基幹研究

生と死をめぐる歴史と文化

死者への行為が形成する認識と社会変容

研究期間:2023年度~2025年度

  氏名
(所属/専門分野/分担課題)
研究代表者

上野 祥史
(本館研究部/考古学(日本先史・中国古代/葬送と社会形成の日中比較/総括)

研究組織

吉澤 悟 
(奈良国立博物館/考古学/古代・中世の葬送)
八木 春生
(筑波大学大学院人間科学研究群/美術史学/中国の死者供養と異界)
松本 雄一
(国立民族学博物館/考古学(アンデス)/神殿儀礼と認識・行為の形成)
嘉幡 茂  
(京都外国語大学/考古学(メソアメリカ)/神殿儀礼と世界観の形成)
大西 秀之 
(同志社女子大学現代社会学部/人類学/比較人類史的検討)
中村 耕作
(本館研究部/考古学(日本先史)/縄文時代の葬送と社会形成)
仁藤 敦史
(本館研究部/歴史学(古代)/古代の系譜継承と葬送観念)
小倉 慈司
(本館研究部/歴史学(中近世)/中近世の皇位継承)
山田 慎也
(本館研究部/民俗学・人類学/死者の顕彰と社会の継承(現代))
川村 清志 
(本館研究部/民俗学・人類学/死者の顕彰と社会の構築(現代))
天野 真志 
(本館研究部/歴史学(近世史)/近世・近代社会の系譜・継承観念)
松木 武彦
(本館研究部/考古学・人類学/弥生・古墳時代の葬送と社会形成/総括)

研究目的

死の扱いには、人間とはいかなる存在かという認知が反映されている。生と死が重層するなかで社会は形成され存続するため、死は社会を定義づける主要素だといえる。神への供犠や故人の神格化が象徴するように、死のとらえ方や人間のとらえ方は、死者とのかかわり―行為の実践―のなかで顕在化した。

死者とのかかわりは、葬送に限定してとらえることが多いものの、特定の時間には限定されない。行為(儀礼)や物証(遺品)を通じて、不可視な死者を実体化(物質化)させることも、死者とのかかわりの一つである。系譜・系統が権威を正統化する装置として機能したように、死者とのかかわりが生者の関係を新たに規定し、新しい社会を決定づけたことは、家族から地域社会や国家に至るまでさまざまなレベルの共同体にみえている。死者とのかかわりが、社会の検討に重要な視点・論点を提供することは、言を俟たない。

しかし、もっぱら宗教や思想など観念論的な検討を中心に、研究は展開してきた。死者をめぐる行為は、思想や信仰の体現・具現として理解される傾向が強いが、観念を先行させた理解のみでは不十分である。行為の実践や反復が認知や思考を形成し、その認知や思考が行為を決定づけるように、行為と観念の相互作用を動的にとらえる実践論の視点に立つことで、死者へのかかわりは社会を分析する有効な指標となる。

歴史学、考古学、民俗学を含む人文学の諸分野では、死者へのかかわりに対して多くの知見や認識を蓄積してきた。しかし、議論の前提や検討対象の違いを背景に、研究分野や時空をこえた比較検討は低調である。既存の成果を実践論の視点で改めて検討し、議論を横断的に展開することで、分野や対象をこえて共有できる有効な論点や分析視点が提起できるものと予見する。それは、新たな社会論を展開する基点ともなろう。

本研究では、死者をめぐる行為の実践に主眼を置き、神霊など不可視な存在の実体化(物質化)との比較を通して、認知や思考の形成と行為の実践・反復との関係を検討する。研究分野や対象時空間を横断した議論を展開し、人類史研究に有益な検討視点の確立を目指す。それは、長子相続や直系継承を自明の帰結とみるような、歴史のなかの変化を不可逆な発展や進化ととらえる現代的思考への人類学研究からの提言ともなる。

研究会等

概要
日程:2023年5月13日(土)
場所:国立歴史民俗博物館(オンライン併用)
内容

基幹研究「生と死をめぐる歴史と文化」

上野祥史 (研究代表・歴博)「共同研究の主旨と概要」
松木武彦 (研究副代表・歴博)「ひとの身体でとらえた前方後円墳」
全体討議 「共同研究員の分担とテーマ実践」