主要史料の概要と凡例

○六国史
<概要><凡例>
 編年体で編纂された六国史は、物価に関わる記述や法制史料を若干含むものの、具 体的に物価の判明する史料は少ない。祥瑞、賜物、備蓄命令、ものの移動、租税の変更などは多く見えるが、物価とはいい難く、基本的に採用していない。ただ し、他史料との比較や物価の動向を知る手がかりとして、銭貨交換比率や調庸代、献物叙位については、採用したものがある。

○正倉院文書(『大日本古文書』編年文書)
<概要>
 『大日本古文書』編年文書の大部分を占めるのは正倉院文書である。正倉院文書は 奈良時代の写経所文書を主としており、写経事業等の帳簿を多く含む。また、紙背には払い下げられた諸国の正税帳などの公文も存在する。当時の地方官司中央 下級官司における物品の購入や売却、調達運搬方法などを具体的にうかがうことのできる貴重な史料群である。また、その年代は神亀から宝亀までの約五十年間 にわたっており、奈良時代の物価変動をうかがうための基本資料であると言えよう。
 ただし、正倉院文書は近世近代における整理によって著しく原形を損なわれており、接続を復原する研究が不可欠である。復原研究の進展した今日において は、『大日本古文書』編纂時における接続、文書名、作成年等の認識は修正を要する箇所も出てきており、注意が必要である。本データベースでは、主に東京大 学史料編纂所編『正倉院文書目録』(東京大学出版会)の既刊部分(正集~続修別集)の範囲内において接続や文書作成年を訂正したが、文書名については、混 乱をさけるため、基本的に『大日本古文書』のままとした。
 なお、正倉院文書はその特性上、写経従事者への布施に関する文書(布施申請解等)が多い。本データベースではこの布施についても写経という功に対して支 払われる賃としてとらえ、都市生活史を反映するものとして採用した。写経の功は、従事した仕事内容によって写紙校紙装※こう題経に大別することができる。 そこ で、写経の功に関しては、標準分類名を「功賃」ではなく、「写紙」「校紙」「装※こう」「題経」として採用した。
<凡例>

正倉院文書の接続、文書作成年等に関しては、東京大学史料編纂所編 『正倉院文 書目録』既刊分(正集~続修別集)を参照し、その範囲内で 『大日本古文書』を訂正した。
「史料名」欄に挙げる文書名は、基本的に『大日本古文書』のままと した。
「史料群」欄には、所在帙巻の種別巻次(断簡番号)を「正倉院文書 続修42(12)」「東南院文書1櫃3巻」のごとく載せた。正倉院文書 の断簡記号や番号については、『正倉院文書目録』既刊分にしたがった。
「所収書」欄には、『大日本古文書』の巻頁を「1-546」のよう に載せた。
『大日本古文書』が重出する場合は、後者の巻頁にしたがって採用し た。
写経の功賃については、写紙、校紙、装※こう、題経を標準分類名と して設定し、それぞれについて布施申請解の総計記載単価記載によって単価計 算を行った。
布施申請解の内訳記載(経師校生装※こう題師各人の布施内訳)によ る単価計算は、1件のみ採用し、他は省略した。ただし、単価が大きく異なる 事例の場合は、別件で採用したところがある。
同じ写経事業の布施を示すもので、明らかに同内容の案文の場合は、 その所在を記して省略した。
同じ写経事業の布施を示すものでも、作成段階の違うもの(手実/布 施申請解)は別件で採用したところがある。
古代の布には、1端=42尺で計算する場合と、1端=40尺で計算 する場合がある。どちらの基準に依っているのか判明する場合は、その旨 を「備考」欄に記した。判明しない場合は、主に1端=42尺計算に拠った。
加筆、追筆により数値を訂正している場合は、基本的に別件で採用し た。
出挙銭の質は、実際の売買ではないが、参考のため採用したところが ある。
土地売買では、基本的に面積(家地墾田の場合はその合計面積)を基 準として計算した。
運賃など移動を伴う場合は、「国名」欄には起点終点の国をともに挙 げた。
天平宝字年間の文書の接続や作成年については、上記『正倉院文書目 録』のほかに、特に以下の二書を参照した。
岡藤良敬『日本古代造営史料の復原研究』法政大学出版局1985年
山本幸男『写経所文書の基礎的研究』吉川弘文館2002年

