基盤研究

歴史資源開発研究

対外関係・交流史を歴史展示で表現するための実践的研究-19世紀を中心とする対米および対独との関係・交流を展示で表現する試み-

研究期間:平成25年度~平成27年度

研究代表者 保谷 徹 (東京大学史料編纂所)
研究組織 横山 伊徳 (東京大学史料編纂所)
箱石 大 (東京大学史料編纂所)
三谷 博 (東京大学大学院)
R・アームストロング (学識経験者)
P・パンツァー (ボン大学)平成25年度まで
宮坂 正英 (長崎純心大学)
宮田 奈々 (ドイツ・ボン大学)平成25年度まで
ハンス・トムセン (スイス・チューリッヒ大学)
麓 慎一 (新潟大学)
森田 朋子 (中部大学)
岩淵 令治 (学習院女子大学)
大久保 純一 (本館研究部)
内田 順子 (本館研究部)
原山 浩介 (本館研究部)
福岡 万里子 (本館研究部)
久留島 浩 (本館研究部)平成25年度まで

研究目的

本共同研究を考案するきっかけは、国立歴史民俗博物館(以下、歴博と略)の第三展示室・第五展示室の展示を通観したことにある。歴博が所有する濱田彦蔵(ジョセフ・ヒコ)の自筆稿本と写真を中心に、遣欧使節の経験の一部を示す展示を手伝うというかたちで、第三展示室のリニューアルに少しだけ関わった。そのときの率直な感想は以下のとおりである。まず①幕末・維新期の対外関係についての展示が五室を含めても、ペリー来航と日本からの漂流民と遣欧使節しか取り上げられていないということについてである。そもそも、今なお「ペリーと開国」というテーマで構成されている歴史叙述も多いし、展示でも「ペリーの来航によって…」という紋切り型の表現が多い。もちろん、ペリーの来航自体が日本に与えた影響は少なくなかったのだが、このあとの展開は実は単純ではない。このこと自体が、くわしい歴史年表的な説明を展示や教科書叙述に強いることになっているし、それも明治以降の展開はほとんどない。②第六室の展示では、海外移民をテーマの一つとする、あるいは沖縄問題を含む戦後のアメリカによる占領問題など、この点での対外関係・交流史の水準を示した展示にはなっているが、たとえばアジア・太平洋戦争に至る経緯との関係など、アメリカ一つとっても、なぜ戦争に至るのか、についての説明は必ずしも十分ではない。西欧諸国ではアメリカ以外、アジアでは中国、朝鮮以外の国との関わりがほとんど見られないようにも思われる。たとえば、せっかくドイツの南洋の植民地を委任統治することの意味についても、そのあとのドイツとの思い出したくない関係も含めてほとんどない。

改めて言うまでもないが、限られたスペ-アスであることは承知しており、すべてを展示する必要はない。しかし、対外関係・交流史という視点で、かつテーマと時間を絞ることでそのような歴史展示を構築できるのか、それで何が伝わるのか,という点の実践的な研究・展示を試みることは、今後、歴博の展示をリニューアルしていくときには有意義な経験になるのではないかと考える。

そこで、本研究では、大きく二つのチームに分けて研究を進め、まずドイツとの関係・交流史に関わる展示(現在の展示イメージは別紙1)を実現させ、続いてアメリカとの関係・交流史を展示したい。少なくとも、展示プランのうえで、その両者が比較できるようにすることを目標とする。

ます第一のチームは,アメリカとの関係についての研究・展示チームである。現在では、さまざまな意味でもっとも深い関係を持っている国だが、少なくとも開国以降戦前までの関係はそう単純ではない。たとえば江戸東京博でも日米友好一五〇周年を記念して「ペリーとハリス」展を行ったが、ペリー・阿部正弘の修好条約からハリス・堀田正睦の通商条約交渉へという展開をなぞったにすぎない。この点では、ハリス以降の公使(プリュイン・ファルケンボーグなど)などの言動を押さえておく必要もある。意外に知られていないアメリカからの軍事技術移転の問題もある。さらに、アメリカが日本以前に結んだタイ(シャム)との条約などと比較することで、この二つの条約の歴史的性格を再検討することも大きな課題となろう。同時に、一九世紀末までを対象とするならば、フィリピン植民地化という問題も視野に入れておかなければならない。アメリカに限定されるわけではないが、条約批准および改正のための使節に関わる史料の調査・分析と展示への有効利用を試みたい。たとえば、参加者の一人である黒沢貞備が残した資料群の本格的な分析も課題となる。とくに、岩倉使節団を中心にその後のアメリカとの関係をどのようなかたちで展示できるのかについてもあらためて課題にできそうである。第六展示室でも課題とされたように、開戦にいたる日米交渉を、その前史から考えてみることも重要だし、たとえば日系移民の比重が高いハワイから、日米関係を考えることも重要なテーマとなりうるであろう。しかも、それを展示で表現することは、現在のハワイの日系人博物館やアリゾナ記念館の展示と比較することとあわせて現代につながる歴史の重要な課題でもある。こうした点について、検討しながら、せめて戦前までの日米関係・交流史を展示で表現する(もしくは展示プランを作成する)ことにしたい。

第二のチームは、このアメリカとの関係と比較できるように、プロイセン、ドイツ帝国との関係に注目したい。少し論点は異なるが、プロイセンと同時期にあいついで通商条約の締結交渉に入ったスイス・ベルギーあたりも含めて考えることも有効である。史料的には調査・研究が必要であるが、後述するようにこれまでの成果に依拠することができそうである。ここでは、それぞれの国との通商条約交渉とその内容、その後の関係をベースに、とくに、ドイツにある日本関連資料の調査の成果を活かすことができそうなので、ある程度展示プランの構想をつくったうえで、それをたたき台としながら、新たな調査・研究テーマを決めることもできそうである。本館は第一次世界大戦で日本軍捕虜となったドイツ人の貴重な資料群を所蔵しており、こうした資料の研究・展示活用も重要な課題の一つとなる。

※なお、外部資金の獲得なしには、実際の展示はできないので、その場合は、展示プランおよび研究報告を成果物として刊行することにするので、一年目終了後、見通しについて報告する。その場合は、博物館における歴史展示比較を中心にする。また、展示研究のなかには、異文化を展示することを比較するという課題を含んでいる。