若手研究(スタートアップ)

占領期日本における生活物資の闇取引に関わる民衆生活と政治過程の相関に関する研究

研究期間:2006年度~2007年度

研究代表者 原山浩介 (本館・研究部)

研究目的

本研究においては、いわゆる「戦後闇市」と、生活物資の「闇取引」を題材として、そこに立ち現れる民衆生活世界と、それを抜きがたく規定する行政動向との相互関係を明らかにする。

一般的に戦後の「闇市」や「闇取引」は、行政による統治の網の目をかいくぐって成立したもの、ともすると裏社会のものとして理解される。こうした理解は、「闇市」「闇取引」の性格を言い当てるものとして、一面において正しいといえるが、しかしあくまでも一面的な理解に過ぎない。

というのも、こうした理解においては、例えば、政府の「物価通貨対策委員会」において、物資・物価の統制がそもそも戦時中から破綻していたという事実に鑑み、統制を撤廃することで、当時としては違法状態であった露天商を合法的な存在として追認することが検討されたこと、あるいはまた、闇市を閉鎖するのではなく、むしろ一定の秩序をもたらす目的で、市場の運営に介入していった例が見られたことなどが、見落とされていると言わざるを得ない。また、物資の需給が安定化してきた1947年から1948年にかけて、大都市を中心に、粗悪品や闇価格を追放・撲滅しようとする、婦人を中心とした運動が生起するが、それらが実は物価庁やGHQ/SCAPの要請と支援を受けて成立した一種の政治的PRという一面があったことが看過されており、このことは、一般的な市民の要求が「闇市」「闇物価」に対立的であったとの認識をもたらしながら、上記の一面的な理解を補強するものとなっている。

これらの事実が看過されがちな背景には、占領期の日本政府、ならびにGHQ/SCAPの政策をめぐる研究動向がある。当時の政治機構や、法整備に関わるようなマクロな政治史についての研究蓄積はかなり進んでいるが、その一方で、人びとの日常生活に直接的に関わるような行政動向、指令などについては十分な蓄積が為されていない。

本研究では、この時期の民衆生活をめぐる研究のこれら難点を補うべく、「闇市」「闇取引」をめぐり、民衆生活の実態と政治過程の双方を見渡し、両者の相関を分析する。