研究活動一覧

科学研究費補助金による研究

平成16~20年度 文部科学省・科学研究費補助金 学術創成研究費:
弥生農耕の起源と東アジア-炭素年代測定による高精度編年体系の構築-

国立歴史民俗博物館における炭素14年代測定実績(2005年)

国立歴史民俗博物館(歴博)は、本学術創成研究に代表される、高精度年代測定法を活用した歴史資料の総合的な研究に取り組んでいます。ところが、加速器質量分析計(AMS)といった「炭素14の測定装置」は保有していません。装置が高額なことや維持の大変さもありますが、これは年代研究に対する姿勢の現れでもあります。
炭素14年代に基づく年代研究では、試料そのものが大きな役割を担っています。出所がはっきりし、考古学的・歴史学的な情報の整っている試料を複数測定することで、測定結果に基づく考察が初めて可能になります。もちろん研究としての立場からは、測定対象となる試料の開拓や、測定法の開発なども興味の一つではあります。ですが、現在では方法論的な手法はほぼ確立されていて,どの機関に測定を依頼しても同じ結果が得られます。もはや年代研究は測定する側ではなく、考古学・歴史学といったその値を必要とする側に委ねられているのです。

試料の受入から測定まで

歴博には様々な形で試料がもたらされます。基本的には研究を立案し、それに沿った形で試料の収集を図ります。その際は教育委員会や埋蔵文化財センターなどのご支援が欠かせません。現地に赴いて試料採取を行うことが多いのですが、期待したものが採れなかったり、逆に思いもよらないサンプルが現れたりすることもあります。試料は化学処理中に溶けてなくなってしまうこともあり、それを見越してどうしても多めに拝受することになります。全ての試料の年代値が得られるとは限らないことを、どうかご了承いただければと思います。
なお時々お問い合わせのあることですが、研究機関という歴博の性格上、共同研究という形をとれない限り分析の依頼は現在のところお受けできません。
受け入れた試料は整理のうえ、年代測定資料実験室での処理を行います(表1)。炭素14年代の測定は試料そのものの形ではなく、試料を洗浄して炭素を取り出し、測定試料(グラファイト)に転換して行われます。その処理中に懸念される実験室エラーを低減することが大切です。本来は全ての試料からグラファイトを調製し、標準試料とともに測定を依頼できることが理想ですが、調製が追いつかないため中途段階で測定を依頼することもあります。ただしその場合も、洗浄処理(AAA処理)までは実験室で行っています。その過程で試料自体からも様々な情報が得られますし、何よりも測定試料に対する実験室の責任を果たすためです。
炭素14年代に加え、試料に含まれる炭素や窒素の分析が有益な情報をもたらすことが分かってきました。土器の付着物については、AAA処理を施した試料の炭素・窒素比と安定同位体比(δ13C値,δ15N値。一部は精製した二酸化炭素によるδ13C値のみ)の測定を依頼しています。

2005年の測定実績

歴博で2005年に報告された炭素14年代は、1015測定にのぼります。この数字は1つの木材から採取された複数の年輪層や、1つの土器の内外から採取された付着物、あるいは再測定、再現性を確認するための繰り返し測定などをすべて1測定としています。ですから、測定対象とした試料の数としては669個体に相当します(図1)。ただし1つ1つの年代値を得るプロセスは共通です。また、同時に測定される標準試料の調製などはこの数字に現れていません。  
測定の半分近くは、共同研究を進めている東京大学タンデム加速器研究施設と、名古屋大学年代測定総合研究センターで行いました。両機関では、実験室で調製したグラファイトが測定されています。一部のグラファイト、グラファイトを調製する過程で得られた二酸化炭素(CO2)、およびAAA処理済の試料の測定は民間の測定機関に依頼しました(図2)。測定結果については、必要に応じて各機関と検討を行いました。
今年度は学術創成研究の対象が西日本から東に拡大されたため、試料の出土地にもそれが反映される結果となりました。また弥生時代の開始期を検討する上で必要な、縄文晩期試料の年代も蓄積されました(図3)。日本列島における弥生時代の展開を解明するためには、より新しい時代の試料の精確な年代を蓄積することが必要になると考えています。

(文責 坂本 稔)