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歴史系総合誌「歴博」歴史系総合誌「歴博」

歴史系総合誌「歴博」 157号

連載「歴史の証人-写真による収蔵品紹介-」

民俗研究映像

本館では、一九八八年より毎年一作ずつ、わが国の伝承文化についての記録・研究の一環として「民俗研究映像」を制作し、資料として公開、保存を行ってきた。本事業は、二〇〇五年度より館内共同研究として実施され、継続している。

二〇〇七年度は松尾恒一が担当し、「興福寺 春日大社-神仏習合の祭儀と支える人々-」「薬師寺 花会式-行法と支える人々-」の二作品が制作されたが、両作品は奈良の寺院、興福寺・春日大社、薬師寺を中心として、現在の寺社の年中行事と、これを補佐する役の人々を中心に記録化したものである。

対象とする年中行事は、いずれの寺院においても古代より続く鎮護国家の儀礼である。一般の葬儀や法事等、追善儀礼を行う鎌倉仏教以降の多くの寺院と異なるのは、檀家・檀那を持たないこれらの寺院では、寺院運営の補佐的な役割を、かつて「童子」「堂童子」等と呼ばれた特定の家筋の人々が担ったことであるが、古代から現代という、行事によっては千年を超える継続の上で、彼らの尽力は多大なものがあった。

これまでテレビ番組等で制作されてきた奈良の古寺についての作品の多くは、寺院の堂舎や古仏に対する美術的、観光的な興味、あるいは仏教に対する歴史的な関心に基づくもので、 “縁の下の力持ち”的な存在である彼らの働きについては、とり上げられることはほとんどなかった。

本映像においては、鎮護国家の儀礼として出発した儀礼が、地域の行事として定着し、現在に継承される上での変容の結果、すなわち現行の行事の実態-神仏習合的、民俗的な諸作法-と、堂舎の造営、維持に関わる大工や瓦師等、職人が寺社の行事の運営の上でも、大きな役割を果たしたことに注目し、その特質を論じようとしたものである。

「薬師寺 花会式-行法と支える人々-」

薬師寺の一年で最大の年中行事“花会式”は、三月末~四月の初めに七日間、練行衆により懺悔(さんげ)を中心として昼夜に繰り返し行われる、平安時代より続く行法である。ほかに受戒、咒師(しゅし)による結界、牛玉(ごおう)加持、香水授与、神供、鬼追い式、等々、数々の密教的、民俗的な作法が行われる。

その行事の全貌を明らかにするとともに、これらを補佐し、支える堂童子の役割に迫る。薬師寺の堂童子は、現在は上田家によって継承されているが、行法の単なる補佐役ではなく、結界のための注連の御幣を切り、練行衆への牛玉宝印捺印など宗教的な作法も担ってきた。また、代々造花作りを行ってきた橋本家は戦前までは漢方薬を調製し、薬師寺に卸して、参拝者に分けるなど、一般参拝者と薬師寺とを繋ぐ重要な役割を果たしてきた。

〔構成〕
1 プロローグ、花会式の概要
2 橋本家での造花作り
3 花会式準備-壇供作り、御身拭い、造花飾り-
4 花会式初日、社参、受戒
5 悔過行法の内容(1)、時導師作法/牛玉宝印刷り、声明稽古
6 悔過行法の内容(2)、大導師作法/日中の行法と奉納行事/舞台松明作り、護摩壇作り
7 結願日、鬼の盃事、神供、結願行法(護摩供養、香水授与、牛玉宝印捺印)
8 鬼追い式
〔協力〕法相宗大本山 薬師寺 奈良国立博物館

「興福寺 春日大社-神仏習合の祭儀と支える人々-」

興福寺と春日大社が一体となって形成され、現在に伝承される神仏習合の祭儀。大陸より伝来した舞楽や、「咒師(しゅし)走り」といった独特の名で呼ばれる能の翁舞、巫女(みこ)の神楽、追儺(ついな)等、古代・中世に展開した豊かな芸能世界が繰り広げられる世界でもある。これらをときに補佐し、ときに演じ手とも、伝承者ともなった、堂舎の造営に携わる職人にも注目する。

その一人、山本瓦工務店に勤める鈴木啓之氏は、江戸時代以来、東大寺・法隆寺・興福寺等、奈良の諸大寺の瓦を造ってきた職人であるが、また、特に興福寺においては、仏教行事において僧侶の行列を先導する「列奉行」や、鬼追い式における毘沙門役や鬼役等を勤めるなど、儀礼・芸能において重要な役割を果たしてきた。

〔構成〕
1 奈良豆比古神社・翁舞
2 春日大社・咒師走りの儀、興福寺薪能/興福寺修二会と追儺
3 春日大社・春日若宮おん祭り
4 春日大社・興福寺と神仏習合
5 興福寺慈恩会
〔協力〕春日大社 法相宗大本山 興福寺 奈良豆比古神社 翁舞保存会 薪御能保存会 奈良市観光協会 山本瓦工業株式会社 法相宗大本山 薬師寺

※関連写真については総合誌「歴博」本誌をご覧下さい。

松尾恒一(本館研究部)