特別研究員奨励費

出土文字資料を用いた古代日本地方支配の実態的研究

研究期間:2010年度~2012年度

研究代表者 武井 紀子 (本館・外来研究員)

研究目的

本研究は、古代日本地方支配のあり方について、日本国内の個々の出土文字資料を用いて、法制度のもとで実際に機能していた支配構造を明らかにするとともに、それがどのような制度的淵源を持つのかについて東アジア全体の中での解明を目指す。具体的には、古代の倉庫システムについて考察を進め、そこから官衙内での財政運用の実態や、その運営主体である国郡里(郷)制の設定原理など、古代国家がどのようにして地方支配を機能させていたのかを多角的に描き出す。

上記のような目的を達成するためには、(A)中央からみた地方支配政策(法制度論)と各地域で実際に機能していた支配システム(制度機能論)の双方からの検討、(B)中国・韓国を含めた東アジアの中での地方支配構造の実態的比較研究、のふたつの視点が必要である。そのために、(1)収取される穀物の種類・穀物同士の換算・その収取体制について、(2)倉の出納管理・官衙の財政運用の実態・物資運搬と官蛾修理のための労働力編成とその管理、(3)古代朝鮮・古代中国における地方支配構造との比較検討を行う。その基礎作業として、まず(1)(2)に関連する出土文字資料情報の収集・整理作業を行う。さらに、収集した資料を一点ずつ考察するとともに、その類型化を行い、上記テーマについて実態的な制度機能のあり方を具体的事例に基づきながら描き出す。次に、(3)東アジアの中での比較のために、北宋天聖令の公表により可能となった日唐倉庫令の法制比較および日本の倉庫制度に関わる法制度を研究する。その上で、中国の簡牘(3~4世紀の走馬楼呉簡など)、および古代朝鮮の文字資料(6世紀代の韓国木簡および金石文資料など)による実態的比較を試みる。

以上により、日・韓・中の出土文字資料を駆使して、倉庫をテーマとした古代日本の地方支配に一つの全体像を示すことを目的とする。