資料がつなぐ大学と博物館―「研究循環アクセスモデル」の構築にむけて

総合資料学の創成に向けて

国立歴史民俗博物館 館長
久留島浩

「総合資料学」をうたったシンポジウムを始めるにあたって、ひとことご挨拶申し上げます。

まず、「総合資料学」とはどのようなものを想定しているのかについて、少しお話しすることから始めましょう。とりあえずは、博物館や大学・大学博物館などに収蔵された多種多様な資料を、できるかぎり「活きたもの」として広く共用できるように情報基盤の構築を行い、さまざまな資料を総合化することで可能となる、文理融合型の新しい学術・研究であることを目ざしたいと考えています。歴博では、今年4月から始める6年間の第3期中期目標・中期計画の「研究推進の方向性」のなかで、今この新しい「総合資料学」を創成することの意義について以下のように示しています。

「人びとがこれまでに営んできた生活・文化や、歩んできた歴史の痕跡は、さまざまな「モノ」に残されている。それらの「モノ」は、素材や形態などの物質的側面はもちろんのこと、それらが作られた時代・地域・技術、さらにはそれらに与えられた役割や用途、社会的な意味や価値なども多様である。また、その多様さゆえに、それらを取り扱う方法も、それらを対象としてきた研究分野も多様である。この多様な「モノ」に光をあて、資料として活用し、それら全体を見渡せる展望台に立つことができれば、人びとが営んできた生活・文化や、歩んできた歴史を総合的に研究することが可能となる。」

現在、どうも未来が予測しにくくなっており、自分たちが生きてきた地域の歴史を見直すこと、自分の力で過去の自分たちの歴史を想像復元することが、現在の自分たちの立ち位置や歩むべき方向を考えるうえで必要になっているように思われます。このようなときだからこそ、実は身近にありながら、総合化されないため、共有できないために、「眠ったまま」になっているさまざまな地域の歴史資料を、研究・教育のために使える状態にすることが必要ではないかと思います。

とはいえ、歴史民俗系博物館は全国で3000館以上ありますし、大学といっても所蔵している場所は博物館・図書館から教員の研究室まで区々です。所蔵しているところでさえ、必ずしも全体を把握し、広く使えるようにはなっていません。ましてや、他の博物館や大学との間での、所蔵資料に関する情報の共有はほとんどできていません。

そこで、これから始める研究では、まず、デジタル化された多様な目録情報によって、地域の歴史民俗系博物館や大学・大学博物館を資料やデジタル画像で結びつけることを研究全体の前提とします。所蔵している資料は、自然科学の標本から文献資料、生活用具や美術品などのモノ資料まで実に多様ですが、情報基盤を整備・活用し、人文科学だけではなく、自然科学・情報科学との融合研究を行うことができるものと考えています。そして、その融合研究の成果をもとに、あらたな目録情報へとフィードバックする仕組みをつくることで、このような膨大な資料へのアクセス手段を多様化することを目指しています。この過程のなかから、新しい資料学である「総合資料学」を創成することが第一の課題です。

第二に、この「総合資料学」の研究成果については、この研究創成課程で新たな研究情報を付与された資料群を用いた「展示」を実現し、言わば「見えるかたち」で表現・公開したいと考えています。この展示は、できれば他の博物館・大学博物館などでも巡回できるようにするとともに、大学の教育プログラムとして活用したいと考えています。情報基盤の整備と共有は、博物館独自の展示や、大学独自の教育プログラムをつくることを可能にするはずです。さらに、このような展示や教育プログラムについては、その評価方法も含めて研究の対象にすることで、それ自体が新たな研究につながるものと考えています。広義の意味では、歴史学をベースにしながら、多様な資料情報と組み合わせることで、新しい文理融合研究につながることを期待しています。

実は、「資料」や資料情報を収集・分析し、それをもとに共同研究を進め、その成果を展示や教育の実践というかたちで広く大学や学界、社会に還元するとともに、展示や教育実践の過程や成果から、新しい研究課題を発見するという研究方法・研究理念、言わば「資料」と「研究」と「展示」とを相互連関的に結びつけることで新しい研究課題を発見するという研究方法・理念は、歴博がこれまでに実践してきた「博物館型研究統合」そのものであり、私たちはこの研究理念・研究方法をさらに進化・深化させることを目指したいと思います。

先にも述べたことと関わりますが、歴史民俗系博物館資料は、地域の歴史・文化の拠点であるだけではなく、地域そのものを知るための基礎資料の集積場でもあります。そして、大学博物館は、大学がこれまでに研究してきた成果のもととなる資料を蓄積している、大学の基盤組織の一つです。これらの博物館資料は、今までの人文科学の知見のみでは、総体の像をとらえきれず、自然科学的な資料も合わせた研究が不可欠です。また、これまでは、人文科学の文脈としてしかとらえきれないようなものでさえ、自然科学の知見を得ることで、新たな地平が拓けてきます。このように、さまざまな諸学を総合し、総体的な研究を行うことが、未来を考えるための「広義の歴史学」を深めるうえでは欠かせないと考えます。

私たち、国立歴史民俗博物館は、博物館という形態の大学共同利用機関法人として、大学に向けてこれらの総体的な研究への基盤を整えることがもっとも重要な責務ですが、同時に、地域の博物館に向けて情報基盤を提供しネットワークを作ることで、博物館資料や博物館そのものの活性化をはかることにも大きな責任を負っていると考えています。そのためには、私たち歴博自身が、所蔵資料情報を公開・共有して、総合的に過去を明らかにする研究を行い、その成果を展示というかたちで公開する活動を行うとともに、みなさまと一緒に、このような大学・博物館間での所蔵資料情報や研究成果の共有化を推進し、「総合資料学」をみえるかたちの新しい学にしなければなりません。

シンポジウムでは忌憚のないご意見をいただければと存じます。今後、皆様方のご協力をたまわることになると思いますので、よろしくお願い申し上げます。