開発型共同研究

人の移動とその動態に関する民俗学的研究

研究期間:平成22年度~平成24年度

研究代表者 松田 睦彦 (本館・研究部)
研究組織 岩本 通弥 (東京大学大学院)
福間 裕爾 (福岡市博物館)
金子 淳 (静岡大学生涯教育センター)
田中 藤司 (成城大学)
関口 由彦 (成城大学)
室井 康成 (東京大学東洋文化研究所)
門田 岳久 (日本学術振興会)
呉 昌炫 (韓国国立民俗博物館)平成24年から
新谷 尚紀 (國學院大學)
岩淵 令治 (本館・研究部)
村木 二郎 (本館・研究部)
小池 淳一 (本館・研究部)
関沢 まゆみ (本館・研究部)
松尾 恒一 (本館・研究部)
山田 慎也 (本館・研究部)
原山 浩介 (本館・研究部)

研究目的

戦後の日本の経済成長は都市部への大量の人口移動を引き起こした。戦後の人の移動の特徴は、出発地点、すなわち故郷との双方向的移動ではなく、故郷へ帰ることを前提としない一方的移動であるとされる。つまり、一つの場からもう一つの場へと移動する場合、二つの場は断絶したものとされ、そこに生きる人間もどちらかの場に属した存在として、研究者の側からも、移動した人々自身の側からも語られるのである。その背景には、一定の場に軸足を置き、そこで生活を送る静的な存在としての人間認識が存在する。こういった認識は民俗学のみならず、これまで「出稼ぎ」や「移住」といった人の移動を研究対象としてきた社会学・経済史学・地理学等においても共通してみられるものである。しかしながら、このような視点は、実際には流動的で持続的な人々の移動を、固定的で一時的なものへと矮小化してしまう危険性を孕んでいる。移動を非日常的な状態として日常としての定住と対置することは、自らの置かれた状況に応じてさまざまな戦略・戦術を駆使する人々の生きる実態そのものをとりこぼすことにもつながりかねないのである。今日、U・J・Iターンのような団塊の世代の定年後の去就が注目を集めている。これは定年後の彼らの移動が都市への移動で完結したのではなく、現在でも持続していることを示している。つまり、人を静的な存在と捉え、人が一つの場のみとの関係性の中で生きることを前提とした研究では十分に分析することができない現実の存在が明らかになりつつあるのである。

本研究は、地方出身の都市生活者が常に移動の可能性を孕んだ動的な存在であるという前提に立つことで、人々の流動的な日常とその背景にある心意を捉え直すと同時に、都市や故郷という場の持つ意味を問い直すことを目的とする。すなわち、場によって人々を捉えるのではなく、人によって場の意味付けを問い直すのである。本研究では、移動や場に関する従来の研究の方法論を再検討し、新たな理論的枠組みを設定した上で、人びとの移動の実態に焦点を当てた実証的研究を行なう。その過程では、マイノリティとして特殊な状況を生きてきたアイヌや、独自の移動文化を育んできた沖縄の人々をも視野に入れる。また、隣接諸科学との協業による学際的研究を行なうことで多角的視野の獲得を目指すと同時に、人の移動とその動態に関する視点の重要性を共有したい。

以上のような作業は、人の生活を静的なものとし、人の移動を連続的・継続的に捉えない傾向にあったこれまでの都市論やふるさと論を相対化するものであると同時に、民俗学における場に頼った対象把握に再考を促すものである。