くらしの植物苑観察会

毎月第4土曜日(13:30 ~ )

  • 1月26日  第46回『魔除けと植物』辻 誠一郎(歴博)
  • 2月23日  第47回『日本の木工文化』山田 昌久(東京都立大学)
  • 3月23日  第48回『春の山菜』辻 誠一郎(歴博)

魔除けと植物

  • 執筆者:辻 誠一郎
  • 公開日:2002年1月21日

1月14・15日をふつう小正月と呼んでいます。1月1日を中心とした大正月に対しての呼び方です。小正月を中心に行われた行事は各地にたくさん残って いますが、成人の日が小正月の15日でなくなってからは控えめになってきたようで、いくらか寂しくもあります。

小正月の行事は意外にも複雑ですが、大きく二つに分けられるようです。一つは、農事に深く関係したもので、その年の豊作を祈願する予祝の行事です。モノ ツクリはその一つで、若木むかえや初山入りに切り取っておいた木で農具の模型を作ったり、枝に餅や団子をちぎって花のようにつけ、豊作を祈願するのです。 木を削って花のようにした削り花を儀礼に用いるところもあります。これは1月の末まで用いるので、この期間を大正月の松の内に対して花の内と呼んでいま す。もう一つは、年占いや災厄をはらったり、魔除けを行う行事です。中でも道祖神のお祭りと、とんどや左義長と呼ばれる火祭りは広く残っています。両方の お祭りが結合しているところも中部地方を中心に広い範囲におよんでいます。この地域では火祭りのことをサイト焼などと呼んで、道祖神の祭りに用いた一切を 火で焼いてしまうのです。また、小豆粥(あずきがゆ)を炊いたり、粥掻棒(かゆかきぼう)を用いる粥占いや粥だめしという年占いを行うところもかなりあり ます。

ところで、道祖神のお祭りに、木でつくった人形(木偶)を門口に立て、魔除けを行う風習が残っているところがあります。門口に立てるのでオッカド(御 門)棒、あるいは門入道と呼んでいます。ふつうは男女二つをセットにします。怪しげな顔を書いたり、胴を縄で巻いたり、さまざまなものがあります。興味深 いのは、棒がカツノキで作られることです。カツノキとは、ウルシ科のヌルデのことで、山野にふつうな雑木です。ところによってはオッカドノキと呼び、オッ カド棒の風習がなくなってしまっても、そう呼んでいるところがあります。時には、ヌルデ・ニワトコ・キブシを3本組み合わせて作るところ、ニワトコだけで 作るところもあったことが記録に残っています。

小正月の行事で使われる棒やモノツクリの材料を調べていくと、たいへんおもしろいことが分かってきました。それは、オッカド棒だけでなく、粥掻棒や、モ ノツクリの木にヌルデを用いていることです。削り花にもヌルデが多く、ニワトコを用いるところもあります。いずれも、どこにでもありそうな雑木なのです が、それがどうして予祝や魔除けに使われるのでしょうか。植物学者の故前川先生は、中国や古代日本で年占いや魔除けに用いられていた桃の木の代用と考えら れましたが、わたしは桃が日本に伝わるもっと前の縄文時代から受け継がれてきたものと考えています。