時代を作った技-中世の生産革命-

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職人の姿-民俗学の視点

遅刻した職人(松田奈穂子画)
展示場風景(数珠屋)
数珠屋復元図(松田奈穂子画)

企画展示の「職人の姿」のコーナーは個人的に興味深いです。

村木:このコーナー、実は当初はなかったんですよ。

ええ!?そうなんですか?

村木:そうです。このコーナーについては、飲んでいる時に松田さん(※本館研究部民俗研究系 松田睦彦助教)が「人が見えてこない!」と言い出して(笑)。

〈笑〉

村木:でも、言われてみると確かに職人がどこにもいなくて…。それで松田さんが考えたのが「職人の姿」のコーナーなんですよ。

あそこで取り上げている掟書が面白いですよね。

村木:はい。遅刻をすると罰金とかですよね(笑)。他にも資材のちょろまかしを禁じたりしています。

裏を返せばそれを守らない職人がいたということですよね。とても人間的というか、そういう職人の実際の姿が見えて興味深いです。

村木:そこは民俗学の松田さんならではの視点ですよね。ものすごくミクロというか、もしかすると一般化できないような話かもしれないけど、それでも入れてみようということになって。

すごく面白いと思います。

村木:私もよくあのコーナーを作ってくれたと思っています。

あと、中世の数珠(じゅず)屋を再現している部分も、目を引きますよね。

村木:数珠屋を再現したコーナーは、職人が狭い空間で生活をしていたことを実感してもらいたくて作りました。企画展示室Aの奥のスペースがちょうど6メートルで、寸法がぴったりでしたし。

これって原寸大なんですか?かなり狭いですが…。

村木:原寸大です。ここで寝起きもするし、数珠も作るし、販売もする。生活の全部がここに集約されています。ここは寺町の入口にあたるので、お寺に近い場所だったわけです。そこでこうして暮らしていたんですね。

展示室にある数珠屋の復元図もインパクトありますよね。

村木:今回は道具の展示が多いので、なるべくイラストを使うようにしました。道具を文字で説明するのは難しいけど、イラストだと非常に分かりやすいので。この数珠屋の復元図も制作者の方に一緒に調査に行っていただいたり、かなり力を入れて作ってもらっています。「こうに違いない」と思われるのも困るのですが、一つの案として見てもらいたいですね。ちなみにイラストに登場する職人の顔の半分くらいはプロジェクトメンバーがモデルになっています。

中世のコンビナート

北沢遺跡主要部の全景(新発田市教育委員会提供)
杣場出土の木製品(新発田市教育委員会蔵)
骨角製品・未成品(東海村教育委員会蔵)
漆喰の材料(東海村教育委員会蔵)

続いて「技術と場」のコーナーのお話を伺いたいと思います。

村木:ここで取り上げている「中世のコンビナート」と呼べる遺跡は絶対に使わないといけないと思っていました。結局コーナーとしては小っちゃくなってしまったんですけど、今までこういう視点はあまりなかったので。例えば洛中洛外図に描かれているような都市での生産の様子であるとか、あるいは山の中で焼き物を焼いているとか、そういうものは今までも語られていました。でも、違う職種の人々が集まっている集落があったということは、発掘調査をして初めて分かった成果です。

そうなんですね。

村木:今回取り上げている遺跡の一つは、新潟の北沢遺跡で、そこは製鉄と焼き物をやっているところです。製鉄の前は炭焼きをしていますし、あとは木を切って粗加工する杣(そま)もしていますね。ここは比較的古くて、13世紀の遺跡です。

村木:もう一つの村松白根(むらまつしらね)遺跡は、もっと新しくて15~16世紀なんです。これまで中世後半で異業種が集まっている遺跡は都市部以外になかったので、そういう意味で新しい遺跡です。今後、村松白根遺跡をどう評価していくのかは課題ですね。

村松白根はどういった業種が集まっていたんですか?

村木:主産業は製塩の村なんです。その他に、骨細工もしてるし、石加工もしてます。変わったものとしては、貝殻を焼いて漆喰(しっくい)の材料を作っています。

村木:あと鋳造もやってますね。そういういろんなジャンルが集まっている遺跡なので、今回アピールしなければいけないと思っていまして。これは新しい知見ですね。それで、他にも同じような遺跡がないか探したんですが、結局見つかりませんでした。

そういう遺跡って自然発生的にできるんですか?炭焼きを行ってたら、関連する業種の人が集まってきて…という感じなんでしょうか?

村木:北沢遺跡はその可能性が高いと思います。炭焼きと製鉄と焼き物作りっていうのは、似かよったところがありますので。ですけど、村松白根の場合は全く違ったものをやってるんですね。街道や港が近いことも考えると、自然発生的というよりは今のようなコンビナートのイメージに近いのかもしれません。

その辺りを牛耳っている権力者が職人たちを呼んできたんでしょうか?

村木:そうかもしれません。ここは戦国大名の佐竹氏が牛耳っている場所なんですよ。製塩をやっている重要な場所だったので、そういった権力者が連れてきた可能性はあります。特に漆喰なんかは誰でも必要なものではないので、作らせている可能性はあります。

なるほど。

村木:今回の展示の中でも、この「技術と場」のコーナーは見る人にとって難しいかもしれません。というのも、展示しているもの自体は他のコーナーとほとんど同じですから。

他と何が違うの?何を意図しているの?と思われるかもしれませんね。

村木:これを全部一ヵ所で作っている、という所を見てほしいです。

そこが新しい知見ということですよね。

第3回に続く