西洋においては、ゴードン・チャイルドが農業革命・都市革命、また西アジアとヨーロッパの関係についての大きな枠組みを提示して以後、研究が著しく緻密化した。その結果、各地域・各時期の実体が明らかになり、自立的で個性的、かつ非常に多様な営みがなされたことが判明してきた。そして今、その全体を単純なモデルで理解することは、極めて難しいように思われる。
むしろ現在、西洋・東洋の核地域である西アジアと中国、それから遠く離れたイギリス(あるいは北欧)と日本の社会発展のプロセスに、共通する現象が少なくないことが浮かび上がってきていると思う。勿論、西洋と東洋においては暦年代に違いがあり、異質な要素も少なくない。しかし西洋と東洋において、系統的な関係に拠らないであろう共通点を抽出することは、両世界の構造を考える上で、無駄ではないと考える。私はこの立場からイギリスについて日本と共通すると思う要素を抽出することとしたい。
なおこの段階で、都市・町と村落を二分的に定義することは生産的でないと考えるため、まず中心地機能をもち集住・防御を特色とする長期型集落が、どのような背景・プロセスで出現したかを考えたい。なおその詳細については、ヨーロッパはサイモン・ストッダート博士、西アジアはグレン・シュワルツ博士、中国は中村慎一氏ほか、日本については広瀬和雄氏の発表に拠りたい。
イギリスにおいて、日本と比較する上で重要と考えた現象をあげた(Tab.1)。
イギリス・北欧において農業・牧畜が付加的である段階が長いことは、西アジア初期農業社会との大きな違いである〔Matui A. Kaner S. Janik L. Rowley-Conwy P.1995〕イギリスにおける新石器時代〜青銅器時代前期は本格的な農業社会への過度期ではなく、温帯ヨーロッパの森林環境を生かした独自の社会システムであり、死者にまつわる儀礼が重要な役割を果たす社会であった〔藤尾1996〕。それは環境の有効利用という点で西アジア初期農業社会と並列的に評価するべきものであり、日本縄紋時代と共通点が多いと考える。
イギリスにおいては、青銅器時代中期以後の変革が特に重要な意義をもっている〔Bradley R. and Hodder I.1979ほか〕。特に集約的な農業が発展し、遺跡数の増加が著しい。この変革の重要性を、西アジア初期農業社会の成立と対比するだけでは不十分である。
とりわけ高地帯を捨てることが多い反面、河川流域の、より潜在的な生産力が高い森林環境を耕地に転換して区画し灌漑することが、特に大きな変化である。それは人と環境の関わりの激変であり宗教・戦いなどのイデオロギーの変革とも深く結びついていたと思われる。この時点から武器の発達が加速し、社会を営む基幹的な施設は、記念物から基幹集落あるいはその中枢建物(神殿)に転換した。その開発は西アジアにおけるサマッラ・ウバイド期以後のメソポタミア沖積平原への進出に対比すべきと考える。
西アジア初期農業の特質はそれ自身よりも、開発は困難であるが潜在力の高い地域に伝播することによって飛躍し、文明への歩みを加速する質を内包していたことにあると考える。あるいはそのような伝播を可能とした社会組織・技術が文明の母体をなしたと言っても良いであろう。その一つの方向が大河・乾燥環境であり、もう一つの方向が温帯ヨーロッパ環境であった。
なおこの時点においては、メソポタミアの目覚ましい発展に比べるとイギリスをはじめ北欧における変化はささやかであると言える。しかし温帯ヨーロッパの森林環境の潜在的な生産力は、西アジアの大河・乾燥環境よりもはるかに高く、その開発の本格化の歴史的意義は、長い目で見るならば非常に大きなものがある。
ゴードン・チャイルドの伝播論に、以上のような辺境革命論的な意味を与えて再評価したい。このようにメソポタミアと温帯ヨーロッパを対置する考えから、私は温帯ヨーロッパにおいて、以後、数多く営まれた長期型防御集落(Oppida)の中でも、面積が10ヘクタールを越えて、中心地機能をもったものを町(中小都市)と呼ぶ立場をとっている〔Collis J.1984〕。この時点においては、メソポタミアの変革がめざましいが、長い目でみるなら温帯ヨーロッパの変革は西洋の歴史においてより大きな意味をもったであろう。以上の変革は、日本弥生時代に共通点が多い。
鉄器時代後期に至ると、イギリスにおいて最も開発が困難であるが潜在的な生産力が高い西南部の粘質土壌が開発されてくる。この時点において、イギリス西南部において、集落の格差が増大し、豊富な副葬品をもつ王墓(Welwyn-type burial)を営むようになる。権力による平和が可能となり、防御・集住を捨てる傾向が生じた。メソポタミア・ウルク後期以後にみる多様性を内包した世界システムの成立に対比したい。日本では古墳時代に、共通点が多い。
REFERENCES
Bradley R. 1978. The Prehistoric Settlement of Britain. London Routledge & Kegan Paul.
Bradley R. and Hodder A I. 1979. British Prehistory : An Integrated view. Man (N.S.) 14.
Collis J. 1984. Oppida Earliest Towns North of the Alps. Huddersfield Univ. of Sheffield
Cunliffe B. 1993. Danebury. London A B. T. Batsford/English Heritage.
Cunliffe B. 1995. Iron Age Britain. London B. T. Batsford/English Heritage.
Darvill T. 1987. Prehistoric Britain. London B. T. Batsford.
Hodder I. Orton A C. 1976. Spatial Analysis in archaeology. Cambridge University Press.
Matsui A. Kaner S. Janik L. Rowley-Conwy P. 1995. From the Jomon to Star Carr. An international conference on the
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Thomas J. 1991. Rethinking the Neolithic. Cambridge University Press. 1991.
藤尾慎一郎 1996 「ブリテン新石器時代における死の考古学」(『国立歴史民俗博物館研究報告』第68集



