基幹研究

震災と博物館活動・歴史叙述に関する総合的研究

(総括研究代表者 本館・研究部 久留島 浩)

【多元的フィールド解析研究】東日本大震災被災地域における生活文化研究の復興と博物館型研究統合

研究期間:平成24年度~平成27年度

研究代表者 川村 清志 (本館研究部)
研究組織 前川 さおり (遠野文化研究センター)
山内 宏泰 (リアス・アーク美術館)
榎 陽介 (学識経験者)
川島 秀一 (東北大学災害科学国際研究所)
日高 真吾 (国立民族学博物館)
会田 理人 (北海道博物館)
兼城 糸絵 (鹿児島大学)平成26年度から
内山 大介 (福島県立博物館)平成26年度から
葉山 茂 (本館研究部)
柴崎 茂光 (本館研究部)
内田 順子 (本館研究部)
青木 隆浩 (本館研究部)
松田 睦彦 (本館研究部)
山田 慎也 (本館研究部)
久留島 浩 (本館研究部)平成25年度まで
山田 康弘 (本館研究部)
小池 淳一 (本館研究部)
加藤 秀雄 (本館研究部)

研究目的

東日本大震災(以下、震災)は、日本社会全体に大きな被害を与えたが、特に歴史研究の中核である地域社会がこうむった被害は甚大である。歴博では2011年4月以降、気仙沼市をはじめとする三陸地域で被災文化財のレスキューを中心とする救援事業を展開してきた。本研究はそうした事業と並行して、被災地域の調査研究システムの復興と地域における被災文化財を素材とした研究発信の可能性を探ることを目的とする。

本研究は大きく、以下の3つの目的を達成するために構想された。

まず、第1には、震災で大きな被害を受けた三陸沿岸域における文化財を救出と再資源化に関するシステムを実地で検証、整理し、今後起こりうる大規模災害に対する文化財保護の側面からの備えを構築することである。これまで地域における文化財の調査研究は地域の博物館、資料館が主要な役割を果たしてきた。しかし、震災によって施設はもちろん、人材、情報システム、ネットワークが大きく損なわれたことは周知の事実である。本研究はそうした状況を克服し、地域における生活文化研究を再起動するための方策を構築する。具体的には三陸沿岸域における文化財の保全活動を地域間、学問間、制度間の連携によって効果的に進行させるための組織構想と研究課題の検討とを行いたい。

第2に、被災地域における無形文化財の保護に関する方法論の構築である。文化財の調査、保全、復興に関しては震災以降、有形の文化財に対する救援活動は大きな成果を挙げてきたが、無形の文化財に関する救援については必要性は意識されてはいるものの、着手に至るには多くの克服すべき課題があり、極めて手薄な状態である。本研究は地域の調査研究に長年従事してきた研究者の参加によって、地域における無形文化財の復興と継承に関する具体的な対象を設定し、そこから無形文化財の担い手や支援をめぐる問題を分析、検討することを通して、被災地域における有形・無形両面にわたる文化財の研究を構築し、発信したい。

第3に、こうした被災地における多様な文化財の復興、継承に関する問題を多角的に検討することで、生活文化のレベルからの地域社会の再検討が可能になる。今回の被災地域は津波による被害が深刻であったが、長い眼でみれば、豊かな漁業資源をはじめとする海の恵みを利用してきた地域でもある。三陸沿岸という海の正負の両面と向き合ってきた地域文化を行政区分を超えた枠組みで再検討し、広域にまたがる生活文化の形成と展開に関する研究の可能性を地域における博物館、資料館と連携しながら提示、登録していく。