企画展示をより楽しく、より深く鑑賞していただくため、本館の広報担当職員が企画展示の担当者から展示の見どころや作り手の気持ちを取材します。

今回は7月7日から開催する企画展示「ドイツと日本を結ぶもの-日独修好150年の歴史-」の保谷徹代表(東京大学史料編纂所・本館客員教授)にお話をうかがって来ました。
※画像掲載の資料はすべて出展されます。

展示案内「ドイツと日本を結ぶもの-日独修好150年の歴史-」

各回リンク
第1回「プロイセンがやって来た!」 第2回「貴重資料からみる日独外交」 第3回「深まる交流」
第4回「第一次世界大戦~ワイマール共和国時代の日独関係」 第5回「第二次世界大戦以降の日独関係」

第2回 貴重資料からみる日独外交

保谷:今回の展示の大きな目玉として、プロイセンとの条約書をお出ししますので、これは必ず見ていただきたいです。実はこの条約書は、日本側のものは関東大震災で焼けてしまって残っていないんですね。それで今回プロイセンの枢密文書館からお借りすることができたので、日本初公開の資料としてお見せいたします。それ以外の国内の資料については、日本の外交史料館に特別にお願いをして大体主要な条約はすべて原本で並べることができましたので、そこは今回の展示の“売り”ですね。

条約書には交渉にあたった日本側の代表の署名とオイレンブルク伯爵の蝋印(ろういん)が押されています。その後3年後に批准が結ばれる時の批准書には、「源家茂」と記した将軍の署名(ただし、おそらく自署ではない)があり、「経文緯武」の印が押されています。この印も幕末になって、こういう書類に押すために1857年に特別につくらせたものです。こうした条約書の原本は普通はなかなか外部に貸し出されたりしないのですが、今回は特別に文化財団が管理している条約書をお借りすることができました。非常に稀有な例と言えると思います。

ここは必ず見ていただきポイントですね。

保谷:条約書の他にも、条約締結に際してプロイセンの使節団から将軍に贈られた贈り物も注目ですね。徳川記念財団さんから大変貴重な資料として、その時の贈り物であるリトファニー・プレートをお借りしてきました。今回初めてプレート全点を展示します。これは白磁板に複雑な凹凸が刻まれていて、背面から光を当てることで描かれたものを見ることができる、というものです。こちらをご鑑賞いただくために専用の展示台を用意し、下から光をあてる形で展示いたします。ものとしては王立の製作所でつくられたもので、ヨーロッパでも有名なものでした。ですから、美術工芸品としても面白いですし、プロイセン側が自国のどういった風景を将軍に見せようとしたのか、という視点で見ても興味深いですね。

専用の展示台で映し出されるドイツの風景・・・期待が高まります。

保谷:一方で、使節団が日本から持ち帰ったものも展示します。『源氏物語』や最近美術史の世界で注目されている『月王乙姫物語絵巻』などが今回ドイツから里帰りします。またちょっとしたエピソードですが、当時外国奉行の下で翻訳に携わっていた福地源一郎のオランダ語の解説が2通出てきたので、うち1通は原本を展示します。その中に源氏物語の解説などが入っていました。

お宝が目白押しですね。さて、条約締結後、今度は日本から竹内(たけのうち)使節団がプロイセンに派遣されますが、この派遣はどういった目的だったのでしょうか?


竹内使節団の主要メンバー集合写真(東京大学史料編纂所蔵)

保谷:少し話がさかのぼりますが、条約交渉の中で「後で開きますよ」と約束していた江戸・大坂・兵庫・新潟などを、もう少し待ってほしいと西欧各国へ伝えることが目的でした。「開市開港延期交渉」と言ったりもします。ただそれだけではなくて、ヨーロッパへの初めての訪問ですので、向こうの実情、特に軍事的な面の情報をとってくることも竹内使節団の重要な仕事でした。実際に彼らの報告書と言われているものも展示します。プロイセン側も日本人を見るのはほぼ初めてなので、ベルリンでは「日本人は宮廷で這って進むらしい」という情報が伝わっていて、このような絵が描かれたりします。


「ベルリンの日本人」(部分)(当館蔵)

これは完全に中国の清王朝のイメージですよね。

保谷:使節団が来ていない段階のものなので、まだ日本人がどんなものか分からないから、中国人の絵を描いちゃうんですよ。もちろんケンペルやシーボルトから日本の情報を得ているはずですが、日本人自身がやって来るのはほとんど初めてですので。

竹内使節団はきちんと国際法にのっとって、将軍からの信任状を携えてきます。彼らを日本の使節としてちゃんと受け入れてくれ、という内容なのですが、徳川家茂の国書であるという点が非常に面白いです。先にふれた条約書の原本とこの徳川家茂の信任状は、外交史だけではなく当時の幕末史を考える上でもお宝です。これは見過ごせない!

どこが重要かというと、信任状は相手に対して贈るものですから、国内では絶対に残らないものなんですね。そして、将軍は「お手紙書きます」といって親書を書くことがおそらくなかったので、信任状のように使節が直接持って行く形でしか国書が残ってないんですよ。そういう珍しいものですので、ぜひご覧いただきたいですね。

展示場で要チェックですね!

第3回に続く