基幹研究

民俗表象の形成に関する総合的研究

(総括研究代表者 本館 民俗研究系・准教授 小池淳一)

【多元的フィールド解析研究】地域開発における文化の保存と利用

研究期間:平成21年度~平成23年度

研究代表者 青木 隆浩 (本館・研究部)
研究組織 浅川 泰宏 (埼玉県立大学)
金行 信輔 (千葉大学)
川村 清志 (札幌大学)
重信 幸彦 (東京大学)
高橋 晋一 (徳島大学大学院)
野本 正博 (アイヌ民族博物館)
宮地 英敏 (九州大学)
山本 理佳 (青山学院女子短期大学)
岩淵 令治 (本館・研究部)
内田 順子 (本館・研究部)
小池 淳一 (本館・研究部)
松尾 恒一 (本館・研究部)
山田 慎也 (本館・研究部)
柴崎 茂光 (本館・研究部)
丸山 泰明 (本館・特任助教)
葉山 茂 (本館・機関研究員)

研究目的

本研究は、基幹研究「列島における生活誌の総合的研究」のCブランチとして、地域開発と文化の保存・利用・創出の関係を明らかにすることを目的とする。

地域開発と文化の保存は、従来相反することであった。経験的にも、地域開発は文化を大きく変容させ、反対に文化は開発の遅れた地域ほど古くからのものが残存すると考えられてきた。ところが、ホブズボウムらが「創られた伝統」という概念を用いて、一般に古いと考えられているものが案外新しく創られたものであることに注意を促し、さらに彼らの批判が皮肉にもその議論の前提となっていた本質主義の限界を顕在化させたことにより、両者の関係はますます曖昧に捉えられるようになってきている。実際にも,地域開発をきっかけとした文化の保存、反対に文化を保存するための地域開発が、とくに経済難の深刻な周辺地域で行われている。

前者はまず、ダムや空港の建設を典型とした大規模開発において、強制的に消滅を迫られる地域独自の文化をどのような手段で残すかという問題と関わる。これについては、単なる記録保存を目的とするものから、新たな観光資源の創出に至るまで、様々なパターンが存在する。例えば、ダム開発は地域外からの労働者と金銭の流入を招き、地域社会を大きく変えてしまうため、水没する集落にとどまらず、しばしばその周辺地域にまで記録を残すことになる。このような場合に、国や都道府県を巻き込んだ大がかりな文化の保存活動が実施されやすい。一方、大規模開発から取り残された地域、あるいは開発事業が終わってしまった地域では、集落を維持するための数少ない選択肢の中から観光開発への道を選び、そのためにしばしば文化の利用と創造をおこなってきた。既存研究では、結果として生じた文化の保存と変化に注目することはあっても、それらを開発との関わりから検討する視点に乏しかった。そこで、本研究会では文化の保存と利用、さらにはその過程で生じる変化について、開発との関わりからより包括的な調査・研究を試みる。

後者も前者と不可分の関係にあるが、より直接的には文化行政の変化と絡んでいる。もともと文化財は面的ではなく点的な対象のうち、特に貴重なものを現状保存することを目的としていた。ところが、点的な保存をしたところで、その周辺の開発が進んでしまえば、結果的に景観が阻害され、地域らしさを維持できないという事例が多発した。そこで、文化財保護行政は、より広い範囲での文化財指定を可能とするため、重要伝統的建造物群保存地区から文化的景観、またそれを保存するための景観法へと進んでいった。しかし、ここで経済的困難に直面しているが故に失われつつある景観を、文化行政の手法で如何に保存するかという点が大きな問題になった。基本的にこれは不可能なことであるが、現状ではファサードなどの工学的措置によって部分的に試行されている。さらには、河川や田園に対しても農業工学的な復元技術が開発されつつある。これらの実態から,文化行政は現状保存から開発による保存へと大きく転換したといってよい。だが、工学的な景観保全は地域の生産や生活の機能を経済的に解決できず,したがって気休め程度の対策にしかならない。既存研究では,このような文化財行政に対して批判を続けてきたが、それでも文化財保護の対象が拡大されつつある背景やその結果として起きている文化ないし生活の変化については、検討が不十分である。そこで,本研究会では、文化の保存を目的とした開発が行われる地域的な背景と、その結果として生じつつある文化ないし生活の変化について現状把握することを第2の目的とする。