くらしの植物苑観察会

毎月第4土曜日(4月はみどりの日)
13:30に苑内のあずまやに集合
15:00頃までの予定、苑内の季節の植物も観察

  • 7月26日 第64回観察会「ウリの仲間」 藤下 典之(前大阪府立大学)
  • 8月23日 第65回観察会「変化アサガオの世界」 仁田坂 英二(九州大学)
  • 8月12日(火)~8月31日(日) くらしの植物苑特別企画『伝統のアサガオ』展
  • 9月27日 第66回観察会「ドングリの世界」 上野 祥史(歴博)
  • 10月25日 第67回観察会「菊とサザンカ」 箱田 直紀(恵泉女学園大学)

マクワ -伝統のメロン-

  • 執筆者:辻 誠一郎
  • 公開日:2003年7月26日

今年もくらしの植物苑の畑には、いろいろなメロンが育っています。ピンポン玉を少し大きくしたくらいの白くて丸いコヒメ ウリ、直径が2cm程度しかない世界最小級のザッソウメロン、漬物や煮物にもするシロウリの仲間、そして、みずみずしく果肉が甘いマクワの仲間。すっかり 大きくなって、今にも落ちそうにぶらさがっているものもあります。

大きさや形がさまざまでも、これらの仲間はキュウリ属というグループに属しているメロンの一種なのです。ザッソウメロンやマクワ、シロウリは、メロンと いう種の中の変種とされています。これまでに世界で40あまりの変種が記録されていて、日本では上の3変種にモモルディカメロンが加わって、4変種が生育 しています。その中でもマクワは、甘くておいしい夏の果物として古くからもっとも親しまれてきたメロンと言えるでしょう。瓜(うり)と言えばこのマクワを 指していたものです。かつては全国どこにでもマクワ畑が見られたものですが、プリンスメロンなど温室で育った甘くて大きいメロンに追いやられて、都市の市 場ではすっかり見られなくなってしまいました。今や絶滅寸前の生きた文化財と言えるかも知れません。

江戸時代、マクワは各地でいろいろな名で呼ばれていました。津軽ではシマウリ、南部ではキンクハ、仙台ではデウリ、江戸ではキンマクハ、西日本ではアジ ウリなど、その味や色・模様から名付けられていたことがわかります。明治から最近まで、それらはマクワという名に統合され、幾本もの縦筋が入った瓜で、黄 色のものを金マクワ、白色のものを銀マクワと言うようになり、かなり流行していました。たとえば津軽ではマガというようになり、関西ではマッカと呼んで、 いずれもマクワが変化したものになりました。

ところが、マクワという名称には由緒があったのです。『御湯殿の上の日記』に、天正3年6月29日「のぶながよりみのまくわと申す名所の瓜とて二こしん 上」という記録があります。これは、美濃国真桑村の瓜が上等とされ、真桑村が瓜の名所となっていたことを物語っています。真桑村で採れた瓜に産地名が付い てマクワウリと呼ばれ、評判になったのは自然の成り行きということでしょうか。これは中世末のことですが、近世になっても、真桑村から種子を取り寄せて育 成するなど、真桑村のマクワウリは上等な贈答品として流行していったのです。やがて、さまざまな瓜がマクワとして総称されるようになったのです。真桑村産 とそうでないものが、まさに瓜二つで区別がつかなくなっていったのではないでしょうか。

6月の終わり、韓国の市場では、鮮やかな黄金色のマクワが溢れていました。どこへ行ってもその黄金色は果物の王者と言わんばかりに店頭を占拠していたの が印象的です。各地にあった伝統のマクワを復活させたいと思ったものです。