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博物館訪問日誌<3> スコットランド編、ウェールズ編ダブリン 編


スコットランド編(エジンバラ Edinburgh、スターリング Stirling、グラスゴー Glasgow、セント・アンドリュース St Andrews)

<エジンバラ>
エジンバラ城 Edinburgh Castle <史跡>
 1998年7月7日(火)午後訪問
 ウェーヴァリー(Waverley)駅(エジンバラの中央駅)から徒歩15分程度。Historic Scotland(国の委託を受けた史跡の管理団体)の管理。入場料大人£6(1ポンドは約200円)、子供(16歳以下)£1,5。同会員は無料。
 スコットランドの王城の一つ。現存最古の建物は12世紀の礼拝堂だが、大部分の建造物は16世紀以降。
 入り口付近で無料のCD-ROM式音声ガイドを配っている。日本語版を頼むと、「キュウキュウミドリ(99緑)」と使い方(のガイドが流れる操作)を教えてくれる。デポジットは何もなし。他でも感じたが、返却は「お忘れなく」の掲示程度で意外に無造作なところが多く、場外に持ち出せないようなセキュリティーシステムがあるらしい。 随所に数字で解説ポイントが示してあり、一つの説明を聞いてもっと聞きたい人はさらに詳細な話を選択できる。通路の最初の方には城の歴史を示すパネル展示があり、それもガイドに入っているから、音声だけで一通りの歴史も聞ける。
 修復・改造を繰り返しているので、中世の城という感じはあまりしない。王宮(Palace)は、スコットランド女王メアリー(1542-67)と、ここで生まれたその子ジェームズ六世に焦点を当てた展示・整備。王冠、「運命の石(戴冠式の玉座に使う)」などの宝器が、わりと無造作に展示してあるが、あれは本物だったのだろうか?

スコットランド連隊(?)博物館 Scotish United Services Museum
 7月7日(火)午後訪問
 入場無料。寄付歓迎。
 エジンバラ城の中にあるが、れっきとした独立の博物館で、National Museums of Scotland 5館の内の一つ。中に売店もあり。内容はイギリスで最も古い部隊(?)とかのスコットランド連隊の歴史。エジンバラ城が現在も軍事施設であることを示す。戦場、戦傷などのかなり生々しい実大人形もいくつかありちょっと気持ち悪い展示。はっきり言って自己満足ないし宣伝にすぎず、関係のない人間に面白いものではない。年間入場者が44万1656人(昨年度。NMS年報による。)と多いのはひとえに立地の良さによると思われる。城内には戦没者記念館(Scotish National War Memorial)という大きな建物もあり、趣旨は分かるが、史跡の中、それも中央部につくらなくてもいいんじゃないかという気がする。

ホリルード宮殿 The Palace of Holyrood House <史跡>
 7月8日(水)午後訪問
 ウェーヴァリー駅から徒歩約20分か。
 入場料:大人5,3ポンド、17歳以下2,6ポンド。ガイドブック3,7ポンド。
 内部撮影禁止。
 現在もバッキンガム、ウインザー城とともに国王の滞在に使われる現役の王宮。17世紀の修築。中(の一部)を定められたコースに従って見せてくれるが、インテリアなどにあまり興味のわかない私には、どうしてこういう趣味の悪い絵を飾っておくのだろう、などと考えているうちに終わってしまう。ただ、敷き詰められた緋毛氈を踏んではいけないのかと思ってへりを歩いていたら、「どうぞ」といって中を歩かせてくれたのは親切。熱心にメモをとりながら解説を聞いているグループもあり、こういうのが本当に好きな人も多い。メアリーなどに関した若干の展示もあり。
 一度出てしまってから、修道院(Abbey)跡を見てなかったことに気づき、場所を聞いて入れてもらう。王宮の向かって左奥、宮殿の建物に続いて廃墟がある。はじめは12世紀に建てられているが、1768年に屋根が落ちた由。修復するでもなく、取り壊しもせず、そのまま宮殿と廃墟が併存しているのが面白い。礎石などの遺構も、周囲の庭園の中に取り込まれている。

ピープルズ・ストーリー The People's Story
 7月8日(水)午前訪問
 無料 写真不可 ガイドブック£1,5、アクティビティー・ガイド£1(両方で£2)
 18世紀以降のエジンバラの民衆生活を扱った博物館。400年前(ということは16世紀末)に建てられた、地区集会所、監獄、等に使われた歴史的建物を利用している。1950年代に市の博物館の一つとなり、1989年にピープルズ・ストーリーがオープン。
 18世紀の生活、労働者の組織、労働生活、女性の家庭労働、貧困と貧民の家、失業、健康、余暇、信仰と祭り、といったテーマが、人形も使った復原の部屋・シーンを多用して展示されている。民衆の、というより労働者・貧民の、という感じの視点で、ほとんど社会主義という雰囲気。
 受付で聞いたところ、年間入場者は、98,870人(1997年)。

ハントリー・ハウス Huntly House
 7月8日(水)昼頃訪問
 無料 写真不可 ガイドブック£1,25
 オールドタウンにある16世紀の商家の建物を利用した「郷土資料館」。出土品、生活用具などをケースで展示した超古典的な内容だが、一部には18世紀の部屋(人形も3体、家具はエジンバラ城からの借用)など復原的な展示もある。ただ、建物はすばらしい。向かいのピープルズ・ストーリーも歴史的建物なので、窓から通りをながめていると、当時の雰囲気に浸ることができる。

子供博物館 Museum of Childhood
 7月8日(水)昼頃訪問
 無料 写真不可 ガイドブック£2,5、アクティビティーガイド£0,5、リソース・パック:「ヴィクトリア朝の子供」、「健康と衛生」、「学校と学校の日々」£0,5〜1,5、その他塗り絵帳など
 1957年に、世界で始めての子供史に関する博物館として、オールドタウンの18世紀の家を改造してオープン。中は、種類別におもちゃがひたすらいっぱい展示されている。ただ、最後の第5展示室は、教室と屋外の遊びがマネキンも使って復原的に展示されており、九九の歌?も流れている。子供が遊ぶコーナーも、小さいがあり。売店ではおもちゃの販売も。
 年間入場者は54,000人の由。

<スターリング>
スターリング城 Stairling Castle <史跡>
 7月8日(水)午後訪問
 エジンバラから列車約50分、徒歩約20分
 大人£4,5、学生£4,5、senior citizen £3,5、子供(5〜15)£1,2 (ヒストリック・スコットランド会員は無料) ガイドブック£2,50
 スコットランドの王城の一つ。エジンバラ同様、町に続く丘の上にあり、14世紀、イングランドとの独立戦争に勝利したスターリングの戦い、バノックバーンの戦いの古戦場ももここから見渡せる要地。1993年から長期計画で建物を修復(復原)中で、第二段階phase2のグレートキッチンまでは既に完成、現在グレートホールの工事中だった。
 オーディオガイドはないが、解説はかなり丁寧になされている。
・地図・図のついた解説版はもちろん随所にあり、英語の他、独・仏・西、それに日本語もあるのがうれしい。
・頻繁にガイドツアーが行われており、要点を説明してくれる。
・王宮の一階(地階?)部分には、各小部屋に、音楽、絵、木工職人、道化、などについての説明が、画像と音声および人形、クイズなどを使って説明されている。
・イベントとして、大きな部屋でコスチュームを来た人が武器の使い方などを説明。映画「ブレイブ・ハート」に出てきた「アルバ・グブラ」という言葉は、「スコットランド・フォーエバー」の意味だと分かる(かなり盛り上がってた)。
・新しく16世紀の状態に復原された「グレート・キッチン」では、まず入り口で大画面の画像と音声によって、当時の食生活についてガイダンス。台所では食材なども復原され、実大人形(彩色はなく、白い)が忙しく調理中。皿を落としてしかられている子供や、犬もいる。テーブルにはバックライトの解説パネル(これは中世の中に近代の異物が混じっている感じであまり感心しない)。レシピ風の本は、例えば「香料」についての説明カードを綴じたもの。照明は、本物の火が勢い良く燃えている。この中を自由に歩けるので、人形と人間が入り乱れた感じになる。
 復原中のグレートホールは、彩色なども本来のものに戻すらしい。全体として、整備・解説の最も進んだ事例に挙げることができよう。

<再びエジンバラ>
スコットランド国立ポートレートギャラリー Scotish National Portrate Gallery
 7月9日(木)午前訪問
 無料  図録『スコットランドの偉人(Great Scots)』£4,95 写真は一階(ホール部分)のみ可
 スコットランドの歴史上の人物の肖像画・彫刻を集めた美術館。以前は考古資料など?を展示するロイヤル博物館と建物を共有していたが、それは新しいスコットランド博物館に移動の由。
 企画展として、「顔の科学(The Science of Face)」というのをやっていた。年令による変化の想定、スチュアート家(王家)の平均の顔は?、化粧を濃くすると?など、なかなか意欲的。子供向けワークシートも一枚置いてある。古い絵はこちらに来ていたのか、常設展ではあまり古いものを見なかった。さらに「冬の女王(The Queen of Winter)」という企画展も明日からオープンとのことで、準備をしていた。普段は休館日がないので、通常の展示の横で作業をしているのは、イギリスではよく見かける風景。

