基盤研究

高度歴史情報化研究

【準備研究】古代における文字文化の形成過程の基礎的研究-古代中国・朝鮮からの伝播-

研究期間:平成20年度

研究代表者 平川南 (本館・館長)
研究組織 犬飼隆 (愛知県立大学)
李成市 (早稲田大学文学学術院)
關尾史郎 (新潟大学)
安部聡一郎 (金沢大学)
神野志隆光 (東京大学大学院)
市大樹 (大阪大学大学院)
三上喜孝 (山形大学)
新川登亀男 (早稲田大学文学学術院)
山口英男 (東京大学史料編纂)
田中史生 (関東学院大学)
森下章司 (大手前大学)
小池淳一 (本館・研究部)
高橋一樹 (本館・研究部)
永嶋正春 (本館・研究部)
吉岡眞之 (本館・研究部)
仁藤敦史 (本館・研究部)

研究目的

本研究においては、これまで行なわれてきた古代資料についての資料単位の調査研究実績を踏まえ、その総合化を目指すことを目的とする。その総合的研究の前提として東アジア諸国の文字文化の伝播の実態と古代日本における文字文化の全体像を描くことが必要と考える。

日本の歴史の原点ともいうべき古代史像は従来きわめて限られた文献史料に基づいて描かれてきた。近年、考古学の発掘調査によって全国各地の遺跡から木簡・漆紙文書・墨書土器などの古代文字資料が莫大な数、出土している(木簡については『全国木簡出土遺跡・報告書綜覧』木簡学会編、二〇〇四年、漆紙文書については古尾谷知浩『漆工房と漆紙文書・木簡の研究』科学研究費補助金若手研究(A)課題番号16682001研究成果報告書、二〇〇六年、墨書土器については、明治大学古代学研究所『全国墨書・刻書土器データベース』『墨書土器研究文献目録データベース』文部科学省学術フロンティア推進事業などに集成されている)。

国立歴史民俗博物館では20年以上にわたって全国各地から木簡・漆紙文書・墨書土器・銅印・銭貨などの出土文字資料の調査依頼を受け、調査研究し、各資料の体系化を試みてきた(その成果の一端は平川南『漆紙文書の研究』吉川弘文館一九八九年、同『墨書土器の研究』吉川弘文館、二〇〇〇年、同『古代地方木簡の研究』吉川弘文館二〇〇三年、同「日本古代印の基礎的研究」『国立歴史民俗博物館』79集、一九九九年など参照)。

また、古代日本に遺存する石碑についてはすべて複製製作を実施し、詳細な観察によりほぼ全容を把握できる状況にある(企画展示図録『古代の碑』一九九七年、古瓦および金石文拓本については企画展示図録『収集家100年の軌跡―水木コレクションのすべて―』一九九八年)。並行して、古代荘園図の収集・複製・研究も精力的に進めてきた(企画展示図録『荘園絵図とその世界』一九九三年)。とりわけ館蔵の国宝「額田寺伽藍並条里図」については復元複製を制作し、三年間の共同研究を行った(仁藤敦史編「古代荘園図と在地社会についての史的研究」『国立歴史民俗博物館研究報告』88集、二〇〇一年)。銭貨についても総合的な考察をおこなっている(企画展示図録『お金の玉手箱』一九九七年)。

さらに創設以来、国立歴史民俗博物館の重点事業として日本古代史研究の重要史料である正倉院古文書約800巻の完全複製を遂行中である(2007年度現在約300巻が完成し、企画展示図録『正倉院文書展』一九八五年および古代文字資料全般の総括的展示の成果としては企画展図録『古代日本文字のある風景―金印から正倉院文書まで―』二〇〇二年、及び平川南編『古代日本文字の来た道』大修館書店、二〇〇五年がある)。

こうした古代資料についての資料単位の調査研究実績を踏まえ、その総合化を目指すのが本研究の目的である。その総合的研究の大前提として東アジア諸国の文字文化の伝播の実態と古代日本における文字文化の全体像を描くことが必要であるが、今年度はその準備研究として、国内の木簡調査を行なうこととする。渡来人が多く居住し文字文化が在地社会に早期的に浸透していた滋賀県における資料調査、とりわけ7世紀代の出土文字資料調査に重点をおいた調査研究を行なう。

木簡をとりあげる理由は、中国の簡牘と6~7世紀以降の韓国・日本の木簡は、書写材料の材質・用途、さらにはその機能において大きな差異があるが、基本的には竹を含む木材が書写材料として用いられたという共通性が指摘でき、その背景には、韓国と日本は中国から漢字という文字、筆と墨という筆記用具、木や紙などの書写材料など文字文化を一括して受容したことが指摘できることにある。古代の東アジア社会は同一の文字、同一の書写材料、同一の筆記用具を共有している点で、一つの統一世界として把握できる可能性が指摘できるのである。

この準備研究をもとに、次年度以降、正倉院文書や各地の出土木簡資料を、中韓との比較検討の素材として扱い、5~7世紀の古代日本の文字文化の確立期において、古代朝鮮の文字文化がどのような影響を与えているかについて、韓国、中国との比較研究を視野に入れながら研究を推進していく予定である。そして、古代東アジア社会を体系的・総合的に捉えるときに、古代文字の受容の実態が、仏教や儒教などとともに重要な分析視角となることを明らかにしていく。