連載「歴史の証人-写真による収蔵品紹介-」

れきはくWEBギャラリー

れきはくWEBサイトには、WEBギャラリーのコーナーがある(図1)。これはいわばWEB上の・資料展示・とでも呼ぶべきもので、一九九六年一一月のWEBサイト公式オープンの段階から存在した。開設当初のWEBギャラリー(当初は「歴博ギャラリー」と称していた〔注1〕)では、歴博の館蔵資料である「洛中洛外図屏風歴博甲本」と「江戸図屏風」の二つを公開していた。現在のWEBギャラリーのページでも「高精細画像順次拡大版」として同じ形のものを閲覧することができる。ここでは江戸図屏風を例に解説しよう。

図1 図2

江戸図屏風には、高さ約一メートル八〇センチ、幅は左右両方でのべ八メートル弱という大画面に、江戸の景観や人物が細密に描かれている。最初の画面(図2)では屏風の左隻と右隻の全体が表示されている。左隻を選んで「詳細ページへ」のリンクをクリックすると、各扇ごとに分かれた画像が表示される(図3)。ここで第二扇を選んで「詳細」のボタンを押してみよう。すると四枚の画像が縦に並んで表示される(図4)。これは、第二扇の上、中上、中下、下の部分が(重なりを含んで)トリミングされた画像になっている。ここでもういちど「詳細」のボタンを押してみる。今度は九枚の画像が表示される。これは先の画像を(重なりを含んで)三×三に分割した画像である(図5)。中央の写真をクリックすると、日本橋の近くにあった魚河岸を描いたと思われる部分が表示される(図6)。描かれた人物の顔の幅は実寸で約三ミリほどである。この解像度の画像が屏風全体では四三二枚〔注2〕用意されており、屏風のどの部分でも範囲を絞り込み、画像を閲覧することができる仕掛けとなっている。

図3 図4
図5 図6

図6の画像は四〇〇キロバイト弱の大きさがある。れきはくWEBサイトが開設された一九九六年は、多くの利用者は一般電話回線を用いてインターネットに接続していた。通信速度、すなわち一秒間に送ることのできるデータ量は現在の数万分の一程度〔注3〕であり、図6のデータの転送には二分強の時間が必要であった〔注4〕。この時代としては非常に充実した高精細画像の公開を行なっていたことがおわかりいただけるだろうか。
二〇〇七年からは、望みの部分を自由に拡大して閲覧することのできる「高精細画像Flash版」の公開を開始し、さらに快適に高精細な画像を楽しむことができるようになった(図7)。現在以下の一九の資料について「高精細画像Flash版」による閲覧が可能となっている:●洛中洛外図屏風歴博甲本、●同歴博乙本、●同歴博C本、●同歴博D本、●同歴博E本、●同歴博F本、●東山名所図屏風、●京都名所図屏風、●江戸図屏風、●江戸城登城風景図屏風、●額田寺伽藍並条理図、●花洛一覧図、●京都一覧図、●職人歌合絵巻、●職人風俗絵巻、●百鬼夜行絵巻、●百器夜行絵巻、●大石兵六物語絵巻、●マリア十五玄義図(浦上天主堂旧蔵)ガラス乾板。ただし「高精細画像Flash版」はAdobe Flash Playerというソフトウェアを必要とし、大半のスマートフォンやタブレット端末において動作しない〔注5〕ことから、現在Adobe Flash Playerを用いない方式への切り替えを準備しているところである。

図7
図8 図9

WEBギャラリーには、最初から「インターネット上の企画展示」を意識して作られた「電子企画展版」コンテンツも含まれている。二〇〇六年に制作された「洛中洛外図歴博甲本」の「電子企画展版」では、寺院、神社、邸宅、通りと町並み、行事と芸能、仕事としぐさ、山と川・道と橋と村、の六つのキーワードに即して、屏風に描かれた情景を網羅的に解説している(図8、図9)。また同じく二〇〇六年制作の「武家の文書―鎌倉から織豊まで―」では、歴博が所蔵する武家文書をいくつかとりあげ、右側に文書の画像を、左側にその釈文を表示し、さらにボタンを押すことで、その文書の大意と内容の解説が表示される仕掛けになっている(図10、図11)。当時のWEBブラウザの性能を反映して、コンテンツとしては古めかしい作りであるが、資料をより詳しく、よりわかりやすく見ていただくために、博物館に(学芸員に、研究者に)何ができるか、何をすべきか、を考えて作ったものであり、その姿勢は今に至っても変わっていない。

図10 図11

WEBギャラリーは、資料の高精細画像を「みる」ために作られたもので、「さがす」ことは想定されていない。また、ここで公開している画像のオープンデータとしての利用も許諾していない〔注6〕。歴博が構築をめざす総合資料学では「つなぐ」ことと「ひらく」こと、具体的にはIIIFならびに(適切なライセンスの付与による)オープンデータ化への対応を目指している。(本誌後藤氏による解説記事を参照。)残念ながらいささか時代遅れになってしまった感のあるWEBギャラリーをふたたび現代の人びとに役立つコンテンツとするために、改善にむけて努力していきたい。

※注
注1 Internet Archive のサイトに記録されているもっとも古い「歴博ギャラリー」のデータ)
注2 2(左隻、右隻)×6(扇)×4(上、中上、中下、下)×9(3×3分割)=432
注3 当時の一般電話回線における最大通信速度は毎秒28,800ビットであった。現在の一般的な家庭用光通信インターネット回線における最大通信速度は毎秒1ギガビットほどであるから、通信速度は1,000,000,000÷28,800≒34,722倍になったことがわかる。
注4 400,000バイトのデータを毎秒28,800ビットのモデムで送信すると、通信方法の都合上1バイト(=8ビット)の転送には10ビット必要なので、400000×10÷28800≒139(秒)かかる計算となる。これは理想値であり、実際にはさらに多くの時間がかかった。
注5 Adobe Flash PlayerはWebブラウザの貧弱な機能を補うために開発され盛んに利用されたが、Webブラウザの性能が著しく向上したことや、スマートフォン等の携帯端末が要求する省電力性能を満たせなくなってきたことなどから、Flash Playerを用いないコンテンツへの切り替えが急速に進んでいる。
注6 「Webギャラリーで掲載している画像の複写使用はお断りします。資料写真利用については、「資料写真の使用申請」をご参照下さい。」(「Webギャラリー」のページの注意書きより)

鈴木 卓治(本館研究部/博物館情報システム学)