ロイヤル博物館 Royal Museum
 7月9日(木)昼前後訪問, 12月1日(火)午後再訪問
 エジンバラ・ウェーバリー(中央)駅より徒歩10分
 大人£3 ガイドブック£1,75 写真可
 自然史、世界の文化、美術工芸、技術史など広範な対象を扱う。1860年代に開館。建物も当時の、外観石造り、内部吹き抜けの、いかにも19世紀的な博物館。しかし展示の水準はかなり高く、日本関係も、Ivy Wu Gallery という、香港の実業家夫人の寄付でできたという、中国・日本・朝鮮を扱った展示室が1996年10月9日にオープンしている。中に鳥居を立て、実大の茶室を造り、桂離宮の模型を置く、といったかなり斬新な展示。展示品は主に近世で、武具甲冑、浮世絵、根付け、陶磁器、能面など、やや古典的な収集品なのはやむを得ないところか。しかしスコットランドにもこれだけ本格的な日本紹介の展示があるのにはびっくり。展示室の略図をクリックすると、展示品・拡大図・解説・音などが出る端末もある。資料にさわれるコーナーもあり、手漉き和紙・竹などの素材も含めて、点字と共に壁に組み込まれている。中国の壺は、中に香料が入っていて、蓋を開けると臭いがかげるようになっているのも、体験型展示としてユニーク。
 一度目の訪問では、インフォメーションの男性が要領を得ない人で(名札を見ると、王家と同じ名字だったが……)、教育用の資料はないか?と尋ねたら、博物館職員なので欲しいんだ、といっているのに、「これは教師用のものだ、おまえは先生か?」などととんちんかんで結局入手できなかったが、あとでインターネット・ホームページを見たら、エデュケーションの項に8種類を挙げて各£2で利用できる、とちゃんと書いてあった。で、次に訪問した際は、その旨説明すると、今度の女性は探してきてくれ、資料による学習方法を解説した「一体何なんだろう(Whatever's That?)」「ロイヤルミュージアム・ハイライト(Highlights of the Royal Museum)」「ケルト」「古代エジプト」の歴史に関係した4種類を購入。手作り風だが、理にかなったもので役に立ちそう。資料解説だけでなく、先生への指示も丁寧。解説を読ませない(で資料に集中させる)ようにするにはどうすればよいか、という観点には目を開かせられる。
 この他、10ペンスづつくらいで各年齢層向きの博物館探検ワーク・シートも数種類用意されており、またホールには、「何の足かな?(Meet the Feet)」という、仏像から剥製まで、「足」の写真を手がかりにホール周辺にある色々な資料を探す、というシートも何気なく置かれていた。子供が喜ぶだろう。
 なお、カフェ前のコーナーには、「スコットランドサッカー博物館(The Scotish Football Museum)」が1999年秋グラスゴーのハンプデン公園にオープンする(800万ポンド=約16億円のプロジェクト)ので、スタッフがワールドカップ(今年フランスで行われ、スコットランドも出場した)の資料を集めてきました!という仮設ケースが置かれていた。
 (なお、NMSのパンフレットによれば、入場料の課金を始めたのは1998年1月からで、その結果1〜4月期で、約20万人→約11万人と入場者が激減したので、様々な割引、格安シーズンチケットの導入、火曜夜の無料入場、など対策を講じている由。)

スコットランド博物館 Museum of Scotland  [ NEW!]
 12月1日(火)午前・午後訪問
 エジンバラ・ウエーバリー駅より徒歩10分
 開館10:00〜5:00(日曜は12:00から、火曜は8:00まで)
 大人£3、18歳以下無料。シーズンチケット£5、火曜日は4:30〜8:00無料。
 ガイドブック£4,99、子供向けガイド『スコットランドの昔を探検(On the Trail of Scotland's Past)』£3,99。 写真可
 300年来(イングランドとの併合以来)の懸案だったという、スコットランド自体の歴史についての国立博物館。ナショナル・ミュージアムズ・オブ・スコットランドの一つとして、ロイヤル・ミュージアムの隣に(というより建物はつながっている)建設された。11月30日(月)のセント・アンドリュース・デー(スコットランドの守護聖人の祭日でスコットランドは祝日)にオープン、とずいぶん前から予告されていて、インターネットのホームページ(www.nms.ac.ukなかなかの出来)でもチェックしていたので、オープン当日に訪問すべく、29日(日)にロンドンを発ってエジンバラ入りした(列車で5時間前後かかる)。
 ところが、宿を取るために立ち寄ったツーリスト・インフォメーションでリーフレットを見ると、12月1日から公開、となっているので、あれ、と思って受付のお姉さんに聞いてみたら、「えー、その博物館につきましては、多くの人たちが日夜努力をしておりまして、公式には11月30日がオープンなのですが……ちょっと(端末で)調べてみます。あ、公開は火曜日(1日)からですね。月曜は女王がオープンするので、招待客だけです。」とのこと。「オープン」というのは一般公開(open to the public)のことじゃないの?と思ったが、外国人がそんなこと言ってもはじまらない。そう言えば、あちこちの博物館で、何年何月何日に誰それによってオープンされた、という銘板をよく見るので、これがこちらのやり方らしい。日本の方がまだしも平民的、と言うべきか。仕方がないので待つことにする。(翌日は、暇になってしまったので、中世遺跡のあるセント・アンドリュースの町を見学。次項以下参照。)
 さて、当日12月1日の朝、歩いて行ける所に泊まっていたので、一番乗りをねらえないこともなかったが、日本人が一番、というのもちょっと気持ち悪いので、でも早い順番で入りたかったから、10時20分前に到着。数えたら22人目。日本人では一番、の栄誉?は確保した。幸いそれほど寒くなく、隣に並んだエジンバラ住のおばさんも、今日は「mild」だと言っていた。プロのカメラマンらしい人が二人くらい写真を撮っていたが、後は何事もなく、案内の看板の一つも立っておらず、10時ちょっと過ぎに開門。「オープン」は昨日済んでいるので、というわけか、バグパイプが鳴るわけでもくす玉が割れるわけでもなく、ただ入館できる、というだけ。中では職員が何人か壁際に並び(別にお辞儀はしない)、二人の人が紙を配っている。「コングラチュレーションズ!」と声をかけると「ウエルカム!」と返事。この紙も題が「congratulations!」で、最初の百人には、記念にシーズンチケットを送るので、住所氏名を書いてインフォメーションへ出してください、というもの。その場であげてもいいはずだが、住所を書かせればマーケティング調査にもなる、ということか。
 中へはいると、まずインフォメーションでくだんの用紙を渡し、置いてあるリーフレットなどを一通りもらう。ガイドには、垂直断面図はあるが、展示の地図がないので後で聞いてみると、やはりないらしく、これでも、ということで、一応各階平面図の出ている「ザ・スコッツマン」というスコットランドの新聞の別刷りをくれた。
 展示は、地階が「始まり(The Beginning,地質、自然史)」「初期の人々(Early People,考古遺物中心,8000BC〜AD1100)」、1階が「スコットランド人の王国(The Kingdom of the Scots,900〜1707イングランドとの併合まで)」、3階(2階は事実上ない)が「スコットランドの変容(Scotland Transformed,1707〜19世紀)」、(4・)5階が「工業と帝国(19世紀〜1914)」、6階が「20世紀」というもの。自然史はともかくとして、後は、政治史、社会史、美術史などが錯綜している感じで、テーマをつかみにくい。建物(外観は「塔」や「矢狭間」のあるお城風)および展示の配列も全体がつかみにくく、動線がきわめて不明瞭。どこをどう歩いたらいいのか、さっぱり分からない。展示自体も、ケースの羅列であることが多く、資料数は面積の割に多くなく、余分な空間や意味不明の置物がかなりある。最近重視されている体験型展示は、全くない。ディスカバリー・センターというものが用意されているらしいので、学校団体の訪問への対応も含めてそこで扱われるのだろうが、常設展示に何もないというのもいかがなものか。蒸気機関による水の汲み上げ、といった超大型の模型もあるのだが、ただ単調に動いているだけで、面白くはない。農家の部分復原も一つあるが、椅子が置いてある程度で、生活復原は殆どない。マネキンも少ないし、また顔は作っていない(これはロイヤル博物館も同じ)。20世紀展示は、資料から学ぶのではなく、市民が選んだ資料を選んだ人のコメントも付けて展示する、という趣向だが(日本製の電気製品も多い)、私にはむしろ責任放棄に思えた。戦争の展示もあるが、これも市民が選んでいるので、当時の資料はあまり出ていないし、体系的な歴史展示にはなっていない。なお、スコットランドには直接関係がないが、長崎原爆のキノコ雲の写真もあり、これは、「人類が生命を滅ぼしてしまうほどの力を持ったから……」というコメントで、「学芸員」の肩書きの人が選んでいた。映画館風のコーナー(cinema)もあるが、ナレーション抜きで、20世紀の、病院とか幼稚園とか色々な種類の映像が、単調に延々と流れているだけだった。
 端末画像装置は、何ヶ所かにあり、資料の部分拡大などもできるが、液晶式であることを除いて特に目新しいものではない。自然史では、大きなジオラマの前にある端末では、ジオラマの写真で特定の部分を選択するとその解説が出る、という仕掛けにしていた。
 音声ガイドもあることに気がつき、頼んでみた。CD-ROM式で、無料。英語、ゲール語、やさしい英語によるハイライトツアー、の3種を、選択、というわけでもなく、資料のラベルに色分けで表示されていたりするのだが、歩いているとハイライトツアーが自動で入ったり、番号を入力しても解説が出なかったり、で結局よく分からなかった。番号入力の手動式に徹した方が使いやすいのではないか。
 展示ケースにまだ資料の入っていないところがあったり、一部立ち入りできない展示があったり、自慢のはずの屋上からの展望やレストランも、そこまで行くことができないし、しかも、どこへは行くことができて、どこへは行けないのか、全然指示も出ていないから、観客としては混乱すること甚だしかった。新聞「ザ・スコッツマン」を見ると、女王はヘルメットをかぶって入館するのではないか、という悪い冗談があったくらい、期日通りの開館が懸念されていたらしい。しかし、時間切れによる混乱やサービスの不調を差し引いても、最新の博物館にしては、新しい工夫もほとんど見られず、資料を見せるだけ、という印象の強い、参考となるところの少ない博物館だったと言わざるを得ない。「ザ・スコッツマン」の記事でも、以前からあったロイヤル博物館(隣の建物とは別で、ナショナル・ポートレート博物館と同じ建物にあった)と、大型の展示物以外は中身はあまり変わらない、とちらっと書いているので、前の展示のイメージをひきずってしまったのだろうか。
 子供向けガイドなどはしっかりできているし、教育部門(かなりの部分、ナショナル・ミュージアムズ・オブ・スコットランド全体で機能しているらしい)は良く活動しているようだが、展示での協業はどうもできていなかったのではないか。
 売店は、隣のロイヤル博物館と共通になっていて、自然史関係のものがかなり多い。オリジナルグッズは(まだ?)少なく、一般的な土産物が多い。ただ私がコレクションしている博物館鉛筆は、兜付きのが50pで良かった。

