研究活動一覧

科学研究費補助金による研究

平成16~20年度 文部科学省・科学研究費補助金 学術創成研究費:
弥生農耕の起源と東アジア-炭素年代測定による高精度編年体系の構築-

日本産樹木年輪試料の炭素14濃度測定

はじめに

炭素14年代法によって得られる炭素14年代はいくつかの仮定をもとにした仮想的な年代です。そのため実際の年代を得るためには仮想的な年代である炭素14年代を変換するためのデータベースが必要となります。近年では年輪年代法などの手法により年代の決められた樹木やサンゴの年輪試料などの炭素14測定値をもとに国際的な較正データベースが作成されており、昨年3月にもっとも新しいものとしてIntCal04(Reimer et al., 2004)が公表されました。北半球全般において適用可能とされているIntCal04ですが、時期と地域によってはわずかながらもずれのあることが指摘されており、地域効果と呼ばれています。IntCal04が北アメリカやヨーロッパの樹木年輪試料の測定結果をもとにしていることを考えると、もっとも遠い地域に当たる日本における地域効果の検証は非常に重要であると言えます。しかしながら、そのような研究はほとんど行われていないのが現状でした。それが日本考古学における炭素14年代法への不信感の一因とも言えるのではないかと思います。
また、我々の研究グループでは、精力的に土器付着炭化物などの炭素14年代測定を行っており、主に縄文時代晩期から弥生時代にかけての試料の年代測定に焦点を当てています。このうち弥生時代前・中期にあたる紀元前(BC)750年からBC400年にかけてはIntCal04は平坦となっており(図1(PDF:29KB))、炭素14年代から実年代へ換算すると確率分布にして広い年代範囲にわたってしまいます。このような時期についても高精度な炭素14年代測定を行う可能性を見出すために日本産樹木による較正データベースの作成は強く望まれるところです。
ここでは、日本版炭素14年代較正データベースの構築を最終的な目的として行っている日本産樹木年輪試料の炭素14測定についての現況を紹介します。

試料と測定試料調整

これまでに年輪年代法によって年代の決められた年輪試料2点について加速器質量分析(AMS)法による炭素14測定を行っています。一つは長野県飯田市畑ノ沢地区で見つかったヒノキの埋没樹幹で、BC705年からBC193年にあたるものです。もう一つは広島県東広島市黄幡1号遺跡から出土した加工木材資料の一つで、BC820年からBC436年の年輪を持ち、これもヒノキです。これらの年輪試料の年代幅を図1に示しました。弥生時代前・中期に当てはまり、現在我々がもっとも関心を持っている時代領域であります。
年輪試料は5年輪ごとに切り取り、細かく粉砕した後、酸-アルカリ-酸(AAA)処理によって埋没していたときに付着した不純物を、塩酸、亜塩素酸ナトリウムを用いた塩素漂白によりリグニンを、濃アルカリ溶液処理によって重合度の低いヘミセルロースをそれぞれ除去します。そして、最終的に年輪間で移動しないとされるα-セルロースのみを抽出します。得られたα-セルロースから真空ラインを用いて二酸化炭素を分離・精製した後、グラファイトとし、AMS測定用の試料としました。AMS測定は名古屋大学年代測定総合研究センタータンデトロン加速器質量分析計および東京大学タンデム加速器研究施設にて行いました。

IntCal04との比較

図2(PDF:34KB)に、これまでの測定により得られた結果をIntCal04とともに示しました(2回以上の測定を行ったものついては平均値をプロットしてあります)。これらの結果を見ると、細かな部分ではIntCal04とのずれが認められるものの、おおよそにおいてIntCal04較正曲線と整合的であると思われます。つまり、これらの結果をもとに較正曲線を作成し、較正年代を算出したしても、確率分布の形状や年代幅がわずかに異なる可能性はありますが、これまでの土器付着炭化物の炭素14年代測定による年代観を転換しなければならないような違いは生まれないと推測されます。
さらにIntCal04較正曲線の作成に用いられた分析結果を図3(PDF:41KB)に示しました。これらの測定点数をみると、今回報告した我々の測定点数の方があきらかに上回っています。それを考えるとこれらの結果とIntCal04とのずれが本当に地域効果によるものか、IntCal04自体に見直しを要求するものか、どちらとも判別しにくいところです。今後はこれらの試料も含めた日本産樹木の分析を進めるとともに日本産以外の樹木などの測定なども行い、対比を行いながら進める必要もあります。

(文責 尾嵜大真)