INTCAL98からIntCal04へ
尾嵜大真
今春、炭素14年代較正データベースが改訂されました。この改訂でどのような変更がなされたのか、またその変更によりどのような影響があるのか、について解説してみたいと思います。
AMS法やベータ線計測法による炭素14測定では直接実際の年代である暦年代が求まるのではなく、炭素14濃度および炭素14年代値が得られます。炭素14年代値は、過去から現在までにおいて地球大気中の炭素14濃度は常に一定であったという仮定のもと、試料中の炭素14濃度にまで減少する時間を炭素14の半減期を5568年(実際には5730±40年なのですが、過去の結果との統一性を保つため慣習的に5568年が用いられています)として計算され、西暦1950年からさかのぼった年数として表記されるモデル(仮想)年代です。この炭素14年代値を暦年代に変換するために較正データベースが必要であり、実年代のわかっている年輪試料や年稿堆積物中の物質などについての炭素14濃度のさまざまな機関による測定結果をもとに較正データベースが作成され、広く用いられています。2005年3月には新しい炭素14年代較正データベースIntCal04が公表されました(Reimer et al., 2004,図1)。
これまで使用されてきたINTCAL98からIntCal04への更新に伴う大きな変更は、INTCAL98では個々の測定結果の誤差を考慮した重み付き平均による計算であったものを乱数モデル(random walking model)による計算法に変更したこと、分析結果の増大によってデータベースの範囲が紀元前22050年前までから紀元前24050年前まで広がったこと、年輪試料の分析結果をもとにした部分が紀元前9450年前までであったものが紀元前10450年前までに伸びたこと、などがあげられます。IntCal04で新しく取り込まれた分析結果のほとんどは紀元前10000年より前のもので、それ以降についての分析結果はほとんどありません。つまり、IntCal04におけるデータベースの更新は紀元前10000年より以前の部分と算出法の違いによるものが主となっています。
較正データベースは暦年代に対する炭素14濃度および炭素14年代値として与えられています。図2に紀元前10000年以降のINTCAL98とIntCal04との差を示しました。新しい年輪試料の分析結果によって更新された部分(紀元前10世紀以前)を除くとその差はほとんど±50年の範囲に収まっており、これはAMS測定の誤差(およそ±40〜30年)とほとんど変わりません。炭素14年代から暦年代への較正においてINTCAL98とIntCal04とでは大きな違いはないことが予測されます。実際にIntCal04の公表に伴い、我々のグループでも暦年較正に用いるデータベースをIntCal04に更新し、これまでにINTCAL98を用いて報告した暦年較正の結果についてもIntCal04を用いて較正計算をやり直していますが、細かな違いはあるものの、得られた年代値についての考古学的な解釈の変更が求められるほどの大きな変化はありません。一例としてIntCal04とINTCAL98で比較的大きな違いのあった紀元前750年付近に当たる部分が影響するもののIntCal04およびINTCAL98による較正結果を図3に示しました。較正データベースにおいて50年ほどの差があるにもかかわらず、較正年代の確率分布はほとんど変わらず、確率分布のもっとも古いところの差が35年ほどでした。
今後も年輪試料などについての新しい分析結果が蓄積されることにより、データベースの更新が行われることが予想されます。その度に得られる較正年代値はわずかではあるかと思いますが変わってしまう可能性があります。ただあくまでも不変な分析結果というのは炭素14年代値であり、較正年代が較正データベースの更新によって異なってしまうのは致し方ありません。また、現実には紀元前10000年前までの分析結果はすでに十分にあり、今後この部分のデータベースが更新されても大きな変化はないと思われ、較正年代も大きく違うものとはならないでしょう。
最後に、我々のグループでは土器付着物などの年代測定を進めながら、日本産樹木の年輪試料についても炭素14測定を行っており、IntCal04と比較して違いの有無を調べています。現在までのところIntCal04との大きな違いは見つかっていません。また、今後も大きな違いはないものと予測しており、IntCal04較正データベースが日本においても十分に通用するものであると我々は考えています。
≪註≫
Reimer et al. (2004) IntCal04 terrestrial radiocarbon age calibration, 0-26cal kyr BP. Radiocarbon 46, 1029-1058.
IntCal04データベースそのものやそれに関わる細かなデータなどがRadiocabon誌のweb(http://www.radiocarbon.org/IntCal04.htm)上で公表されています。