<グラスゴー Glasgow>
 1998年7月28・29日のヘイドリアン・ウオール訪問後、博物館の多いグラスゴーまで、カーライル(Carlisle)から足を延ばす。29日夜は、ツーリスト・インフォメーションで、ストラスクライド(Strathcryde)大学の寮(University Village)を紹介されたが、グラスゴー大聖堂の前にあり、近代的で配慮も行き届いている。朝食つきで£18。大学留学の気分も味わえた。朝食はvillage(必ずしも「学生村」ではなく、かなり年輩の人も多い。日本人教授?らしき人も)の大食堂で取るが、食べ物のタブーに配慮して、自由に選択できるようになっているし、ご相談ください、とも貼り紙してある。確かに、人種は様々。

グラスゴー大聖堂 Glasgow Cathedral <史跡>
 7月30日(木)午前9:30から訪問
 無料 写真可
 12世紀に起源、現在見ることのできるのは13〜15世紀の建築。中では、ヒストリック・スコットランドと大聖堂友の会がそれぞれパンフレットなどを売る店を出している。王室の財産だが、スコットランドは宗教改革でプロテスタント化した所なので、現在はプロテスタントの礼拝が行われている。そのため、堂内は荘厳そのものではあるが、偶像的なものがなく、がらんとした感じ。

聖マンゴー宗教生活・美術博物館 The St. Mungo Museum of Religious Life and Art
 7月30日(木)午前訪問
 グラスゴー大聖堂の前
 無料  写真可?
 世界の宗教およびスコットランド西部の宗教についての博物館(1988年定礎)。前者は、教理よりも、通過儀礼など実際の生活面を取り上げた宗教民族学的な内容。後者は、宗教改革を中心とする内容だが、いずれにしてもねらいは宗教間ないし民族間の融和にあり、入り口近くのビデオのコーナーでは、各宗教の住民?が、自分の宗教生活を語る、というビデオを上映していた。当然、様々な民族ないし人種が登場する。(仏教については、白人の男性がむしろ教理について語っているのが何か変だった。)後述のピープルズ・パレスでも同様の趣旨のパネル展示を見たが、港湾都市として発展したグラスゴーは住民も国際色豊かなので、色々な宗教(民族)の共存・相互理解を図らねばならない、ということらしい。博物館はこういう役割を担わなければならない、という認識には留意すべきであろう。
 なお、建物の外には、Zen Garden もある。
 *グラスゴー市の博物館は、グラスゴー・ミュージアムズという連合体を作っていて、ここもその一つ。イベント案内のパンフも共通のものを作っており、土産物も、「グラスゴーの博物館へ行って来た(I've been to Glasgow Museums)」というロゴの入った共通のものを売っている。無料なのも共通。「写真可」もあるいは共通の方針か。エジンバラ市の博物館が全部写真不可なのと対照的。

ピープルズ・パレス The People's Palace
 7月30日(木)午前訪問
 グラスゴー大聖堂から徒歩15分。グリーン・パークという公園の中
 無料 写真可
 1750年以降現在までのグラスゴーの人々の物語を語る、という博物館。建物は、背後に隣接する大きな温室(Winter Garden)と共に、1898年、読書・娯楽室、博物館、美術館としてオープンし、1940年代にグラスゴーの地域史博物館となった(リーフレットによる)。展示はほとんど19世紀以降で、庶民生活、方言?、工業、犯罪、等のテーマ展示。TV画面によるゲーム式の展示などもあるが、全体はかなり古典的。資料について考えさせる、板をめくると答えが出る展示(弁当箱、バスの切符販売機、などについて、素材、機能、誰が使うか、などの問題が書いてある)が、単純だが面白い工夫。無料のせいもあってか、子供連れ、老人が多い。
 売店にはガイドブックはなく、100周年記念の地域史読本『The People's Palace Book of Glasgow』(£9,9)を購入。この他、おもちゃなど。こちらではあまり見かけない縄跳び(中国製)を購入。

ケルヴィングローヴ美術館・博物館 Art Gallery and Museum, Kelvingrove
 7月30日(木)午後訪問
 無料  写真可
 地下鉄ケルビン・ホール駅徒歩10分
 いかにも「殿堂」という感じの堂々たる建物。「大英博物館」と自然史博物館とナショナル・ギャラリーを合わせたような、超古典的内容とも言える展示。エジプトのミイラと恐竜が19世紀的な知の体系を思わせる。「日本の男女の装束」(明治頃のものか。顔・髪も作ったマネキンが着て立っている)も人類学のコーナーにあり、「世界」を一応網羅している。まさに博物の館。ただ、「子供の部屋(Kid's Corner)」という新しい施設がロビー近くにあり、中には「顔」の絵、鏡、お面、などがあって、子供の理解を図っている。もちろん遊びもできる。教育への配慮はそれなりに行われている。
 特別展として「死海文書」をやっていたので行ってみる。時間指定制のチケットだが、実際はすぐに入れた。£2,5。文書自体はそんなに出てないが、読み方、文字などの解説は丁寧。最初にガイダンスビデオがあるのも良い。相当地味な内容なのに、かなりの混雑。関心は高い。(死海文書の実物を見た印象としては、字が非常に小さい。紙が貴重だったせいか。)最後は、保存・修復についての解説。イスラエル旅行が当たる、なんていう応募用紙も出口にあった。
 売店もこの特別展関係のものが多い。常設(名品)図録は£7,95。歴史関係はほとんど出てないので結局買わなかった。もっと薄手のガイドブックやアクティビティー・ガイドが欲しいところ。オリジナルグッズもあまりない。

交通博物館 Museum of Transport
 7月30日(木)午後訪問
 ケルビングローブ博物館・美術館近く
 無料 写真可 ガイドブック£2,95
 馬車、機関車、市電、自動車、等々の乗り物がひたすら並ぶ部分と、1938年12月9日金曜日の午後遅い時間、という設定の復原(架空)町並み、という二つの部分からなる。
 前者は比較的古典的な展示だが、一部は駅のホームが作ってあったり、人物まで復原していたり(衣服はもちろん、顔も作っているが、表情はちょっと硬い)、とそれなりに新しい手法も入っている。自動車工業の町でもあるので、公共交通だけではなく、乗用車なども多い。クラシックカーのコレクションとしても知られているらしい。小さい子供が乗って遊ぶ乗り物(デパートなどによくあるもの)も何台か置いてある(有料。1回30p、2回50pは相場)。
 後者は、色々な店に当時の品物もちゃんと並んでおり、なかなかの出来。何で夜にしたんだろう、と思ったが、ガイドブックを見ると「午後遅い時間」とあり、なるほど12月ならここはもう真っ暗になるはず。薄暗いのは資料保存のためか。しかし暗すぎてちょっと見にくい。一部は更新のため工事中で、「お気に入りの場所が見れなかったらごめんなさい」の表示。

<セント・アンドリューズ St. Andrews>
 1998年11月30日(月)訪問
 スコットランド博物館の一般公開が一日後だったので、聖アンドリューズの日だから、というわけでもないのだが、大聖堂、城など、ヒストリック・スコットランド管理の中世遺跡があって以前からできれば行きたいと思っていたセント・アンドリューズの町を訪れることにした。エジンバラからBRルーカーズ(Leuchars)駅、さらにバス、という手段で行ったが、便数が少なく、直接バス(30分ごと位で出ている。ガイドブックによれば2時間)で行った方がおそらくよい。12世紀にはバラ(burgh都市)が設立され、町は現在も16世紀の絵図とほとんど変わらない景観をとどめる。

セント・アンドリューズ大聖堂 St.Andrews Cathedral <史跡>
 バスターミナルから徒歩15分
 大人£1,8? ガイドブック£2,25、絵入りガイド(城と共通)99p
 16世紀後半に宗教改革で破壊された修道院跡。12〜13世紀の教会堂の両端の壁と塔など一部のみが今日も立っている。前身の聖ルール(Rule's)教会の塔には、ビジターセンターでトークンをもらって入ることができる。ビジターセンターは、19世紀に一部(好事家の貴族によって)再建された建物を利用し、大聖堂博物館(Cathedral Museum)で石版(slab)類の展示・収蔵を行っている。

セント・アンドリューズ城 St.Andrews Castle <史跡>
 バスターミナルから徒歩15分
 大人£2,30(大聖堂と共通券で£3,5) イングリッシュ・ヘリテージ会員証で半額
 ガイドブック£2,25
 セント・アンドリューズ司教・大司教の城。1200年頃築城、イングランド軍との戦いなどを経て、14世紀に現在の城。16世紀の宗教改革後に放棄、1654大部分の石材を港壁修理に利用。
 ビジターセンターが隣接して立つ。内部にガイダンスのためのミュージアムがあり、築城、中世の城の生活、城攻めの坑道掘り、宗教改革、といったテーマごとにマネキンを使った復原シーンがあり、「会話」もしている。遺物も随所に展示。
 これを見てから遺跡へ。随所の解説パネルは、建物の復原図はもちろん、そこに当時の服装の人物なども配して、社会的背景の部分にも目を配っている。建物部分はあまり残存していないが、城攻めのトンネルとそれに対するカウンター・トンネルの中にも入ることができる。城側は屈んでやっと通れる狭さ。一人では怖くて、途中で逃げ出した。「ボトル・ダンジョン」という恐ろしい牢獄も名物らしい。海に面したロケーションともども、なかなかの見応え。売店では図書、土産物など販売。

セント・アンドリュース保存財団博物館 The St Andrews Preservation Trust Museum & Garden
 ノース・ストリートの修道院跡の手前。 入場無料 写真可
 地元の建物などを保存する財団が運営する博物館。16世紀の民家の中に、雑貨屋、薬局などの復原、および写真展示、ビデオなど。机の上には、「アルバム」と書かれた、ほんとに昔の肖像写真などを綴じたアルバムが置かれていて、老人が見入っていた。子供用のシートも、ちゃんとバインダーに挟んで用意してある。愛らしい裏庭の一画でも展示をしている。冬期は休館らしく、この日セント・アンドリュースデーが、last dayと貼り紙がしてあった。受付のおばさんともう一人お兄さんが案内や店番をしており、背の高いこのお兄さんは一年前に来た学芸員だが、博物館は50年ほど前からある由。年間入場者約7000人。16世紀の古地図の複製を売っていたので購入。小さいが、心暖まる博物館。

