企画展示をより楽しく、より深く鑑賞していただくため、本館の広報担当職員が企画展示の担当者から展示の見どころや作り手の気持ちを取材します。
今回は3月10日から開催する企画展示「大ニセモノ博覧会-贋造と模倣の文化史-」の代表者である西谷大教授(研究部考古研究系)にお話をうかがって来ました。
第2回 ニセモノの地域性(1)
|
西谷:展示の第Ⅰ章「暮らしの中のフェイク」では、山口、兵庫、千葉という3つの地域の家の資料を取り上げています。取り上げた理由には2つあって、一つにはニセモノにも地域性があるということ、もう一つは地方の家になぜそんなにニセモノがあるのか、という点です。
まず地域性についてですが、例えば山口の家には雪舟のニセモノがあります。
雪舟は岡山の生まれですが、京都で絵画の勉強をした後、山口に移り住んでいるんですよ。それで山口と雪舟がセットになっているんですね。その他にも山口の家は、吉田松陰や桂太郎と伝えられる書を持っています。
-まさにご当地ものですね。
西谷:次に兵庫の家ですが、こちらは頼山陽(らい さんよう)、池大雅(いけの たいが)、大石内蔵助、大塩平八郎らのニセモノを持っていますが、彼らはいずれも京都にゆかりのある人たちです。
-兵庫は京都に近いからですね。家ごとにニセモノの地域性があるのは面白いですね。
西谷:そして千葉の家では谷文晁(たに ぶんちょう)の山水画などを持っています。谷文晁は江戸で活躍した絵師ですので、やはり江戸近郊の千葉などで好まれたのでしょうね。
では、なぜこういったニセモノの数々が大量に出回るのでしょうか。実はホンモノだと認定されている雪舟の作品は十数点しかないのですが、全国の大名家はほとんどが雪舟を持っています。当然ニセモノなんですが、「雪舟を持っている」ということ自体がステータスであって、家の格を示すために必要なものだったんです。
例えば千葉の家ですが、この家は牧士(もくし)といって農家なんだけれどもほぼ武士に近いような格の高い家でした。実はその家も雪舟のニセモノを持っていて、つまりそれは雪舟の絵を持てるくらい格が高い家であることを誇示するための重要な装置の一つだったわけです。
先ほどお話した兵庫の家というのは、江戸時代には材木問屋を、その後は酒屋を営んでいた地元では大きな家でした。そうした家は地域の人々を自宅に呼んで宴会をやるんです。その時には床の間に掛け軸があって、背後に屏風があって、違い棚には置物があって・・・これらが演出のセットとして必要だったわけです。そのためにニセモノを買い集めるんですね。で、たびたび宴会があるから1セットでは足りず、何セットも用意しなければいけない。ニセモノにもそういう必要性があり、活躍する場所があったことをお分かりいただければと思います。
-「ニセモノだから価値がない」というわけではなく、ニセモノにはニセモノの活躍の場があったわけですね。
西谷:そうです。展示では、実際にこの宴会のシーンを再現します。展示場内に座敷のセットを作って、この兵庫の家の掛け軸や屏風、壺類を配置し、さらに宴会のシーンを再現したパネルも製作しました。パネル製作には佐倉市にもご協力いただき、佐倉市役所の職員の方々にもご出演いただいております。ぜひ来館者の方々には当時の宴会の雰囲気を感じてもらえたらと思います。
<第3回に続く>