○平安遺文
<概要>
 平安期を中心として、天平から元暦までの史料を網羅的に収めるため、全体的な性 格付けは難しいが、8~12世紀にかけての土地売買に関する史料から多くのデータを得た。また、寺院の封物や造営の資材およびそれにともなう功賃などの データも多い。

<凡例>
売却購入、代納(調庸の代納など含む)、等価交換の比率などを採用 した。
その他、物品移動の方法(売買かどうか等)は判明しないが、品目と 数量が明記され、直としてみえるものを採用した。
功賃(運賃造営などの労働力)、仏僧への供料・布施などは単価が判 明しない場合もあるが、基本的に採用した。
賜物、祥瑞、献物、振給、贈位に関するものは基本的に採用していな い。
「史料名」は基本的に『平安遺文』のままとした。
「所収書」の項では、『平安遺文』の巻数および史料番号を「1- 45」のように載せた。
○木簡
<概要>
 現在公刊されている主だった報告書・集成等より古代から中世にいたるまでのデー タを採集した。出土文字資料はその判読が困難であるため、基本的に刊本によって貨幣種類および単位がわかるものを採用した。通覧した報告書・集成等は以下 の通りである。
木簡研究1~23 飛鳥藤原宮発掘調査出 土木簡概報1~15
藤原宮木簡概報・藤原 宮1~2 平城宮木簡1~5
平城京木簡1~2 平城宮発掘調査出土木 簡概報1~36
長岡京木簡 長岡京左京出土木簡1
秋田城跡調査事務所研 究紀要1~3 鹿ノ子C遺跡漆紙文書
伊場遺跡出土文字集成 1~2 伊場遺跡遺物編
伊場木簡 山垣遺跡発掘調査報告 書
下野国府跡VII木簡 漆紙文書調査報告 大宰府史跡出土木簡概 報1~2
草戸木簡集成1~2 草戸千軒-木簡-

<凡例>

年紀のない木簡のうち、同一遺跡伴出木簡で年紀のあるものがある場 合、その最 も新しい年紀を日付として入力し、「?」を付した。

「所収書」の項には、木簡番号もしくは整理番号を載せたが、それら が付されていない場合はその掲載書の頁数を載せた。同一資料で所収書が 重複する場合は、より新しい刊本のデータを採用し、()内にそれ以前の所在を掲載した。
○法制関係史料
<概要><凡例>
 律令・令義解・令集解・延喜式・弘仁式・貞観交替式・延喜交替式・類従三代格・ 政事要略・法曹類林・別聚符宣抄・法曹至要抄。
 8~11世紀に編纂された律令格式とそれについての注釈書、および後世それらを引用集録してつくられた史料である。古代法制度のみならず、儀式や年中行 事などに関する記事も多くみられる。ここでは主に交易や功賃についてデータを採集した。

○古代寺社関係史料
<概要>
 東大寺要録・東大寺勅封蔵開検目録・杵築大社造宮遷宮旧記注進(出雲国造家文 書)・神宮雑例集・慈覚大師伝・醍醐雑事記・造興福寺記・皇太神宮儀式帳。
 奈良・平安時代における寺社の行事や造営に関する史料、およびそれらを含めた文書類を編纂類聚した寺院・神宮誌である。それぞれの寺社経営のみならず、 社会経済史においても重要な史料である。法会、祭礼、造営およびそれらにともなう功賃に関して多くデータを得た。

<凡例>
仏教行事において、僧侶等に対して禄物として支給されているもの も、布施もし くは功賃として採用した場合がある。
神社祭礼にける構成員に対する給物は、その項目を「祭料」とした。

○古代~中世前期の古記録その他
<概要><凡例>
古記録:吏部王記・康平記・権記・左経記・春記・兵範記・小右記・中右記・台記・ 玉葉・養和二年記。
10~12世紀に皇族、公家の手によって書かれた日記である。ものの売買等の記載は少なく、主に儀式法会に関する記載からデータを得た。供料布施に関する データは、あまりに繁多であるため、今回は古記録についてのみ、それらのデータを不採用とした。
その他、以下の史料のデータを収めた。
西宮記 江家次第 日本紀略 百練抄 朝野群載 扶桑略記 本朝世紀
類従国史 日本霊異記 宇治拾遺物語 宇津保物語 今昔物語集