セント・アンドリュース博物館 St Andrews Museum
 バス・ステーションの西、徒歩5分
 入場無料、写真可(一部の特定資料を除く)
 1855年建築の邸宅を1991年から博物館として利用したもの。もと庭園と思われる公園の中にあり、一階の大部分はカフェであるため、むしろ「The Cafe in the Park」として親しまれている模様。しかし博物館としてもなかなかの出来。常設展では、巡礼および巡礼の町としてのセント・アンドリュースをテーマにしている。中世、および19世紀(ヴィクトリアン)を主な対象として、一部立体、大体は板に描いた人形と背景の書き割りに音や臭い(焚刑のテーマのものの由)もあしらい、考古学的な知見も交えて資料を配した、低予算だがそれなりに復原的な、わかりやすい展示になっている。
 企画展として、巡礼者が身につけた「巡礼バッジ」を小コーナーを設けていたが、借用資料、復原レプリカなども利用して、水準の高い展示になっていた。
 展示室の外に出ると、アクティビティー・ルームがあることに気がついた。閉館間際で誰もいなかったが、一般にも公開されているらしく、明るい部屋に置かれたいくつかのテーブルには、手作りの博物館双六が置かれ、バインダーに挟んだクイズ・シートや塗り絵用の色鉛筆もきちんと置かれているのに感心。シートを一種類ずついただいて帰った。
 (なお、セント・アンドリューズは、一般には全英選手権も行われる世界的に有名なゴルフ・コースの所在地として知られており(私も、ゴルフはしないが、日本でTV中継を見てその北海に面した荒涼たる風景に強く印象づけられたことがある)、「英国ゴルフ博物館(British Golf Museum)」がこのコースのそばに存在する。冬期は11時〜3時の開館(火・水休み。夏期は9:30〜5:30、休みなし)のため、この日は行かなかったが、リーフレットとガイドブックによれば、1990年開館で、「500年以上のゴルフの歴史」について、用具などの実物資料の他、マネキンも用いたボール作成光景などの復原、146のプログラムを持つタッチスクリーン、クイズなど、新しい趣向も交えた博物館らしい。入場料大人£3,75。)

ウエールズ編(付チェスター)(コンウィ Conwi、カナーヴォン Caernerfon、ボーマリス Beaumaris、チェスター Chester、カーフィリー Caerfilly、カーディフ Cardiff)

北ウエールズ、チェスター
 1998年8月10日(月)〜12日(水)
<コンウィ>
コンウィ城 Conwy Castle <史跡>
 8月10日(月)午後訪問
 BRコンウィ駅徒歩10分
 大人£3,50 CADW(Welsh Historic Monumentsの、多分ウェールズ語の頭文字)会員無料
 イングランド王エドワード一世(在位1272〜1307)のウェールズ征服戦争に際して作られた城の一つ。1283年〜1289年の間に築城。城の保存も良いが、市街を巡る当時の城壁がほぼ完全に残っていることでも有名。駅から城壁づたいに城まで歩ける。
 観光案内所(ツーリスト・インフォメーション)と一体になった受付には、築城時の様子の実大人形を使った復原や、パネル展示もある。
 城は「チャペル・タワー」内部が、「Castle Chapels Exhibition」という展示施設になっており、実大人形も使って当時のチャペルの様子も復原されている(音楽も流れる)。他は、基本的に解説板程度だが、ここも、解説板は文章だけでなく、遺跡地図や復原図を用いてわかりやすい。なお、表記はすべてウェールズ語と英語の二言語表示。整備は丁寧で、各タワーは上まで登れるし、城壁の上も歩けるので、見学はスムーズ。塔の上から中世都市を一望するのは感動的。ガイドツアーは£1の有料制。
 観光案内所では、図書類も販売している。CADWでは、各城郭のガイドブックを作っており、各£2〜2,5ほどだが、これは、遺跡図、復原図、資料写真など図版豊富で、遺跡の歴史と見所を解説した図書として模範的な出来。5年ほど前に千田さんからももらっていたが、さらに大判でカラフルなものになっていた。この他、漫画(CARTOON)シリーズ、という劇画調の子供向け解説パンフレットも50Pで売っている。1188年にウェールズの旅行記を書いた「Gerald of Wales」という人物についてのやはりカラフルな解説本や絵本仕立ての子供向けパンフレットもあった。

アバーコンウィ・ハウス Aberconwy House
 大人£2(会員無料)
 14世紀に商人の家として建てられた家。城へ続くCastle Street とHigh Streetの交点にあり、ナショナル・トラストの所有・管理で公開されている。3階にガイダンスビデオあり。内部は、家具などで生活環境が復原されており、いつ頃の様子を復原しているのですか?と聞いたところ、ボランティアと思われるかなり高齢のおばあさんは、私の腕をつかまえて立ちながら、17世紀のものだと説明してくれた。昔の人は小さかったから、家具も小さいでしょう……。
 階下はナショナル・トラストのお店。土産物、お菓子(こういうところでは、オリジナルのチョコレートバーなどをたいてい売っている)などを販売。

市壁 Town Walls
 町を取り囲む市壁は、何カ所かから上に上がることができ、半分ほどは上を歩くことができるように整備されている(Wall Walk)。登り口には、コンウィ城と共通の解説板が付き、歴史地図と鳥瞰復原図で説明。地形はかなり起伏があり、港に突き出したLower Gate Street の側から上がると、反対側のUpper Gateはかなりの高さになる。コンウィ城のガイドブックには垂直図も出ており、それによれば比高差40メートルほどか。

セント・メアリーズ教会 St.Mary's Church
 1186年創建のかつての修道院跡の一部。町の中心にあるので、どこからでも境内に入ることが出来る。現在は教区教会なので、境内はほとんど墓地。カモメが飛来しては屋根にとまって甲高い声を挙げている。
 エドワード一世の築城以前からの遺跡ということになり。地図によれば、市壁北部付近には王宮もあった由。広場には王様の像が建っているのでエドワード一世かと思うと、やっぱり「侵略者」の像を飾るわけはなくて、これはウェールズのシェウェリン(LLEWELYN。発音を写すのが難しい)大王の像。

<カナーヴォン>
カナーヴォン城 Caernarfon Castle <史跡>
 8月11日(火)午前訪問
 バンゴール(Bangor)からバス5B。開門を待って入る。大人£4(CADW会員無料)。
 エドワード一世の築城した城の一つ。町もやはり市壁で囲まれている。海辺の立地も同じ。コンウィよりいっそう大きく、北ウェールズの中心。塔が丸ではなく多角形なのは、当時からこの城が特別視されていたから、とガイドブックにある。内部の地面は芝張りできれいな広場状。チャールズ皇太子の叙任式はここで行われており、現在も「現役」の城。1283年に築城が始まったこの城は、1330年に建設がストップしたが、「なお完成していない」。
 イーグル・タワーでは、概説的なパネル展示と、「The Eagle and the Dragon」という、ウェールズとイングランドの抗争を扱ったAVを上映。
 クイーンズ・タワーには、「The Royal Welsh Fusiliers Regimental Museum」という、エジンバラ城などにもあった例の連隊博物館が入っているが、ここはもう入らず。
 ノース・イースト・タワーでは、皇太子叙任式の展示。戴冠の場面と(たぶん)その時の大合唱の音楽が流れている。展示は、「式で使われたこの椅子の赤い生地はウェールズのどこそこ製で……」といった調子。
 ガイド・ツアーは10時から1時間ごと、£1。
 塔の間のアクセスが悪く、また通路には表示もあまりないので、どこに行けるのかよく分からず、あまり親切な整備ではない。城壁の上もあまり歩けるところがない。トイレは城内にある。
 売店では、ナショナル・カリキュラム準拠の、『カナーヴォン:城と町』というエデュケーショナル・リソース・パックを販売。遺跡で本格的にこれを作って売っているのは珍しい。内容は、歴史と建築についての32頁の解説書と、アクティヴィティー・シート(予約・設備・参考書などの情報、「傷に塩(Salt in the Wound)」というお話(二枚)国語・数学・科学・デザインとテクノロジー・地理(二枚)・アートとデザイン・ドラマとムーヴメント・音楽・宗教・歴史(二枚))、というもの。1995年CADW発行、£5,95。
 城壁の西は、すぐ海。ボーマリス城のあるアングルジー島との間の静かなメナイ海峡をヨットがゆるゆると動いていく。

市壁
 ここも町を囲む市壁がほぼ完全に残っているが、Wall Walk の入り口は閉められており、入れない。市壁の上に柵はしてあるが、低くてたしかにちょっと危険な気はする。

セゴンティウム・ローマ砦遺跡・博物館 Segontium Roman Fort and Museum <史跡・博物館>
 8月11日(火)午後訪問
 大人£1,25 (CADW会員無料) ガイドブック(三つ折りシート)95p
 (土地はナショナルトラストの所有らしい。)
 カナーヴォン城のある港から歩いて、小高い、いかにも古代遺跡、日本なら古代官衙の立地という感じの場所へ。
 ここは西暦77年のローマ軍のウェールズ征服後に作られた、道路で分断されているが、例の隅丸長方形の砦。出土コインによって、394年までは使用されていた痕跡を確認できる由。
 民家程度の大きさの博物館は、外に出ていたおじさんが開けてくれた。写真可。
 展示は、出土品と、よくあるローマの兵士のマネキンなど。
 遺跡は、芝張りおよび土と小砂利(遺構部分)できれいに整備されているが、表示は何もなく、博物館で知識を得ないと全くなんだかわからない。あまり積極的な見せ方はしていない。

<ボーマリス>
ボーマリス城 Beaumaris Castle <史跡>
 8月11日(火)午後訪問
 大人£2,20
 カナーヴォンからバスでバンゴールへ戻り、57番のバスでボーマリスへ。
 1295年から築城の、とりつかれたように城を作り続けたエドワード一世最後の城だが、未完に終わったため、塔は低いままで、ずんぐりした印象。しかし、ここの縄張りはすごい。中へはいると正面は壁。一瞬どこにいるのか分からなくなってしまう。日本で言うと二条城に匹敵する、一見単純だが、きわめて入りにくい「入れ子構造」の完成された形態。13世紀末のこの時点で、イギリスの中世城郭は一気に完成の域に達したことが分かる。エドワード一世は織田信長に相当するといってもある意味で大過ないと思う。権力は、走り出したら止まらない。
 整備は特に変わった点はないが、Wall Walkもある程度できる。塔の一つを利用して、エドワード一世の城についてのパネル展示。チャールズ皇太子の叙任式の写真があるので、またか、と思ってよく見ると、「ウェールズ王はこの服従の宣誓を拒否して戦争になった」とある。ウェールズ人の恨みは深い。
 チャペルは、壁だけ復原的に(?)白く塗っている。
 外へ出ると、なんと、城壁のすぐ外側から、柵もなんにもなしで子供の遊び場!。遊具たくさんで、家族連れがいっぱい。パター・ゴルフなどの有料のもあり、ここは海辺の観光地だからということもあるかもしれないが、ブランコなんかに乗ってるのは、地元の子が多いのではないか。いずれにしても、城跡がこんな風ににぎわっているのは何か感動的。やはり史跡は、何にもましてまず親しまれる場となっているべきだと実感。

