基盤研究

公募型共同研究

『聆涛閣集古帖』の総合資料学的研究

研究期間:平成29年度~平成31年度

研究代表者 藤原 重雄 (東京大学史料編纂所)
研究組織

一戸 渉(慶應義塾大学斯道文庫)
稲田 奈津子(東京大学史料編纂所)
落合 里麻(秋田公立美術大学)
佐藤 洋一(福島県立博物館)
清水 健(奈良国立博物館)
古市 晃(神戸大学大学院)
吉田 広(愛媛大学ミュージアム)
村野 正景(京都文化博物館)平成29年6月より
小倉 慈司(本館研究部)
後藤 真(本館研究部)
島津 美子(本館研究部)
三上 喜孝(本館研究部)

研究目的

『聆涛閣集古帖』(以下、『集古帖』)は、摂津国菟原郡住吉村呉田(現在の兵庫県神戸市の東部)の江戸時代の豪商・吉田家により編纂された古器物類聚の模写図譜である。豊かな財力を背景に、江戸時代の後期(18世紀後半)から明治初年(19世紀後半)にかけて、三代・約100年間にわたって、当時の学者や貴族たちとの交流を通じ、多くの古文書や古物を収集して、この『集古帖』は編集された。

『集古帖』は、さまざまな古い器物を「天地・尺量・升量・扁額・文房・肖像・書・碑銘・墓誌・鐘銘・雑銘・甲冑軍営・弓矢・刀剣・鋒・馬具・楽器・印章・鏡・織紋・乗輿・玉・食器・食品・葬具・調度・嚢匣・瓦・鈴鐸・戯器・仏具・雑」の分類の下、全46帖に総計約2,400件を収録し、他に20点ほどの肖像画・絵図の未表装模写が付属する。物質資料や文献資料の精巧な模写・拓本、古印の模写・模刻、あるいは古い絵画からの抜き描きに、簡単な注記・解説を記す体裁である。写された対象は、人間の過去の痕跡、すなわち歴史に関する広い領域に及び、『集古帖』をめぐる「集め、写し、伝える」活動は歴史系博物館の基本的な構成要素を備え、さながら前近代における「総合資料学」の様相を呈している。

『集古帖』に写し取られた対象には、モノとして現存する場合も多数含まれ、現存資料との同定が基礎作業として必須である。また、同種の集古図譜が近世から近代にかけて各地で制作されており、それら集古図譜そのものの比較を通して、近世の学術ネットワークの実態解明も課題となる。また吉田家では、古文書原本を貼った手鑑『聆涛閣帖』も編集していたが、1940年代後半に解体・売却されており、吉田家の歴史の解明と併せて、散逸古文書の追跡も、『集古帖』の世界を補完的に理解することになる。

本研究では、館蔵資料『集古帖』を、さまざまな専門分野の研究者により、現在の研究水準からあらためて総合的に調査・検討し、基礎的な情報を蓄積するとともに、近世から近代に地域社会が育んだ知のネットワークを解明し、その文化史的な背景を把握して、現代の歴史研究を顧みる機会ともする。

併せて、多分野の研究者によりひとつの学術資料からできるだけ豊かな情報を引き出す研究手法を開発し、研究成果を総合資料学の実践例として提示する。具体的には、『集古帖』に描かれた古器物1点1点について調査・研究した成果を、画像を含めたデータベースという形で公表することをめざす。その際、図像1点1点について、IIIFというシステムを活用し、研究で明らかになった情報に加え、実物資料との対応や他の集古図譜とのリンクなど、得られた情報をデータベース上で引き出せるシステムを構築する。なお『集古帖』は、2015年度に全点についての高精細画像を撮影し、略目録を作成済みである。