刊行物刊行物

歴史系総合誌「歴博」歴史系総合誌「歴博」

歴史系総合誌「歴博」 147号

[連載] 歴史の証人 写真による収蔵品紹介

絵葉書になったガラス乾板三八〇〇枚

本館が所蔵する資料に、ガラス板写真ネガの一群がある。東京都千代田区神田神保町にあった尚美堂という、現在は廃業した印刷会社で使用・保存されてきたものであり、平成一七年度に寄贈を受けた。資料の正確な数量は、ガラス乾板三八四六枚、紙焼写真八七七枚、その他付属物若干である。保存状態が悪く、割れたものや画像が崩れてしまっているものもあるが、厖大な量である。

尚美堂は、一八九七(明治三〇)年の創業。絵画・写真の印刷・販売を専門とし、絵葉書・年賀状・ブロマイド・ポスター・カレンダー・複製画・画報・写真帖などの商品を手掛けた。同社の歩みについては、『尚美堂 絵画とともに90年』(一九八七年、企画・発行株式会社尚美堂)に詳しい。

本館に収蔵されたネガには、尚美堂が製品化した絵葉書等を撮影したカタログ・パンフレットでの宣伝用写真、商品になる前のデザイン・参考資料として写した写真、さらには会社の物故者追悼会を撮影した商品とは無関係の写真など、様々なものが混在している。用途としては、絵葉書が最も多いと思われるが、年賀状・クリスマスカード・カレンダーなどに用いられたと考えられるものも見受けられる。時代的には、昭和戦前期(十年代半ばまで)のものがほとんどである。ただし、画面にキャプションが入っているものは少なく、何を、あるいは何処を写した写真であるのかわからないものが極めて多い。大雑把ではあるが、内容によって分類してみれば以下のようになる。

1.軍隊・軍艦・軍用機・軍施設・戦跡
2.植民地・占領地(朝鮮・中国・樺太など)
3.東京と日本の各地方(観光地・名所旧跡を含む)
4.博覧会・祭礼・防空演習などの行事
5.学校・工場・鉱山・料亭などの施設・建築物
6.古今東西の人物の肖像画・写真(歴史上の偉人や皇室・軍人・芸妓など)
7.干支の動物をデザインした年賀状
8.油絵・日本画・浮世絵など名画とその複製
9.魚類・鳥類・昆虫・動物・農具などの図鑑
10.風景・静物・スポーツ・その他諸々

これらの写真は、すべてがオリジナルとはいえない。絵画などの複写については被写体となった原品が別に存在したことは当然であるが、実写した写真のように見えるものであってもよく見るとプリントから複写したものが相当数含まれている。発注者からプリントを提供され、それを印刷用に複写する場合が多かったのではないだろうか。残念ながら、製品になるまでの工程や経営の実態を示す詳しい文書資料がないため、個々の写真の性格についてはよくわからない点が多い。付属物として残された若干の資料には、注文主からの書簡、製品化された絵葉書そのもの、乾板が収納されていた紙箱の背文字部分などがあるが、断片的な情報しか引き出すことができない。他の博物館等に収蔵されたり、古書市場に流通している尚美堂の製品を集成し、それらとこの乾板とを突き合わせることで、写真の内容・時期などを特定することが可能となるかもしれないが、それは今後の課題である。

さて、ここでは、あくまで絵柄として興味深く、時代をよく映し出しているものの幾つかをアトランダムに紹介してみたい。結果的には戦争や帝国主義の時代を象徴するものとなった。いずれもガラス乾板のネガからプリントした状態で掲載する。

なお、この資料の全貌については、用意ができ次第本館ホームページ上の館蔵資料データベースで目録を公開することになっている。

樋口雄彦(本館研究部・日本近現代史)

※写真については総合誌「歴博」本誌をご覧下さい。