<チェスター>(イングランドの内だが、便宜上ここに入れる。)
チェスター旧市街 Chester old town <史跡>
 1999年8月12日(水)午前・午後訪問
 北ウェールズからの帰り道、ウェールズへの入り口で、実際ローマ人もエドワード一世もウェールズ戦略の拠点としたチェスター(城塞都市。CASTLEの語源)へ立ち寄る。
 ローマ時代からの、チェシャー州の行政・商業の中心地であり、16・17世紀頃からの歴史的建物群をよく残していることでも知られる。城壁に囲まれたWall Cityでもあり、大部分残存する中世来の、そして17世紀の市民革命の内戦でも使用された市壁(赤い砂岩)はよく整備され、上を歩いて散策することができる。途中のキングス・タワーには、市民革命についてのパネル展示と土産物。ガイドブック、Wall Walkの地図など購入。
 ローマ時代からの四方からの門の交点ザ・クロスでは(マーケット・クロスと思われる柱が立つが現在十字架はない)、毎日正午には赤い衣装を着た「お触れ役人」が「お触れ」を読み上げる(この日は女性)。もちろん現在は観光行事で、「……、日本から来た人は(これは英語)?」「はい」「ヨウコソ!」とやってくれる。

ギルドホール博物館 Guildhall Museum
 無料。
 尖塔を持つ元教会の建物だが、ギルド・ホールとなり、現在は博物館。ただし、通常は木曜日全日と土曜日の午前のみの公開のため、今回は入ることができなかった。

チェスター城 <史跡>
 ノルマン・コンケストの後、1070年から作られた城。本来の都市域の外に作られたため、中世の市壁はここを囲む形に、ローマ時代のものより拡張されている。建物はごく一部が残り、イングリッシュ・ヘリテージの管理。建物内には入れず、無人の小屋でパネル展示を行っている。

グロヴナー博物館 The Grosvenor Museum
 8月12日(水)午後訪問
 入館無料、寄付歓迎  写真可  ガイドブック£1,50
 1885年建築の石造りの立派な建物。自然史部門や絵画の展示室も持つが、歴史関係は、まずローマ時代の展示。完全武装のローマ兵の人形が立ち、遺物が展示されているのはよくあるパターン。ローマ時代のチェスターのジオラマは、手前の立体的な部分が漸減的に奥の平面に変わる面白い手法。
 墓石のコレクションは、The Webster(功績のあった元学芸員の名前)Roman Stones Gallery という、1992年オープンの新しい展示室にまとめて展示されている。一部墓石が本来使用されていた状態の復原もあり、またローマ人の「オフィス」も展示室内に作り、中では男の人形が「木簡」に書き物をしていて、ボタンを押すと「会話」(何種類もあり)も聞ける。資料解説は、手前にまとめて、写真やトレース図も使用した丁寧なもの。コンピューター端末で色々な分野から検索できるコーナーもある。一つだけ、彩色も復原した模型があり、これだけはさわってもいいですが他のものにはさわらないで、と書いてあった。
 17世紀の建物を修復した「ピリオド・ハウス」の部分では、スチュワート朝(17世紀後期〜18世紀はじめ)・ジョージ朝(18世紀)からヴィクトリア朝(19世紀末)までの各時代の部屋、およびヴィクトリア朝時代の、台所、子供部屋、学校など色々な部屋、という生活復原。中では衣装を着た人形がアイロンをかけていたり、ピアノのお稽古をしていたり、色々な動作をしている。展示と直接は関係ないが、「子供部屋」のケースの前にはかわいいままごとセットが通路の奥に置いてあり、子供が遊べるようにしてあるのは心憎い工夫。
 ほとんどローマ時代とヴィクトリア朝時代に的を絞った展示で(これは珍しくない)、かなり復原的な展示手法に徹した展示だが、わかりやすく、丁寧な作りで、評価できる。受付には、子供用のワークシートが何種類かあり、また表にはエデュケーションの活動紹介。ガイドブックによれば、年間3万人の生徒が訪れ、実物資料を使った「handling sessions」や、展示室でのワークシートを使った学習をしているほか、学校への(資料の?)貸し出し(loan box)も利用できる由。
 また、博物館の裏にあるアーケオロジカル・サービスの発掘による出土品は随時企画展で紹介するほか、各種出版(報告書は博物館の売店で販売)やニュース・レターの刊行、セミナーや子供のための「エクスプローラー・クラブ」の運営などをしている。博物館に置いてあった「The Past Uncovered」という季刊ニュース・レターは、新発見の遺跡・遺物や行事紹介を市民向けにわかりやすくまとめていた。

円形劇場跡 Chester Amphitheatre <史跡>
 ローマ時代の円形劇場跡。7000人収容で、英国最大と言われる。市壁のすぐ外側にある。イングリッシュ・ヘリテージの管理。史跡公園風の露天の施設で、無料。1929〜34年と1965〜69年に発掘調査が行われている。断面三角形の3面の解説板で、復原図も交えて発掘成果を紹介している。敷地の関係で、整備・公開されているのは北半分の半円形だけで、あとは壁の向こうだし、上の方の部分は飛んでしまっているから、復原図がなければとても全体を理解することはできない。
 この付近には、ローマ時代の市壁の南東隅の基礎部分、浴場の円柱などローマ時代の石造遺物を配置した「ローマ庭園」(1949年)などもある。ノルマン時代のセント・ジョンズ教会跡もすぐれた遺跡。

 以上の他、実見していないが、観光案内(ピトキン・ガイド『City of Chester』日本語版£2,25。このシリーズは、歴史的都市や史跡について一般向けに作られた地図付きのすぐれたガイドブック)によれば、チェスターには、ローマ時代の典型的な通りを散歩して、そのころのチェスターの風景・音・匂いが体験できる、というディーヴァ・ローマン・エクスペリエンス(Deva Roman Experience)、1890年代の通りを実物大で再現したチェスター・ビジター・センターなどの施設もある。

南ウエールズ
 1998年8月24日(月)〜26日(水)
<カーフィリー>
カーフィリー城 Caerfilly Castle
 8月24日(月)午後訪問
 1268〜77年ころにウェールズの勢力との抗争の中で領主ギルバート伯によって建設された城。コンウィ、カナーヴォンなど北ウェールズの諸城と並ぶ規模を誇る。隣接地には、ローマ時代の砦と重なる市民革命時の城塞跡もあり。南東のタワーが割れて10度ほど傾いている光景が有名で、市民革命時の爆薬原因説があるが、CADWの解説・ガイドブックによれば、証拠はなく、おそらく地盤沈下によるものであろうという。
 16世紀のテューダー朝時代には荒廃が進むが、18世紀末頃から遺跡として見直され、19世紀中頃〜20世紀前半に、城を所有したビュート候などの手によって、かなりの部分が「復原」されているが、よく見るとちぐはぐな感じになっているところもあって、今日の基準で言うとかなり問題があるので、現状とはさらに別の復原図が置かれていたりする。1950年から国家の管理に移り、現在はウェールズ省の代理として、CADWが維持管理を行っている。
 内部は、中まで入れる部分が意外に少なく、Wall Walkもごく一部しかできないので、ちょっとつまらない。受付兼売店も小さく、全体に整備にはコンウィなど北ウェールズの城ほど力が入っていない感じ。
 ただここの特色として、復原的な整備があり、石の城壁の上にかつて作られていた木の多聞櫓状の防御施設が一部復原され、中に「戦闘中」の人形も置かれている。また、築城に用いる巻き上げクレーンや、城攻めに用いる飛び道具(engine)なども復原されて、濠の外に置かれている。
 北西タワーに概説のパネル展示がある他、ゲート・ハウスには、この「engine」関係の展示があり、製作や実際に使用した際の模様などを収めたビデオが上映されている。(英語・ウェールズ語の二言語が選択できる。)
 屋根とガラスが修復されているグレート・ホールには、長いテーブルと椅子が置かれているが、一番奥には、大きな背もたれの付いた椅子が二つあり、ここに座れば王様・お妃様の気分になれる(?)というのはちょっとした工夫。どうせならもっと立派なものにしたらどうだろう。

<カーディフ>
カーディフ城 Cardiff Castle <史跡>
 8月24日(月)夕訪問
 大人£4,8(建物に入らないと、£2,4。NACF会員は無料) 内部写真不可
 カーフィリーからの帰り、カースル・コッホにバスの時間が合わず行きそびれたので、カーディフまで戻って、同じく中世の城を19世紀に改造したカーディフ城へ。
 ローマ時代の城壁を利用し(発掘後、地下部分も見れるようにしてある)、ノルマン時代のキープ(天守)を残し、さらに中世の居城部分を、19世紀に石炭輸出で莫大な富を築いたビュート候という貴族が個人的趣味で改造した、各時代の特色を残した城。7年ほど前に一度来たが、その時は入らなかった建物の中を見学。ツアー制で、4:20からのツアーに参加できた。
 指定の場所で待つと、ウェールズ人らしい陽気な年輩の男性が現れ、上から下まで50分ほどガイドをしてくれた。この回の参加は10人ほどで、私の他は、ニュージーランド、ルーマニアなど多国籍。建物の内部は……ものすごい過剰装飾、きんきらきんの、けばけばしい、典型的、ないし極端なヴィクトリアン様式の内装。歴史、神話、聖書など色々な題材をとっていることなどを説明してくれる。別れ際に、市の公務員ですか?と聞いたら、ただの見せてまわるスタッフだよ、とのこと。以前はindustry(工業?)の仕事をしていたそうだから、ボランティアかもしれない。色々な国の人に会えるから楽しいね。とおっしゃっていたが、実際、そんな風に仕事を楽しんでいる人をイギリスではよく見かける。

