基盤研究

歴史資源開発研究

江戸から明治初期にかけての絵画材料および製作・流通に関する調査研究

研究期間:平成22年度~平成24年度

研究代表者 小瀬戸 恵美 (本館・研究部)
研究組織 岩切 友里子 (国際浮世絵学会)
谷口 陽子 (筑波大学)
高嶋 美穂 (国立西洋美術館)
高塚 秀治 (学識経験者)
眞鍋 佳嗣 (千葉大学大学院、平成23年まで奈良先端科学技術大学院大学)
杉崎 佐保惠 (東京都市大学)
古田嶋 智子 (学識経験者、平成23年まで東京文化財研究所)
永嶋 正春 (本館・研究部)
坂本 稔 (本館・研究部)
鈴木 卓治 (本館・研究部)
大久保 純一 (本館・研究部)
齋藤 努 (本館・研究部)

研究目的

歴史資料において、その構成材料を明らかにすることは保存や修復のみならず、資料の歴史的・美術史的位置づけをおこなううえでも非常に重要である。しかし、絵画などの美術資料については、美術史研究者による「退色や破損など、資料の美術的価値を損ねる恐れがあるのではないか」との懸念などから、自然科学分析の適用資料範囲が限られていた。しかし、近年における文化財科学的手法による調査事例の蓄積や、非破壊分析装置の開発などにより、徐々に自然科学調査の実施例がみられるようになってきている。

日本の絵画などを色材や技術の観点からみると、江戸時代〜明治時代初期には、それまでの伝統技術が保持される一方で改良も施され、また海外諸国から天然顔料や人工顔料が輸入されるなど、何度かの画期が認められる。またそれぞれの変化に応じてそれまでにない新たな表現方法があらわれるなど、材料と美術表現の関連性をさぐる上で美術史的にきわめて興味深く、また重要な時期といってよい。しかしこれらは主に美術史研究者の肉眼観察やわずかな文献記録に基づく考察によるものであり、自然科学的な分析による裏付け調査はごく一部に留まり、時代を通じての系統的な分析調査は行われていなかった。

本研究では自然科学的手法をもちいて材質同定をおこなうとともに自然科学・美術史学双方の観点から製作技法や流通経路の解明もこころみる。また、画像分析による製作時の色彩復元や技術解明の手法開発とその有効性の検討もおこなうことにより、年代や製作地における技術変遷の解明をめざす。化学分析については、組成分析、ラマンや赤外などの分光分析、抗体を利用したウェスタンブロット法によるたんぱく質抽出、鉛同位体比法による材料産地推定、構造の材質調査、年代測定などを中心とする。画像分析については、歴史資料計測に適した光源や資料の表面状態を観察するのに適した解析法の検討などをおこなう。対象資料は館蔵資料を中心とするが、必要に応じて他機関の資料をも扱う。また、上記研究組織のメンバーは中心となるものであり、個々の資料調査および技法調査の際には関係する館内外の研究者や伝統技術保持者にも協力を仰ぐ。主な対象資料は以下のとおりである。

1.江戸後期から明治初期の絵画資料の材質と製作、流通

当館が平成20年度に購入した「歌川派錦絵版木」368枚とその版木をもちいて摺られた錦絵を対象として、使用された顔料・染料・膠着材の同定をおこなうとともに、版木の残された彫り目や記された墨書などを精査して技法の解明を試みる。美術史研究者の研究(肉眼観察)により、時期によってかなり色感の違いが認められることが指摘されているが、ごく限定された時期・種類のものしか自然科学的な分析が行われていない。また、同時に明治初期にかけて極端に誇張された西洋由来の遠近法をとりいれた民画である泥絵も対象とする。これは近年、絵画として再発見されたものであり、製作技法の双交流の端となりうる。加えて、これら絵画資料の表面状態計測などの画像分析手法について検討する。

2.顔料、染料や膠着材の流通

1.と関連して、日本と東洋、西洋間での顔料・染料・膠着材など材料の双交流の解明を目的として、調査をおこなう。特に江戸後期は西洋の人工顔料の日本への輸入やアジア経由での材料の流入が文献の記録として残っているので、化学分析と文献の双方から流通の解明をめざす。

3.天然顔料の原料となる金属鉱物の産地推定と技術解明

伝統的な天然顔料は金属鉱物をその原材料として製作された。これらに鉛同位体比分析や組成分析を適用し産地推定をおこなうことにより、顔料や原材料の流通経路の解明をめざす。また、同時期の金属の製錬・精錬技術を自然科学的に調査することにより、その時代の加工技術を明らかにする。