刊行物
歴史系総合誌「歴博」
歴史系総合誌「歴博」 120号
[連載] 歴史の証人 写真による収蔵品紹介
西洋銅版画写しの輸出漆器-蒔絵プラーク・プラケット-
江戸時代後期に輸出された漆器の代表的な例に、蒔絵プラークと蒔絵プラケットがある。
「プラーク」とは、壁に掛けて用いる飾り板のことで、サイズが小さなものは「プラケット」と呼ばれる。長方形のプラークには風景図や戦闘図、楕円形のプラケットには人物図が表されるのが通例であるが、いずれも1780年代から1800年前後にかけての比較的短期間に、ヨーロッパからの注文を受けて製作され、出島から輸出された。
精巧な蒔絵技術による装飾は、西洋からもたらされた銅版画を原画とし、その図柄を丹念に写しとったものである。銅板に漆を焼き付けて滑らかな黒漆地をつくり、金や青金の平蒔絵(ひらまきえ)、金貝(かながい)、付描(つけがき)などの技法を用いて文様が表される。銅版画特有のハッチング(細密な線描で陰影を付ける技法)の表現を付描の細線に置き換えるなど、極めて洗練された作風である。版画中のキャプションのアルファベット文字まで、忠実に写されており、職人の技術の確かさに驚かされる。
最初は個人的な依頼による特注品であったようだが、肖像図蒔絵プラケットに関しては、比較的多くの遺品が伝存することから、かなりの数量がまとまって輸出されたと考えられる。ドゥル・デュ・ラディエ(Dreux du Radier)の『絵で見るヨーロッパ(L' Europe Illustre)』(1755-65、パリ刊)をはじめとして、古今の為政者や学者などの肖像を集めた版画集を原典としたことが確認されている。プラケットの意匠と原画と比較してみると、版画の肖像の部分、人物名、説明のキャプション、周囲の飾りなどを、プラケットの表裏のデザインに適宜利用している様子がわかり興味深い。
日高薫・本館情報資料研究部
*掲載図版で所蔵記載のないものは国立歴史民俗博物館蔵








