ウェールズ生活博物館 Museum of Welsh Life
 8月25日(火)午前・午後訪問
 大人£5,25(NACF会員無料)。ガイドブック『ミュージアム・オブ・ウェリッシュ・ライフ ビジター・ガイド(日本語版のタイトル)』£1,75
 ウェールズ近郊のセント・ファーガンスという村にある。ウェールズの色々な生活に関わる歴史的な建物を移築した、野外博物館。日本で言えば、「明治村」や「リトルワールド」「北海道開拓の村(?)」などに当たる施設。開館50年展を企画展示室でやっていた。組織的には「a part of national museums」だそうで、国立(ガイドブックによれば、ウェールズ国立博物館・美術館は、全部で九つある)。年間入場者約30万人の由。
 バス停からすぐの入り口を通ると、まず「castle」の建物。といっても大邸宅と庭園。1090年のノルマン人領主の城に起源を持つが、現在の建物は1580年のもので、内部は19世紀はじめに設定されている。博物館は、この屋敷と敷地が寄贈されたことが基礎になっている。
 さらに進むと、ショップやレストラン、展示室(衣装と農具の歴史を展示)などの入っている建物に出るが、駐車場からだとここが正面になるらしく、ちょっとまごつく。あとは、広大な敷地の中に、建物が点在、ないし町並みを作って配置されている。農家では豚や鶏なども飼っているし、職人の家では、パン屋さん、鍛冶屋さん、陶器作りなどなどが実際に製作(即売も)を行っているし、商店ではものを買うこともできる。学校では、ヴィクトリア時代の授業を、イベントとしてやっていたりする由。この日は、子供向けに織物の実習などをやっているのを見かけた。
 というわけで、本格的な野外生活史・建築史博物館として高く評価はできるが、しかし運営は十分とは言えない。管理の職員は、みなえんじ色のブレザーを着ているが、どうせなら歴史的な衣装にした方がよい。職人さんは銘々勝手なジーパンなどの作業着を着ているがこれもちょっと興ざめ。案内板も不十分で、どこにいるのかすぐ分からなくなってしまう。建物解説のガイドブックも見てまわるには必需品のはずだが、最初にショップで聞いたときはお兄さんは「ない」と言っていたので、せっかく日本語版があるのに最後に買う羽目になった。といった調子で、趣旨はよいし、内容は豊富だし、職員の人も気のいい感じで悪くはないのだが、やはり「国立」のせいか、色々行き届かない点が目立ち、お客本位の発想にはなっていないのが残念。ある建物の所で、多分ツーリズムの卒論を書くらしいお姉さんの二人連れがアンケート調査をしていたので、「ここへ来たのはなぜですか」「ガイドブックに出ているから。ほら、日本のガイドブックでも三つ星ですよ。」等々答えてあげたが、「何か御意見は?」と最後に言うので、不満をぶちまけてしまった。「伝えておきます。」とのこと。
 面白い建物としては、闘鶏場が、イギリスにもあることがわかった。2000年前(?)のケルトの村の復原、というのもあり、弥生時代の集落によく似た雰囲気。日本では消防法の関係とかでやらないと思うが、本当に中の炉で火をたいているのは良い。ただ煙いこと煙いこと、ちょっと設計かなにかに問題があるのではないか。ストーン・サークルならぬ「ティンバー・サークル」には、中央にたしかに「六本の」木柱がありました、佐原さん。
 この他、旧五月祭、収穫祭、クリスマスなど、年間を通していくつもの行事を行っている由。

ウェールズ国立博物館本館 The National Museum of Wales Main Building
 8月25日(火)夕訪問
 大人£  (NACF会員無料)
 7年ほど前に一度来ているが、自然史部門は展示が更新されたらしく、AV、環境復原などを積極的に用いたナウい展示になっている。
 絵画の部門も充実。「18世紀」の所だけのようだが、ヘッドフォーン式(IC式?)の音声ガイド装置を無料で貸し出している。「子供の目で見ると」という、子供の感想を書いたものも、いくつかの作品に添付してあった。エデュケーション部門がユニークなことをやっている様子。
 「アーケオロジー」の部分は、7年前に来たときと、おそらくほとんど変わっていない。一部に実大復原などもあるが、全体的に古典的な展示。図録も、絵画のはあるが、考古はケルト十字など個別資料群のものしかない模様。
 この時の企画展は、「Princes as Patorons」という美術関係のもの。かなり力を入れているが、皇太子が美術奨励に果たした役割(?)という視点にはちょっと首を傾げた。

ウェールズ産業海事博物館 Welsh Industrial and Maritime Museum 閉鎖された博物館
 8月26日(水)午前訪問
 ウェールズ国立博物館・美術館の一つ。
 カーディフ駅からバスで海辺のベイ・エリアへ。バスを乗り間違えて戻る時、たまたま一緒に乗ったおじさんが、どこ行くんだ?とか聞くので、これこれと言うと、その博物館はもうやっていないよ、とおっしゃる。日本で買った最新版のガイドブックにも比較的新しい施設のように書いてあるし、ツーリスト・インフォメーションで買った地図にもちゃんと出ているので、まさかと思ったが、着いてみるとやっぱり閉鎖されていた。貼り紙も何にもなく、ただ取り壊しとおぼしい工事中。こういうのもすさまじい光景。屋外展示の汽車やヘリコプターなんかの乗り物はまだそのままだったが、一体どうするのだろう。
 仕方がないので、とりあえず(ベイ・エリアの)ヴィジター・センターに入るが、開発予定地区の模型や大型スクリーンのイメージ画像だけで、大した内容はない。インフォメーションで博物館について聞いてみると、ここはショッピング・センターなどになり、博物館は移転の予定。(聞き違いでなければ、ナショナル・ロッテリーに申請中)小さいが新しい博物館ができている、と言って、「126Bute Street」という施設を教えてくれた。確かに旧博物館の建物の近くには、ショッピング・センターなどの計画を示す大きな看板が建っていた。
 教えてもらった「126 Bute Street」へ行ってみると、街路に面した普通の建物。受付のおじいさんは、そこの展示とビデオだけだがいいか?と聞く。大人£1,25(ずいぶん離れたペナース(Penarth)のターナー・ハウスと共通)。「移転」については、いつどこにできるのか、わからんね。とのこと。「いいビデオだよ、船長(Captain)が出てくるんだ」、などと言って、奥の倉庫みたいな、一部パブか何かなどの町並み復原?がある暗いところに連れていき、スイッチを入れてくれる。かなり古い感じの映像が映ると、何分か船の動き出す音だけ。やがて船長が画面のある「船長室」に現れ、だみ声で色々説明をするのだが、残念ながらほとんど聞き取れない。で、終わり。他の映像は何にも出てこない、何のためのビデオなのかよく分からない代物。「展示」は、船の模型とパネルだけの、いかにもおざなりで、形だけやってます、という感じのごく小規模なもの。
 帰りに受付にいた女性職員に話を聞いてみると、移転については、噛み潰すように「保証はない。(No guaranntee.)」の一言。この建物は、150年ほど前のものだが、1970年代終わりか80年頃に博物館が取得してオフィスになっていた。元の博物館は、1977年開館で、1998年5月に閉鎖された。資料は他の所に運んだり、ここにしまったりしてある。学芸員はここ(上階)にいる……とのこと。(さすがに、ここで何をしているのですか、とは聞けなかった。)歴博と同じ頃にできた国立の博物館がもう、再開発の波に負けて潰されてしまい、移転の予定も立たない、というイギリスの厳しい現実に愕然。

テクニクエスト Techniquest
 8月26日(水)午後訪問
 大人£4,75  ガイドブック『エクスプローラー・ブック』£2,5(全編シール式で、張りながら復習ができる)
 「実験」を楽しめる、ハンズ・オンに徹した科学館。12時過ぎにはいると、夏休み中とあってか、すでにかなりの混雑。プラネタリウムとサイエンス・シアターの切符は、早くも売り切れで、メイン・エキシビションだけですね、と念を押される。また、「どこからですか?」とも聞かれた。この種のマーケティング調査を窓口でしている所が、時々ある。
 展示室(というより広大な「実験室」)では、例えば、大きなガラス箱に二酸化炭素を満たして、上からシャボン玉を吹くと途中で止まる、とか、ハンドルを回して電気分解で酸素を発生させ、それを爆発させてロケットを発射する、とか、比較的単純だが、色々動かす部分があるので、子供たちは喜々として遊んで(学んで)いる。実験機器の使い方や、どうしてそうなるのかの説明も、見やすい所にわかりやすく付いているし、係りの人が常時見回って補充や説明などをしている。
 受付には、フランス語やドイツ語のパンフレットも置いてあったから、国際的な来客を見込んでいる模様。教師用の案内パンフレットも置いてある。
 受付で聞いたところでは、12年ほど前にでき、年間入場者は約25万人、とのことで、思ったより少ないが、平日はどうしても減るのだろう。前述のウェールズ産業・海事博物館は、徒歩10分ほどの所にできたここに負けたのであろうことは想像に難くない。
 (Tim Caulton “Hands-on Exhibitions”Routledge,1998* により詳しいデータが出ており、1986年開館、1987年カーディフ・ベイに移転、1988年9月に第二段階の展示がオープン。この段階で、年間入場者10万人。(近くのウェールズ産業海事博物館は1990年で3万9千人。)1995年5月に第三段階の展示がオープンし、最初の一年で23万6千人。翌年はさらに増えている。この間、1991年にはカーディフ・ベイ開発会社はテクニクエストを「リード・プロジェクト」に選んでいる。また、各段階で、スポンサーが多額を出資している。)
  邦訳『ハンズ・オンとこれからの博物館』(染川香澄・芦谷美奈子・井島真知・竹内有理・徳永喜昭訳、東海大学出版会、2000年3月)。

ダブリン Dublin(アイルランド共和国)編
 1998年9月6日(日)〜11日(金)
 IIC(国際文化財保存学会)第17回大会中に訪問。同学会では、神庭信幸さん(元歴博、現東博)と歴博で調査した京大蔵「マリア十五玄義図」などについてポスター発表。アイルランド共和国は、1922年にイギリスから独立。大多数の人は英語で暮らしているし、イギリスと共通する部分も多いが、やはり外国。ウエールズやスコットランドよりさらにケルト文化の色彩が濃く、正直に言えばちょっとわけの分からない、不思議な所だった。

