基盤研究(C)

日本歴史における水田環境の存在意義に関する民俗学的研究

研究期間:平成15年度~平成18年度

研究代表者 安室知 (本館・研究部)

研究目的

近代以前において日本の稲作は生業として強い特化傾向を示し、結果として高度に水田化されたいわゆる稲作単作地が各地に形成された。しかし、実際の耕作者の視点に立ってみるとき、そうした水田およびそれを取り巻く環境は稲作のためだけに利用されてきたわけではなかった。その背景として、農薬や化学肥料が大量使用される以前の水田が、多様な動植物にとって棲息の場でありかつ繁殖の場となっていたことが挙げられる。

これまでの研究により、水田環境を利用する生業活動として、「水田漁撈」が提唱されるに至っている。しかし、それ以外には、水田環境を利用した生業活動の実態はほとんど解明されていないといってよい。日本列島の場合、人工的な湿地ともいえる水田地帯にはガン・カモ科を中心とした渡り鳥が毎年訪れるが、断片的な資史料からは、そうした鳥類を対象とした狩猟が稲作民によっておこなわれていたと推察される。

そこで、まずはじめに、日本各地において水田環境を利用しておこなわれてきたガン・カモ科を対象とした狩猟活動の実態を聞き取り調査により資料化する。それにより、水田狩猟のあり方を考察しつつ、近代以前の水田が有していた潜在力を明らかにし、またそうした潜在力を狩猟というかたちで利用する稲作民の生計維持のあり方を究明する。