書典籍類『頼資卿改元定記 嘉禄・安貞・寛喜』(H-63-239)の利用とその伝来の考察を目的とする。本史料は勘解由小路(広橋)頼資の日記から改元定に参加した際の記事を子の経光が抄出したものとみられている。当該期における改元定の状況を詳細に知ることができるのみならず、同家家祖である頼資がどのような点に留意して改元定に参加していたかが判明し、藤原北家日野流からの分家時の当主がどのように公事情報収集を行っていたかが明らかとなる。しかし、本史料は巻首の一紙を欠き、前半部分に多くの欠損箇所があり、『大日本史料』における翻刻でも同様の状態となっている。本史料と同内容の記載は宮内庁書陵部蔵柳原家旧蔵本『改元御元服并御幸等部類』にも収められているが、こちらでは広橋家本で欠失する巻首一紙の内容を備え、また欠失箇所も少ない。従って、両本を比較検討することでより正確な内容を復原することが可能となる。このことは抄出元であり現存しない頼資の日記本文を復原する試みでもある。また、柳原家旧蔵本の同記載にかかる奥書記載によれば、当該部分は戦国期の当主広橋兼秀による書写本を底本としている。現在のところ広橋家旧蔵記録文書典籍類内に該当の兼秀書写本は確認されないが、戦国期においても頼資の作法が参照されていたことをうかがわせるものであり、他の兼秀書写本の比較から書写時期などを検討する。両本の比較により鎌倉期から戦国期に至る時期における『頼資卿改元定記』の伝来や書写・利用状況を把握することが可能となり、朝廷の実務に関わっていた貴族家の中世を通じた公事学習の様相が明らかとなることが見通される。