ダブリン作家記念館 Dublin Writers Museum
 9月6日(日)午後訪問
 旧市街北部のパーネルスクエア所在
 大人£2,95(この日は£1,6。なお、アイルランド£は、イギリス£(約200円)より二割くらい?安い。)
 写真:常設展の2部屋以外は可。
 オーディオガイド「The Time Machine」あり。無料。テープ式。日本語版あり。日本語パンフもあり。
 ダブリン・アイルランドの文学(・演劇)に関係した人物を網羅した資料館。18世紀の歴史的建物を利用している。
 常設展は2部屋だけで、初期アイルランド文学から、19世紀、20世紀の、イエイツ、ワイルド、ショウ、ジョイス、ベケット、その他始めて名前を聞く作家も多いが、遺品、作品、写真・解説パネルで構成した古典的な展示。「ドラキュラ」の作者はアイルランド人と知る。テープツアーは、日本語なのでわかりやすく、丁寧だが、電池が最後の方で切れた。
 後は、主に建物自体を見せ、二階はギャラリーで現代作家の展示即売会をやっていた。カフェあり。ショップでは、アイルランド文学の本などがもちろん多い。売り子のお兄さんはタバコを吸っていてあまりやる気がない。

国立(?)蝋人形博物館 National Wax Museum
 9月6日(日)午後訪問
 旧市街北部のパーネルスクエア所在
 大人£3,5 写真可?
 蝋人形を使った歴史復原博物館、と思って入ったら、最初は子供向けの、ディズニーランド風有名物語シーン。「カメ忍者」の後に、やっと歴史上の、独立運動などの展示。つい最近のクリントン来訪も登場。かと思うと、「最後の晩餐」の立体化、世界史の有名人物、などが続き、最後は最近の法王3人と、現在のヨハネ・パウロ二世のアイルランド訪問の光景、というところがカトリック国。なんだかうらぶれた感じのあまり商品のない売店の次にまたドアがあり、一つはロックスター(?)などの競演、もう一つは、……お化け屋敷。ドラキュラ、せむし男などをはじめ、これでもか、のおどろおどろしい「展示」。これで本当に「国立」なのだろうか?(ひょっとしたら、「国に関する」という意味で使っているのかもしれない。)蝋人形は、あまり出来がよくない。受付のにこやかなおばさんに図録はありませんか?と聞いたら、誰かが置いてった(?)とか色々由来を説明してくれたあげく、折れ曲がった一応色刷りのリーフレットをくれた。

トリニティー大学図書館 Trinity College Library
 18世紀に作られたold libraryが公開されている。有名な8世紀の聖書の写本「ケルの書」などの古写本を展示する新しい展示施設が一階部分に作られ、二階は、65mに渡って書架の並ぶlong roomで、18・19世紀的図書館の雰囲気を知ることができる。ショップも充実しており、図書の他、ケルト模様の装飾品などおみやげ品も多数販売。

ダブリン城 Dublin Castle <史跡>
 9月7日(月)7時半訪問
 旧市街中心部、リフェイ川南岸。
 IIC大会のステート・レセプション(文化・芸術・ゲール語・諸島大臣(?)も出席)の会場となったので、玄関側からただで中へ入れた。11世紀末のノルマン人侵入以来のアイルランド支配の拠点だが、現在の建物・内装は、18世紀のロココ風。夜のパーティーだったので、ライトアップがきれい。広い階段は、何だかシンデレラの舞踏会のよう。史跡の活用の一例としては興味深い。

アイルランド国立博物館 National Museum of Ireland
 9月8日(火)午前訪問
 旧市街南東部のKildare Street所在
 無料。写真不可。 ガイドツアー一日6回(£1)
 1890年のオープン。いかにも19世紀的な建物。門扉の飾りもヴィクトリアン。
 構成は、1)先史時代、2)金製遺物(鉄器時代?)、3)Treasury(ケルト時代の「宝物」など)、4)バイキング、5)古代エジプト(工事中で入れず)、6)独立への道(当時の兵器、制服、個人関係資料・デスマスク、写真パネル)、というもの。
 なぜかバイキングから先が20世紀までない。バイキングの展示は、村や家の復元模型もあり、考古学的。この他、「湿地の考古学」という木製品・革製品などの出土遺物の説明コーナーもあり。アイルランド関係だけではなく、「古代エジプト」の他、階段脇の「織物」の小コーナーには、日本のふくさや中国の壁掛けもあり。19世紀的な発想の展示と、近年の考古学等の成果が混在している。
 売店には、館全体のガイドブックはないが、テーマ別の図書はあり。「アイルランド民話」などは、アメリカ発行のものがかなりあり、移民による関係の深さを実感。あとは装飾品などが多い。

アイルランド国立図書館 National Library of Ireland
 9月8日(火)午前訪問
 無料。
 国立博物館と向かい合わせの、双子建物。展示室で、独立戦争の闘士マイケル・コリンズ(映画が日本でも公開された)関係の展示をやっていたので、入る。これは最近収集した手紙と写真パネルによる普通の展示。この他、コンピューター利用の家系調査のサービスなどもある。売店では、古地図の複製などを販売。

ダブリン・エクスペリエンス The Dublin Experience
 9月8日(火)昼訪問
 £3
 トリニティー・カレッジ構内の、IIC大会が開かれていたのと同じ建物の中にある施設。3面マルチの画面と音声でダブリンの歴史を解説。最初のバイキングなどは復原漫画。後はスライド。大学の中にこういう一般観光客向けの施設のあるのが面白い。

市立ヒュー・レーン美術館 Municipal Hugh Lane Gallery
 9月8日(火)6時半〜訪問
 旧市街北東部のパーネルスクエア所在。
 無料。IICのレセプションで入る。入ると企画展関係の活動で作った子供の大きな作品が置いてあり、エデュケーション部門があることが分かる。現代美術の美術館かと思うと、奥の方は19・20世紀の普通の絵の展示。

ダブリン市民博物館 Dublin Civic Museum
 9月8日(火)午後訪問
 旧市街中心部南側、South William Street  無料
 商店などの並ぶ一画にある普通の建物で、存在感の乏しい博物館。(“Dublin's Top Visitor Attractions”によれば、もとの市集会所を1953年から博物館としたもの。)展示室のあるらしい二階に上がってみると、古地図などがかかっているが、展示室は一室だけらしく、展示替え作業中。「郷土資料館的」なものらしい、と思っていると、後ろの事務室?からおじさんが、今日はやってないよ、と声をかける。掲示も出さないのが不思議。

セント・パトリック大聖堂 St. Patoric Cathedral <史跡>
 9月8日(火)午後訪問
 £2
 「ガリバー旅行記」の作者スウィフトが居たことなどで知られる大聖堂。中世の市壁より南にはずれたところにあり、この種の修道院・大聖堂は、イギリスではヘンリー八世の修道院解散令によって16世紀以降廃墟となったところが多いが、ここはなぜ残っているのか、カトリック国であるせいか、歴史的な興味が持たれる。

クライスト・チャーチ大聖堂 Crist Churtch Cathedral <史跡>
 9月8日(火)5時過ぎ、10日(木)午後訪問
 £1、または「ダブリニア」と共通。
 かつての中世都市の中心に位置。(現在アングリカン(国教会)派の教会。)前を通る道が「ハイ・ストリート」だが、現在は商業施設はない。8日は、5時を過ぎていたが、何事もなく入れてくれた。日本語案内しおりあり。見所を漫画で描いて「探せるかな?」とした子供向けの案内があるのもよい。
 アイルランドに入って治めたノルマン騎士「ストロング・ボウ」の石像とされるものがあり、かつては商談はこの像の前で金銭授受をした由。すっかりすり減っている。地階は13世紀そのままという。壁の一部は、16世紀の屋根崩壊の修復以来傾いているのが不思議な光景。

アイルランド国立博物館コリンズ・バラックス National Museum of Ireland Collins Barracks
 9月9日(水)午前訪問
 無料。写真不可。
 市街西部のBenburb Streetにある旧兵舎群コリンズ・バラックスを改装して博物館としている。1997年9月に第一段階が開館したばかりで、まだガイドブック等には全く載っていないし、というより積極的な宣伝はまるでしていないので、この日の朝、ホテルの観光案内リーフレットが置いてある棚で見つけた国立博物館のリーフレットの中にある記載ではじめて気がつき、すぐに出かけてみた。中心部のAbbey Streetからバス25a(£0,55)。運転手さんに教えてもらって降りた後、リフェイ川を渡ってもう少し歩く。
 かなり古い石造りの建物だが、建物の間はガラスでつなぎ、きれいに改装して明るい施設になっている。
 最初は、「Children's Choice」という、子供が選んでまねをして作った作品展。受付には、子供向けのシートも置いてあり、エデュケーション部門が力を持っていることがうかがえる。次は「Curator's Choice」という、学芸員の選んだ、アトランダムな名品展コーナー。日本の銅鐸がここに出されているのはうれしい(先のリーフレットでも、「a Japanese ceremonial bell over 2000 years old」と、目玉の一つとして紹介されている。スピーカーからは、カン、カンと鐘の音が響き続けているのもよい。
 次は「out of storage」という、収蔵展示。個々の資料にラベルはなく、吹き抜けの中の棚に色々な資料が出されていて一見脈絡がないが、端末による検索で、時代別、素材別などによる絞り込みができ、また番号ではなく棚の画像にタッチすればその資料のデータが出る、というかなり手の込んだ仕掛けになっている。日本の、葵の紋が付いた駕籠や、甲冑もある。また、単独で置かれた中国の14世紀の壺は、それがどのようにしてここへ来たか、という歴史的背景を映像と音声解説で解説している。
 テーマ別の展示は、アイルランド銀器、科学機器(時計など)、家具(時代別と、民具的なもの)、という程度だが、今後10年かけて他の分野も順次公開するとのこと。アイルランドだけではなく、世界の民族関係のものなども予定されているらしい。市中心部にある旧館は残すが、アーケオロジストやコンサベーターはこちらに来る、とのこと。資料の修復過程を示した展示もあった。
 企画展示は、国連の軍事活動(への協力)と、1798年の独立運動蜂起に関するものをやっていた。後者では、裁判所の場面で、屋外の人物にタッチするとそのデータが現れ、窓にタッチすると屋内に入り……というインタラクティブな仕掛けの端末を出していた。(これは後で考えると、国立図書館でCD-ROMを販売していた。)
 まだ図録もなく(もっともアイルランドでは博物館図録というものを結局見なかったが)、また入館者数を聞くと、「一番多かった日が開館2週目の日曜の3000人だったけど、普段の日曜は1000人くらいで……」という感じで、この日の午前中は結局中高年の家族連れ(?)一組しか見かけず、陰になったところで展示を見ていたら、歩いてきたガードの女性が人影に驚いて通り過ぎる有様(客を見て驚くな!)。その割にシートはいい紙を使っていているなど、費用対効果を全然考慮しない、イギリスではもう考えられないような大らかさだが、ともあれ理念的にも技術的にも最新の博物館を目指してはおり、いずれ整備が進んで運営が軌道に乗れば、ヨーロッパ有数の博物館になりうるのではないかと思われた。

