基幹研究

民俗表象の形成に関する総合的研究

(総括研究代表者 本館 民俗研究系・准教授 小池 淳一)

【広領域歴史創成研究】歴史表象の形成と消費文化

研究期間:平成22年度~平成24年度

研究代表者 岩淵 令治 (本館・研究部)
研究組織 青木 俊也 (松戸市立博物館)
神野 由紀 (関東学院大学)
瀬崎 圭二 (広島大学大学院)
田中 和仁 (田中本家博物館)平成24年から
玉蟲 敏子 (武蔵野美術大学)
谷川 章雄 (早稲田大学人間科学学術院)
長沢 利明 (法政大学)
濱田 琢司 (南山大学)
藤岡 里圭 (関西大学、平成23年まで大阪経済大学)
丸山 伸彦 (武蔵大学)
満薗 勇 (日本学術振興会)
青木 隆浩 (本館・研究部)
内田 順子 (本館・研究部)
久留島 浩 (本館・研究部)
小池 淳一 (本館・研究部)
常光 徹 (本館・研究部)
原山 浩介 (本館・研究部)
山田 慎也 (本館・研究部)

研究目的

近代以降における大衆向け商品の開発には、流行の創出が不可欠であるが、その中で伝統的なものに新たな価値を見いだし、過去の素材を利用する手法がある。その過程では、しばしば歴史学や民俗学、美術史学などの研究成果が取り込まれてきた。
例えば、「江戸」の表象は、近代化論における積極的な江戸時代の評価(「江戸時代の遺産」)、バブル期の江戸東京学ブームから、近年の「江戸しぐさ」、江戸検定や日本橋地域などの都心部再開発における資源として様々に利用されている。また、博覧会や物産展は各地の名産品を生み出す場となっているが、それは歴史や民俗の理想型を示すことにもつながっている。あるいは、入学式と節句を典型として、家族の必需品と考えられているものが、実は企業によるマーケティング活動から生み出された新しい「伝統」であることが少なくない。そこで、本研究会では、近代以降の商品開発にかかる伝統の創出と礼賛を、とくに学問との関わりから分析する。

研究対象としては、まず江戸の表象をとりあげる。「発見」される「伝統」の多くは、「基層文化」としての原始・古代と、「都市文化」としての「江戸」であろう。とくに「江戸」は、明るい庶民とその文化の誕生(鎖国→いわば第二の「国風文化」)の表象として頻繁にとりあげられてきた。しかし、こうした研究は、近代化論における江戸時代賛美(『江戸時代と近代化』)の批判が若干みられるものの、本格的に取り組まれてはいない。したがって、その一つ一つを時代背景と合わせて丹念にみていくことが不可欠である。そこで、「江戸」表象の原点として、大正期の「江戸趣味」の誕生とその大衆化に着目し、三越百貨店における「流行」の発明の過程とその方法を検討する。三越は、日清・日露戦後に「元禄模様」の流行を生み出し、さらに「伝統」的な要素もとりいれながら子供の「玩具」を商品化する。これを支えたのが、三越が「学俗共同」とうたう研究者・文学者・ジャーナリスト等からなる「流行研究会」の活動であった。そこで、都市史・美術史・経済史・民俗学・人類学・音楽史等から、当時の学問状況にてらしながら流行研究会の活動を多角的に検討することにより、(1)三越の商品化の過程でどのような「江戸」が発見されたのか、(2)そこに学問がどのようにかかわったのか、という点を明らかにしたい。

さらに、このような伝統を模した大衆文化の受容と展開が地方にもたらした影響について、産業史や家族史との関わりから検討する。例えば、名産品の創出は消費文化を変化させ、そのために産地間の競争関係をも変えてきた。また、年中行事や人生儀礼は、ある特定の階層や地域に限られていたものが商品化によって全国に展開し、「伝統」として各家庭に浸透していった。その背景としては、全国的に画一化された理想的な家族像が創出されてきたことがある。これらのような消費文化や儀礼文化、家族生活と商品化との関わりについては、日常にあふれていることであるが、これまであまり研究の対象になってこなかった。そこで、大衆文化の受容と展開については、地方での現地調査をもとに、現代を含めた実態の解明に取り組む。