基盤研究

歴史資源開発研究

人骨出土例による縄文社会論の考古学・人類学・年代学的再検討

研究期間:平成28年度~平成30年度

研究代表者 山田 康弘 (本館研究部)
研究組織

設楽 博己 (東京大学大学院)
近藤 修 (東京大学大学院)
米田 穣 (東京大学総合研究博物館)
日下 宗一郎 (ふじのくに地球環境史ミュージアム)
山﨑 健 (奈良文化財研究所埋蔵文化財センター)
太田 博樹 (北里大学)
覚張 隆史 (金沢大学人間社会研究域附属国際文化資源学研究センター)平成28年7月から
舟橋 京子 (九州大学大学院比較社会文化研究院)平成28年7月から
石丸 恵利子 (広島大学総合博物館)平成29年度から
坂本 稔 (本館研究部)
工藤 雄一郎 (本館研究部)

研究目的

日本各地、特に渥美半島や瀬戸内において1920年代を中心に出土した縄文人骨群は,戦前・戦後を通して「日本人種論」の中核をなす資料であったとともに、考古学的にも縄文時代晩期墓制の基準資料とされ、これまでにも多くの研究者が当該資料を用いて研究を行ってきた。しかしながら,申請者の山田を研究代表者とする最新の研究成果(歴博共同研究「先史時代における社会複雑化・地域多様化の研究」(2012〜2014年度)、科研費基盤研究(B)「愛知県保美貝塚出土資料による考古学・人類学のコラボレーションモデルの構築と展開」(2013〜2015年度)など)によれば、愛知県吉胡貝塚・伊川津貝塚・保美貝塚・稲荷山貝塚・岡山県津雲貝塚出土人骨という,これまで基準資料とされた事例の中には、縄文時代後期の事例や弥生時代前期のものなど、時期を違えたものが相当数混在しているということが明らかとなった。

たとえば稲荷山貝塚の事例では、これまで抜歯型式の4I型(下顎切歯4本を除去するもの)と2C型(下顎左右犬歯を除去するもの)の人骨は同時存在するものとされ、それぞれが埋葬地点を違えて群をなすことから、両者は集団内において排他的な関係にあること、これより類推して抜歯型式の相違は出自の相違(そのムラの出身者と外部からの婚入者)であると理解されてきた。この点は、先行研究者によって唱えられてきた、抜歯型式による縄文社会構造論における議論の前提であった。しかしながら、稲荷山貝塚出土人骨を年代測定してみると、抜歯型式の4I型と2C型は同時存在するものではなく、時期差によるものであることが判明した。同様に、吉胡貝塚出土人骨(2C型)を複数体選定し、年代測定したところ、人骨の帰属時期が少なくとも後期末・晩期中葉・弥生時代前期の3時期となることが判明した。このことは、従来の研究の前提が誤っていたことを示すとともに、これまで発表されてきた抜歯仮説による縄文社会構造論は成立しないという事実を研究者に突きつけることとなり、今や縄文墓制・社会の研究は振り出しに戻ったと言っても良い状態となっている。

この状況を打開するためには、先にあげた人骨資料そのものの年代測定を行い、その測定値を参照しながら考古学・人類学・年代学・遺伝学の各見地から上記の人骨群の形質・墓制等を再検討することが必要となる。今回のプロジェクトは、上述した各遺跡の人骨群の中から遺存状態が良好で、かつ考古学的な埋葬属性が検討可能な事例を主たる対象として新規にデータベースを構築し、年代測定および同位体分析,可能であればDNA分析を行い、その結果を参照しながら墓域構造を復元するとともに従来の墓制論・社会構造論を再検討し、新たな縄文社会構造論のモデルを提示するところまでを目的とする。