グレンダロッホ Glendalough <史跡>
 9月9日(水)午後訪問。IICのエクスカーション。
 古代に栄えた修道院跡。石造の建物跡若干、ケルト十字架など。風光明媚なため観光地となっているらしいが、あまり積極的な見せ方はしていない様子。アジールとなっていた時の門跡が残る(ガイドさんの説明)。
 山間の湖畔にあり、隠者的、隠遁的雰囲気で、中世の修道院の雰囲気とはかなり異なる。ローマカトリック的とも異なる、太古の自然崇拝的意識につながる存在、と見てよいか。帰りのバスでは、荒野に大きな虹。

アイルランド国立美術館 National Gallery of Ireland
 9月9日(水)6時〜訪問(レセプション)
 市中心部東のメリオン・スクエア所在。  無料。
 1864年オープンの美術館だが、1996年春に改装を終えており、新しい感じがする。収蔵品、展示も非常に充実。修復関係の展示も行われていた。図録も、画派(school)別に要領よくまとめられたものが£3と良心的。また、ポスターによれば、毎週土曜日には、「Suturday for Families」というファミリー・プログラムを行っている(無料。定員50人。用具提供)。やはり、よくやっている感じの博物館は、教育部門が活躍している。

チェスター・ビーティー・ライブラリー Chester Beaty Library
 9月10日(木)午前訪問
 無料。写真不可だが、修復関係の所は許可を得て撮影。ガイドブックもただ。
 市街西部の高級住宅地にあり。トリニティーカレッジ南側からバス7番8番(?)など。運転手さんに聞いておいたら、バス停でもないところで停めてくれた。
 V & AのRさんの御教示で連絡を取っておいた学芸員のCさんに面会。にこやかな女性。お上手なので会話は日本語になってしまった。神庭さんと学芸員室でお話を伺う。
 チェスター・ビーティーは1828年生まれの鉱業関係のアメリカの実業家。1913年イギリスへ。BMはコレクションを保証しなかったため、アイルランドへ寄贈。1953年オープン(煉瓦づくりの旧館。新館は1975年)。学芸員は三人で、far easternのポラードさんの他、western・初期キリスト教美術、およびイスラム、という構成。ポラードさんは、滞日経験も豊富で、明治の陶芸が御専門の由。勤務は二年前からで、以前は潮田よしこさんが担当だった由。2001年春には、ダブリン城へ移転・オープンの予定。
 日本関係の所蔵品は、絵巻、奈良絵本、浮世絵(数は少なく、500点くらい)、摺り物(単独の図録“The Art of Surimono”あり)、など。修復を、東博、広島、サントリーで行った。(平山さんの文化財赤十字の関係。)
 この時日本関係の企画展示に出ていたのは、「長恨歌絵巻(狩野山雪、17世紀)」「村松物語(3巻、17世紀初)」「12類絵巻(3巻、17世紀中)」「奈良絵本源氏物語(17世紀中)」「洛中洛外図絵巻(1巻、17世紀後)」「源氏物語絵巻(4巻、作者不詳、1688年)」その他摺り物など。修復についての詳しいパネル展示もあり、表具の道具をパネルに直接張り付けているのがユニーク。神庭さんは、どうしてこういう展示が日本でできないのか、としきりに感心。
 「長恨歌絵巻」については、マルチメディアにより、画面の検索、場面の移動、拡大の他、詞書きの朗読や解説が音声(英・仏・独・ゲール・日本語)で出るすぐれた展示が行われていたが、CD-ROMを販売していたので購入(£15くらいだったか?)。
 常設展では、「百万塔・根本陀羅尼(台付きで展示)」「嵯峨本伊勢物語(歴博の物とは色刷りページが異なり、また多い。print on paper of five different colours(5色?)と解説。)」「竹取物語(冊子、17世紀中)」「年中行事絵巻(17世紀中、京都祇園祭など。訳は'Celebration for 12 Month')」「奈良絵本源氏物語(漆箱付き、17世紀後)」)その他浮世絵、摺り物など。Japanese Paintings の多くは1917年にビーティーが日本で収集した物らしい。
 旧館にも展示があり、日本関係では、「源氏物語(みおつくし、16世紀。日本人美術研究者の某さんが、留学のお礼に寄贈した物、と解説)」「北斎漫画」など。総じて、収集品と展示の質の高さに驚く。
 なお、神庭さんの指摘によれば、消火用ボンベは二酸化炭素を使用しているが、むしろこれが常識であり、日本(歴博)のような粉末式では使用すると後が大変なことになり、資料への被害ははかりしれないので、博物館では絶対使うべきではない、とのこと。尤も。

ダブリニア Dablinia
 9月10日(木)午後訪問
 大人£3,95(この日はAV Theatreがないので、15パーセント割引)、ガイドブック「A Short History of Medieval Dublin」£2,99。カラー印刷でないのが残念。写真撮影は、聞いてみたら「not many」とのこと。少しはいいらしい。
 中世ダブリンの歴史を展示。母体は、「The Medieval Trust」と言う、教育・研究目的の独立財団(1989年設立)。中世ダブリンの中心クライスト・チャーチ大聖堂に隣接し、橋で結ばれている。建物は歴史的な物で、1875年にオープンし、1983年までチャーチ・オブ・アイルランドのmeeting place として使われていた(Tower of St.Michel'sは17世紀とのこと)。
 内容は、まずノルマンの侵攻からヘンリー八世の修道院解散令までの歴史(1170〜1540)を、時代順にいくつかの場面を復原(テープ式音声ガイドあり。日本語版はなし)。続いて二階では、市街付近全体の復原模型、および交易船の内部、商家など、生活場面のいくつかの復原、そして、発掘出土品の展示。出土品はWood Quay(波止場)の物で、National Museam からの借用品。こういう一般向けの施設で展示するのはよい。出土地は、後述のヴァイキング・アドヴェンチャーが作られるきっかけとなった再開発による発掘らしい。資料の展示だけではなく、「The Dig」(発掘現場の様子)とか「Kavadge and Knowledge」(骨片などを積んだゴミ捨て場風のケース)といった、考古学の方法自体の理解を図る部分も若干あり。

ダブリン・ヴァイキング・アドヴェンチャー Dublin's Viking Adveture
 9月10日(木)午後訪問
 クライスト・チャーチから川へ降り、やや東へ入った所にある。
 大人£4,75(ホテル、国立博物館にあった券で£1引き。)ツアーのみで、3:30からのものに参加(この回は、神庭さんと私だけ。)所要45分から1時間。ビデオ、フラッシュ撮影は禁止。
 まず20から30席くらい並んだ椅子に座らされ、後ろの扉が閉まると、前のスクリーンに復原バイキング船の航海とナレーション。前のスクリーンがあがると席が前へ進み、船の舳先と合体。男が立っていて、「荒海の航海」に。しぶきもかかる。無事「村」に着くと、「生き残りは二人だあ」と奥さん(?)に紹介。この人が家の作り、交易品(干し魚)などを解説。「職業は?交易品は何か持ってきた?」神庭さんが、「フィロソファーなので何もない。」と言うと、「だめねー。」という調子で、対話で進む。女は12〜16歳で結婚。親は牛を12頭もらう決まり。お宅は女の子?などなど。次に家の中へ案内され、座って別の女性の話を聞く。自分はケルト人でクリスチャンだが夫はバイキング、今糸つむぎをしていて……と早口で解説しているうちに、槍を持ったケルト人のおじさんが入ってきて、「それ(傘)は新しい武器か?、ヘルメット(帽子)がよく似合うな。」などと会話した後、近くの建築中の石造りの家に案内(これはなんなのかよくわからなかった)。別の女性に引き渡す。一緒に壁の外に出ると、1987年(?)の発掘現場。の模型。この遺跡を残せなかったので、ここを作った、との説明。壁には、地下の断面を象徴的に表示(黒死病の「墓」、ヘンデルの「バイオリン」、など)。最後は宴会場で、船の帆をかたどったスクリーンにバイキングの解説映画を上映(世界的広がり、など)。ここでは、夜はバイキング料理を出しているらしい。
 また壁の外に出ると、今度はmuseum。出土品、家の模型、調査室(の復原?展示)など。外は(96、97年の?)発掘のパネル展示。
 以上、歴史復原施設らしい、という程度の知識で入ったが、発掘に基づく復原・展示施設という点でヨークのヨルヴィック・バイキングセンターと似た存在だが、ここは参加型の実演(ロール・プレイ)にしてしまっているところが一歩進んでおり、最新の、ないしもっとも進んだ、あるいは極端な事例、と言える。何が始まるか分からない内にいきなり「なりきり」になるので、ちょっと怖い。最初は奴隷にされるかと思った。対話は、質問の間がなく、やや一方的。記念写真くらい撮る余裕も欲しい。売店はあるが、ガイドブック、解説資料類が全くなく、絵はがきもないので、復原をあとで見る、また人に伝えるすべが全くないのが残念。ヨークがこの点充実しているのと対照的で、もうすこし配慮が欲しい。アイルランドは、とかく不条理。
 なお、開館は96年6月で、一年目の入場者は8万人、とのこと。
 外を歩くと、レフェイ川と道を挟んでダブリン・コーポレーション(?)の近代的ビル。この辺を発掘したものと察しが付く。しかし、自分はいったいいつの時代の町を歩いているのか、しばらく現実離れした感覚が続いていた。

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