さらに以下の刊本よりデータを採集した。
正倉院宝物銘文集成 広島県史(安芸国徴古 雑抄《厳島文書》)
長岡京市史(東大寺文 書1通) 東京大学史料編纂所報 (文書1通)
古代文化(文書5通)

○鎌倉遺文
<概要>
 鎌倉時代の文書が編年で網羅的に収載されている。このうち物価に関するものは、 主に土地売券、相折帳、造営注文、儀式用途注文、年貢算用状、代銭納関連史 料などである。都市生活や日常的な消費生活とは離れるものも多いが、広く物価としてデータを採用した。

<凡例>
「史料名」欄に挙げる文書名は、基本的に『鎌倉遺文』のままとし た。
「史料群」欄に挙げる史料群名は、基本的に『鎌倉遺文』のままとし た。
「所収書」欄には、『鎌倉遺文』の巻文書番号を7-4432のごと く載せ、補遺編については、補1-106のごとく載せた。
借銭借米の質物は実際の売買ではないが、参考のため採用した所があ る。
衣服料として布を与えるような現物支給てきなものも、参考のため採 用した所がある

○教王護国寺文書
<概要>
 『教王護国寺文書』として活字化されたものを利用した。原則的に文書名が「算用 状」とされているものからデータを採録したが、その他にも参考として採録し たものもある。荘園経営に関する支出は、史料の性格上、年貢から控除される支出のみが記載されるという限界もあるが、地方都市地方市場における物価のあり 方として採用した。

<凡例>

「史料名」欄に挙げる文書名は、基本的に『教王護国寺文書』のまま とした。

「史料群名」欄に挙げる史料群名はすべて「教王護国寺文書」とし た。

「年月日」は基本的に「史料年月日」とし、算用状の作成年月日を採 用した。

「国名」は基本的にその算用状に記された荘園の所在国とした。

「酒」「酒代」については、支払先金額によって「酒」に分類したも のと、「礼銭」に分類したものとがある。

史料上にしばしば「半分定」の記載があるが、これは実際の支出を領 家半分地下半分として、半額のみを年貢から控除したものであり、データ としては史料上の 数値を倍にしたものを採用した。
なお、東寺伝来史料の内、「東寺百合文書」については、現在『大日 本古文書』に 活字化された内の「わ」函分(7,8巻)のみが入力されている。「造営方 算用状」など、特に建築関係の算用状類が多く含まれていることによる。

○大乗院寺社雑事記
<概要>
 大乗院尋尊の日記で、康正2年(1456)2月、尋尊が興福寺別当に補任された ところから書き始め、長禄3年(1459)3月に別当を退いた後も、永正5 年(1508)まで書き継いでいる。政治関係の記録や法会関係の記録、大乗院の運営上の記録などの他、尋損の身辺雑事などの記録もあり、それらに関わる物 品についての注文などが詳しく書かれている記事が多い。
 採録の結果としては、法会に必要な物品の注文や、頻繁に行われる建物の造営修理に必要な物品の注文からの採録が多くなった。また、毎年恒例の購入品も見 ら れ、一部は年中行事と関わっていると思われる。

<凡例>
単価が分かるものを優先して採用した。
布施任官料は一貫した基準が見られないため採用しなかった。
支払いは分納も見られるため、適宜日付を見定めて採用した。
注文購入の場合は、「物価備考」に記入した。
法会の一括購入は「日付備考」に記入した。
物の完成を単位とする場合、「工賃」とし、日が単位の場合は「労 賃」とした。

○大和田重清日記
<概要>
 佐竹家家臣であった大和田近江守重清の日記。文禄慶長の役に際して、佐竹氏が肥 前名護屋に参陣したため、重清もこれに同行し、その陣中からの、文禄2年 (1593)4月~12月分の記録が残されている。名護屋の陣や長崎などから、京都を経ての帰国の道中と、常陸へ帰国後の水戸における、購入や旅の経費な どの様々な支出が記載されている。

○神奈川県史
 東国の史料を補うため、「金沢文庫古文書」および、鎌倉の寺院関係資料を多く含 む『神奈川県史』古代中世資料編(1)~(3)下から採録を行った。






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