開発型共同研究

日本近世における彩色の技法と材料の受容と変遷に関する研究

研究期間:平成26年度~平成28年度

研究代表者 島津 美子(本館研究部)
研究組織

荒井 経 (東京芸術大学大学院)
江村 知子 (東京文化財研究所)
岡田 靖 (学識経験者)
武田 恵理 (文化財保存修復スタジオ)
中右 恵理子 (東北芸術工科大学)
坂本 満 (日仏美術学会)
大和 あすか (静岡市東海道広重美術館)平成27年度3月から
齋藤 努 (本館研究部)
大久保 純一(本館研究部)
鈴木 卓冶 (本館研究部)

研究目的

本研究の目的は、日本近世の絵画と彫刻に用いられた彩色の材料や技法と、それらの変遷を明らかにすることによって、従来からあった日本の彩色技術と表現が、国外文化の影響を受けてどのように変化していったかを探ることである。

美術史学的にとらえられている変遷は以下の通りである。まず、中国大陸や朝鮮半島からの影響は、近世においても大きな位置を占めており、例えば黄檗派などでは、絵画の表現や彫刻の形態の中へと融合されていったことが知られている。これに加えて、1549年のフランシスコ・ザビエル来航を契機に、西洋文化の影響も直接的に及ぶようになり、南蛮屏風や初期洋風画が成立する。南蛮屏風が日本の絵画技法によって描かれているのに対し、初期洋風画は、近世初期にキリスト教の布教活動に伴って流入した西洋絵画技法によって描かれた。当時の西洋絵画は、銅板や麻布に油彩や卵テンペラによって描かれることが主流であったので、日本での絵画製作でも同様の技法や材料が用いられていたと考えられる。初期洋風画にみられる技法および表現は、禁教によっていったん衰退するが、江戸時代中期になると、日蘭貿易などを通じた西洋の科学技術の積極的な受容とともに、絵画の図像表現にも再びその影響が現れ、秋田蘭画の成立や油彩画の製作につながっていく。

これらの変遷に伴って、当然、彩色材料や技法も変化していったものと推察されるが、現状では美術史学的な範疇での研究にとどまっており、自然科学的な手法を併用した体系的な調査は行われていない。そこで本研究では、それらの変化を明らかにするために、おもに近世初期および中期の絵画および彫刻を対象資料とし、材料の種類や入手経路、技法や色彩表現といった調査項目について、材質分析や産地推定分析、色彩計測などの自然科学的な手法を取り入れた研究を行う。調査の中では、日本独自の技法であるか国外からの影響が認められるかという点に着目し、(1)塗り重ねや混色といった彩色の技法と色彩表現、(2)顔料や膠着材などの彩色材料、(3)画題や構図に現れる中国大陸・朝鮮半島および西洋由来の絵画表現、についての調査を行う。

絵画資料として、非破壊的な手法での調査には、近世初期における「洛中洛外図屏風」などの屏風絵図、近世の日本絵画の本流である狩野派による絵巻資料、江戸中期に油彩技法を取り入れた司馬江漢による「西遊旅譚」(紙本著色)などの館蔵資料を対象とし、微小の試料採取を伴う調査には、初期洋風画ほか同時期の対象資料を選定する。それらの分析結果から、近世に用いられた技法や材料の傾向を把握することを目指す。彫刻資料については、絵画資料との関連性も考慮し、江戸初期黄檗派などの調査資料を選定し、絵画資料の調査結果との比較を試みる。さらに、これらの技法、表現、材料のどの点において、中国大陸・朝鮮半島あるいは西洋技術の影響が認められるかを明らかにする。また調査結果から推定される技法や材料が、技術的、歴史的に齟齬がないかを、実践による再現や文献史学的調査を通して検証していく。以上により、図像や形態の表現とその変遷、彩色技法および材料の使用傾向とその変遷という、従来個別に議論されがちであった2つの視点から、近世の彩色技術と表現を総合的にとらえることを目的とする。