朴の木の葉は香りの器

  • 執筆者:北村 文(くらしの植物苑ボランティア)
  • 公開日:2005年5月28日

日本の樹木の中で花と葉が最も大きいホオノキ(朴の木)は、日本特産の落葉高木(高さ30メートル)で、葉の長さ20~40センチ、幅10~20センチ、花も直径15センチもあり、白く芳香を放つ・・・すべてがジャンボ版です。

木質は柔らかく狂いが少ないので版木、下駄、家具、鉛筆材などに利用されています。

葉は大きく香りが良いので、味噌をのせて炭火で焼いた朴葉味噌は飛弾高山の名物として有名です。

私の故里の新潟では、深い雪が消えて・・・おそい田植の季節には丁度朴葉も若葉が大きく育っていますので、その葉に赤飯やキナコをまぶしたオニギリを包み、田植にまねいた人達と、お昼や三時(こびり)に田んぼのそばに腰かけてとる食事は、それはすばらしい香りが移り、食慾が増し、疲れをいやしてくれます。田植の楽しみの1つになっています。

石川県の河北郡倶和伽羅地方の刈安地区には、ホオノキの葉を田植期の前に採ると、5月に大風が吹く・・という俗信がありますが・・田植の時期は猫の手も借りたい位の忙しさの中、田植にまねいた人達の食器ともなる大切な葉を田植前に無駄にさせない為、1つのいましめの意味を込めた言い伝えになったと思われます。

ホオノキの葉を食器として使用したのは、万葉集にも「葉を折って酒を入れて飲んだ・・・」という一首があります(小林忠雄著『花の文化誌』雄山閣出版1999)。

皇祖神(すめらぎ)の遠(とほき)御代御代(みよみよ)はい布(し)き折(お)り

酒飲みきといふぞ此(こ)の厚朴(ほほがしは)

『万葉集』 巻19

ホオノキは「本草和名」には「厚朴・和名保々加之波乃岐」とあり、ホホガシワと呼ばれました。カシワは器(食器)のことと言われています。

その他に、ある地方によっては、葉と葉の間にごはんやちらしずしを入れてはさみ、朴葉飯、朴葉寿司、お餅を包んで朴葉餅にするとカビが生えないと言われています。

草木の葉の香りをごはんや餅に移し取り、その香りを食生活の中で生かすことは、自然の中の菜食生活に生きてきた日本の文化、生活の知恵の見事な結晶の1つではないでしょうか。

すべてが大きいホオノキ (モクレン科モクレン属) 
Magnolia hypoleuca